第769話 【デルタ∴サイン】すべてはここからはじまった⑦
魔王アリスの復活は徐々に世界中の話題となる。
この時、既に邪神を打ち倒したメンバーの一人であるという事実は消え去り、凶悪な魔王が復活したという噂ばかりが広がる。
その噂は次第に魔族が人間を滅ぼすとさえ囁かれ、人々の警戒心を強める結果となった。
魔族はかなり少数―――
アリスは世界中の虐げられている魔族をその足で集める旅に出る。
そして、同時に彼はマリアを探す旅でもある。
配下の魔族達にもマリアのことは聞いたが、誰一人それを知る者はいなかった。
聖王国にマリアの石像があることをアリスは知らない。
"ずっと一緒。"
マリアのその言葉を思い出し、彼は進む。
そして、その旅の中、彼は後の六魔将となるリカントやサンドル、ハイロン、アドラメレク、モレクと出会い彼らを配下として従える。
人間との戦争も幾度となく行い、その勢力を拡大していくことになる。
しかし、アリスは必要以上の戦闘は避けてきた。
人間との確執をこれ以上深めたくないというのが本心だった。
何度も話し合いで解決しようとした―――
だが、人間達は聞く耳を持たない。
我々が魔族だからだ。
この時代は戦争の時代ともいえる。
魔族と人間だけでなく、亜人や人間同士の戦争も絶えなかった。
そして、旅を続けるうちに人間達の間である教典が使われていることを知る。
『アーク教典』。
女神アークを信仰する教団『アーク教団』の教典。
禍々しい黒色の分厚い本。
アーク教典と契約した者はその姿が異形の者となる。
それを知る者はごく一部の者だけ。
その姿はアリスのかつて見た邪神と同じ―――
邪神は全て根絶やしにしたハズ。
それが何故、再び現世に現れたのか―――
旅の目的にアーク教典の殲滅も追加された。
アリスがアーク教典の出どころを探すにつれ、幸か不幸か彼はマリアの所在地へと近づいていった。
「マリアは聖王国にいる―――」
十数年の旅の末、アリスはその情報を手に入れるに至る。
そして、彼は世界中を回り、今の世界のリアルを知ることになる。
その事実を知ったら、アリスは聖王国を目指す。
マリアは既に教会にとって信仰の対象となっていた。
女神アークを愛する聖女の石像として、教会に置かれている。
それを魔族が奪いに来ると聖王国中に知れ渡る。
こうなってしまえば、人間と魔族は全面戦争に発展してしまう。
アリスは話し合いでマリアを返してもらおうと試みるが、いつものように聞く耳は持たれない。
「また避けることはできないのか―――」
マリアをこのままにしておくことはできない。
それに聖王国は既にアーク教典がいくつも流れているらしい。
魔王軍は聖王国と全面戦争することに決めた。
コレは歴史にも名高い大戦争となる。
魔王軍を神殿騎士が全力で対抗する。
当時の第一騎士団団長とアリスは互角レベルでやり合った。
久しぶりの激戦でアリスも高揚感に浸る。
この戦争で色々あったが、結果として、魔王軍はマリアの奪還に成功する。
お互いかなりの痛手となる。
この時代の六魔将は現代よりもまだ弱く、神殿騎士は逆に戦争の時代を生きておりお互いの力としては拮抗していた。
この戦争で魔族の脅威は世界中が認識することになる。
マリアを連れ帰ったアリス。
「やっとこの時が来た―――」
「随分、待たせてしまった・・・。」
「始めてくれ・・・。」
アリスはマリアの石像を見つめる。
これから邪神の王の呪いを解除する。
アリスの時と同様にピキピキと音を立てて、石の破片が割れた。
「・・・っ!?」
「マリア・・・!!」
「アリス・・・!?」
二人は涙を浮かべながら、抱きしめ合った。
魔族と人間―――
「マリア、再会できて嬉しい!!」
「もう離さない―――」
「離したくないっ!!」
「うん、私も会えて嬉しい!」
「こうして、アリスを感じられて嬉しい!!」
アリスとマリアは500年の時を経て、再会し、結ばれる。
この後、マリアはアリスの嫁として迎えられる。
魔王の妻が人間の女、それも聖女。
もし、それが知られれば他の魔族の反感を買うことになる。
だからアリスはマリアが危険にならないようにごく一部の信頼できる配下以外には、二人の関係を隠すことにした。
二人はそれから幸せな時を過ごした。
数年後、二人の間に子どもも生まれた。
それも二人。
一人は女の子で『エレナ』と名付けた。
もう一人は男の子で『シン』と名付けた。
しかし、その平和も長くは続かない。




