第762話 【デルタ∴サイン】いつかのあの日のように
~アダムス エデンの園~
アリスとシンの立ち合い。
500年越しの真剣勝負。
「あの霊園では、お互い本気でやれなかったが、今回は違う。」
「本気の殺し合いだ―――」
二人は以前、魔族の霊園でも闘っている。
その時はシンが手の内を晒す前に退いている。
そんな苦い前回の記憶などなかったかのようにシンが勢いよく斬り掛かる。
この時、この瞬間を心待ちにしていた自分がいる―――
アリス―――、アンタを殺す瞬間をねッ!!
「《魔王の波動》!!」
「ッ―――!?」
アリスは自分の身体から闇の闘気を解放する。
全盛期の魔王アリスを彷彿させる―――
いや、寧ろそれ以上っ!?
シンはそれを感じ取る。
死んで未央に憑依して、パワーアップしている?
シンはアリスの闘気に気圧され、後ろへ引いてしまう。
「あんな闘いを見せられてしまった後だ―――」
「年甲斐もなく、身体が疼いて仕方なかった。」
進や未央の闘いのことを云っているのだろう。
「《永遠の誓い》!!」
身体中の生命力が上がった?
いや、それだけじゃない―――、耐久力も向上している。
シンの魔眼が闘いの最中、分析を開始する。
真祖となったアリス―――
その能力を未央以上に使いこなす。
彼は言うなればキャリア数百年の戦闘の達人。
アリスがシンとの距離を詰める。
今度はアリスのターン。
「未央を散々斬りつけてくれたな―――」
怒りを感じているのはシンだけではない。
アリスもまた、未央の傷つく姿に心を痛めていた。
「なんだよ―――」
「実の息子より、他人の方を気遣うのかよ!?」
「やっぱり、あの時と何にも変わっていないじゃないか!!」
「あ~~、オレは不幸だ。」
「お前というヤツは―――」
顔を歪めるアリス。
シンには思う所がある。
しかし、闘いとは残酷だ。
敗者の言葉は勝者の耳には届かない。
まずはシンに打ち勝つことが必要だとアリスは考える。
「形態変化!!」
杖の形態から剣の形態に戻る。
アリスは剣の方が使い慣れている。
「暗帝剣技:黒天暗帝覇剣!!」
黒き雲が天を覆い、雷が逆巻く。
その手に握られた剣が、赤黒い光を放ち、暗帝の覇剣がシンを断ち切った。
「ぐっ・・・!?」
鈍い声を漏らすシン。
確かにダメージはある。
しかし、シンは不老不死。
すぐに元の形へと戻ってしまう。
「どれだけ威力があろうが、関係ない。」
「オレにダメージは通らない。」
「アンタならそれは十分に理解しているハズだろ?」
確かにアリスは強い。
恐らく、この世界でもトップレベルに強いと云ってもいい。
それでもシンを倒せない。
「余はさきほどのお前たちの闘いを見ていたんだぞ―――」
「いかにお前が不老不死だろうと勝てないとは考えていない。」
先ほどの闘い・・・?
まさか―――
進がやったような相手に死をイメージさせる方法?
それとも未央が行ったような相手を出て来れない場所へ封印する方法?
どちらも失敗に終わったが、不老不死の相手を攻略する手段としては間違っていない。
「まさか、進や未央と同じ・・・」
そう言いかけたシンを他所に余裕な顔のアリス。
「フフン・・・」
「どちらでもない。」
「余は余のやり方で貴様に勝ってみせる。」
自信に満ちている―――
どこからそんな自信が・・・。
シンは疑問を抱く。
昔からそうだ―――
自分の道は間違っていないと圧倒的なカリスマ性で部下を従え、その覇道を進む。
この男はそういう男だった。
だから母さんは・・・!?
「アンタがそんなんだから―――」
「母さんは・・・!?」
シンが過去を思い出し、その怒りをアリスへ向ける。
「マリアのことか―――」
「アレは悲しい事故だ―――」
「誰のせいでもない。」
「違うッ!!」
「アンタが原因だッ!!」
「アンタが母さんをしっかり守っていればあんなことには―――」
余のせいか・・・。
確かにシンの言う通りかもしれない。
だが、それを後悔した所でマリアは救われない。
それにマリアが生き返る訳ではないんだ。
フッ・・・まぁ、それを死人の余が云う話ではないか―――
それよりも今を生きる者を助ける事―――
その方が遥かに重要。
きっとマリアもそれを望むだろう。
だから、シン・・・余はお前も救ってみせる。
未央と出逢ったのも、もしかしたらお前のことを救う為にマリアが起こした奇跡なのかもしれない。