第766話 【デルタ∴サイン】すべてはここからはじまった④
~万族の都バルドリア~
怒りが感情を支配する。
これほどまでに何かに対して憎悪を抱いたことはない。
「っ・・・!?」
「貴様は生きて帰れると思うなッ!!」
アリスはその正体不明の何かと戦闘することとなる。
父親と母親を手に掛けたソイツを赦しはしない。
「これほどの力を持った者がこんな国にいるなんて―――」
「黙れッ!!」
アリスがソイツの頭を掴み、地面へと叩きつける。
魔法を一切使うことなく、肉弾戦だけでもこれほど圧倒的な力で制圧している。
コレが怒りなのか―――
アリスは生まれて初めての感情に戸惑いを覚える。
『ユニークスキル《憤怒》を習得しました―――』
頭の中でそんな声が聴こえる。
怒りが力を増大させる。
戦闘の訓練など一切したことのないアリスが素質だけで闘っている。
「いい加減にしろッ!!」
ソイツがアリスの腕を払い、後ろへと飛び退いた。
「貴様、本当にただの魔族か・・・?」
「・・・・・そんなことどうだっていい―――」
「この国はもうすぐ崩壊する。」
「邪神である我々がやってきたのだから―――」
ソイツは自分を邪神だと名乗った。
貴様らは一体何者なんだ―――?
邪神・・・?
なんなんだ?
いや、貴様らがなんであろうと、みんなの平和を踏みにじったのは事実。
そんなことをしていいハズがない。
アリスはその邪神に飛び掛かった。
自らの戦闘センスだけに頼る戦闘。
「貴様がいくら素質があろうと、この俺がたかだか魔族に後れを取ることなど有りはしないッ!!」
邪神も反撃する。
◆◆◆◆
「そんな・・・バカな・・・!?」
バタンっ―――
結果から言おう―――
この二人の勝敗はアリスが勝利した。
命を賭した闘争の末、アリスは初戦闘で邪神に打ち勝った。
コレはとんでもない偉業という他ない。
本来、魔族と邪神には実力差に大きな隔たりが存在する。
しかし、アリスは魔族の中でも"特別"。
『真祖』と呼ばれる至高の吸血鬼。
そんな運命に選ばれた彼だからこそ、この初戦闘で勝利を収めることができた。
「ハァ・・・ハァ・・・。」
コレが邪神―――
苦戦したが、何とか勝つことができた。
血だらけで、服はボロボロのアリス。
「父さん・・・母さん・・・。」
アリスは二人の遺体の前で涙を流す。
この屋敷で暮らした幸せの日々を思い出しながら―――
でも、現実は残酷だ。
こうしている間にも外の人達は次々と魔物や邪神の攻撃で襲われている。
「マリアは無事なのか―――?」
アリスの頭にマリアの顔が浮かぶ。
彼女だけでも助けなければ―――
そう思ってから行動が早い。
急いで、屋敷から出て、マリアがいる修道院へと向かった。
そこも既に魔物達のターゲットにされていた。
街には火の手が上がり、全体が燃え盛る。
「マリアっーーー!!!」
アリスは叫んだ。
行く手を阻む魔物達を一掃して進む。
案外弱い―――
魔物というのはこんなに弱かったのか?
いや、それとも自分が強い?
道中、冒険者たちの戦闘を横目に見ていたが、その動きの遅いこと。
アリスには止まって見えていた。
いや、油断は大敵だ。
それよりも早くマリアを見つけないとっ―――
「アリスっ―――!!」
マリアの声が聞こえた。
その近くには複数の虫の魔物が近づいていた。
「マリアっ―――!!」
「待っていろっ・・・!!」
「今助けに行くッ!!」
あぁ、そういえば初めてマリアと出会った時もこんな感じで彼女のピンチを助けていたな・・・。
「どけエエェーーー!!」
マリアに忍び寄る魔物を全て蹴散らし、彼女を抱き抱えた。
「アリス・・・ありがとう―――」
マリアは震えた声でありがとうを伝える。
突然こんな事態になり、コワかったのだろう。
当たり前だ―――
アリスは空を見上げる。
まだ上空には巨大な邪神が浮かんでいる。
「アイツが元凶なのか・・・?」
「アリス、これから私達どうなっちゃうのかな?」
マリアがそう聞いてきた。
あの上空のヤツを倒したいが、今はマリアもいる。
それにあそこまで飛んでいくのも難しいし、倒す術も持ち合わせていない。
悔しいが、ここは退くしかない。
アリスは逃げることを選択した。
マリアを抱き抱え、そのまま国を脱出する。
父さん、母さん、いままで育ててくれてありがとうございます。
きっと僕は貴方達の仇を取ります。