第767話 【デルタ∴サイン】すべてはここからはじまった⑤
~世界連合 本部~
およそ1000年前の時代、世界は邪神の脅威により絶滅の危機に瀕していた。
どこからかやってきた彼らに対抗するべく、世界各地のあらゆる種族は互いに手を取り合い、一か所に集まる。
そうした動きが邪神に対抗する組織、『世界連合』を創設した。
アリスとマリアもそこに属していた。
バルドリア崩壊から3年後~
アリスが18歳の時―――
「ついにこの時がやってきた―――」
「あの邪神に対抗する為の戦力が世界から揃いました。」
ここには世界各地の種族が揃っている。
人間や獣人のような亜人だけでなく、ドワーフ、エルフ、巨人に小人、魔族や竜人族、魚人もいる。
それぞれが邪神を危険だと考えていたが、自分達だけではどうしようもない―――
だから力を合わせて、邪神に立ち向かうことを決めた。
「邪神を打ち倒すッ!!」
「その願いは皆、同じ!!」
「今こそ、共に立ち上がりましょう!!」
集められた各種族の指導者たち。
そして、この世界連合の指揮を執るのは人間の王『アルディス・クロムウェル』。
知略と剣で人間の頂点に上り詰めた男。
その他の王として―――
獣人族 百獣の覇王『ウルフメイン』。
エルフ族 千年の翠王『リシェル-オール-ガラドミア』。
竜人族 天翼の至王『ゼルグラード-オルドラコン-ドラコミシア』。
ドワーフ族 鍛冶王『ハンマーハート』。
魚人族 海王『トリトン・オケアリス』。
巨人族 天獄王『グランバイン』。
小人族 隠者王『フィンリオ・リトルブラン』。
そして、魔族 紅血王『アリス・ブラッド』。
アリスは弱冠18歳にして既に魔族の王に上り詰めていた。
邪神との最終決戦は近い。
アリスはこの3年間、自分の力を伸ばし、邪神との闘いに備えた。
様々なスキルを身に付け、魔法も使えるようになった。
そして、信頼できる仲間も得た―――
全てはあの日、バルドリアが滅んだ日に誓ったこと。
父親と母親の仇を取るという願いの為。
「アリス・・・私も付いて行く。」
マリアがそう云ってきた。
付いて行くというのは邪神の元凶がいるとされている所だ。
「マリア、何を言ってるんだ!!」
「あそこは邪神がウヨウヨいて危険だ―――」
アリスは止める。
マリアを危険な目に遭わせたくないからだ。
「でもケガ人を治せるのは私しかいない―――」
「大丈夫、みんなに迷惑は掛けないようにするから―――」
マリアはそう云って聞かない。
マリア自身も力になりたいと思っているのだろう。
「アリス、いいじゃないか―――」
「マリアもそう云ってることだし。」
アルディスがそう云って、マリアの同行を許す。
「危なくなったら君が護ってやればいい。」
「君ならそれが可能だろ?」
「それは勿論そうだが―――」
アリスの力はこの3年で急成長を遂げた。
この世界各地の王の中でも最強と言ってもいいレベルにまでなっていた。
そんなアリスなら邪神の巣窟でもマリアを護り切ることは出来る可能性は高い。
それでも、絶対じゃない―――
「みんな戦ってる―――」
「っ・・・!?」
「そんな中、私だけ安全な所にいるなんてできないよ!!」
マリアがまっすぐこちらを見つめてきた。
その眼は覚悟がみられる。
「バルドリアが襲われた日―――」
「アリス、貴方だけじゃない。」
「私も大切な人がたくさん亡くなった。」
「私だって悔しかったのッ!!」
「だから、今回は連れてって―――!!」
「私もみんなと戦いたいッ!!」
マリアはそう云って、思いを伝える。
「分かった―――」
「マリア、力を貸してくれ。」
「共に邪神達を打ち倒そうッ!!」
アリスはマリアを護ると心から誓う。
そして、世界連合は邪神との最終決戦に挑んだ。
場所は世界の中心、後のアダムスと呼ばれる地。
元は一つの地繋ぎの大陸だった。
しかし、ここは邪神との激戦で大地が削れ、最終的には現在のアダムス島となる。
故にアダムスは始まりの島と呼ばれる。
邪神との決戦に打ち勝ち、人類が新たな始まりを迎える。
世界の王達は邪神の王を追い詰め、あと少しという所まで至る。
「ハァ、ハァ・・・」
「あと少しだ―――」
既に立っているのはアルディスとアリス、そしてマリアの3人だけ。
「アルディス、マリアを頼む―――」
「アリスっ!?」
アリスはそう云うと、最後の力を振り絞り、邪神の王に襲い掛かった。
「アリスっ―――!!」
マリアはアリスを追いかけ、手を伸ばす。
邪神の王の最後の攻撃でアリスは強烈な石化の呪いが掛かる。
その隙にアルディスは邪神の王の心臓をその聖剣で貫き、力一杯に切り裂いた。
「グオオオォォォーーー!!」
邪神の王は低い声の断末魔があげる。
闘いに勝った―――
人類は邪神に打ち勝った。
世界の平和は守られることになる。
しかし、その代償は大きかった。
「アリスっ―――!!」
「マリアァァーーっ!!」
アリスの身体は徐々に石化する。
それはもう止まらない。
「アリス、貴方を独りにはさせない。」
「な、何をしている―――!?」
アリスは驚いた顔になる。
マリアはアリスの手に、指先に触れ、同じように呪いを受けた。
マリアの身体も石化が始まった。
「私も一緒だよ―――」
「ずっと一緒。」
「あぁ、何で君まで―――」
アリスは涙を流す。
マリアを護れなかったということに対して自分を恥じた。
今だからハッキリ分かる。
自分はマリアを愛していた。
人間である彼女を心から愛していた。
そんなことをこんな土壇場まで気付かないなんて、なんて愚かなんだ。
アリスはそう後悔して、石化と共に意識が消失した。