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第744話 【デルタ∴カラミティ】クロヴィスでは②


~獣人の国 クロヴィス~

 

 もし、もう一度貴方に会えるならと切望していた。

 

 けれども、それはこんな形じゃない。

 

 静寂の暗殺者サイレント・キル―――

 

 

 赤目の気配が完全に消える。

 

 静寂の暗殺者サイレント・キルは自分の気配を完全に消す能力。

 

 静寂の暗殺者サイレント・キルの前では五感で得られる情報は意味を為さない。

 

 初撃は静寂の暗殺者サイレント・キルを使用していなかった。

 

 もし、あそこで使用(つか)われていたなら、そこで勝負は決している。

 

 恐らく、アンデッドの生存本能のようなものが、私の脅威を感じとり、赤目さんに使わせたんだ。

 

 赤目さんも今、アンデッドの本能と戦っている。

 

 だから私も戦わなくちゃいけない。

 

 百鬼は仕込み杖から刃を抜き、身構える―――

 

 油断すれば一瞬で命を持っていかれる。

 

 赤目の戦闘スタイルは知っている。

 

 いつもそばで見てきた―――

 

 どこから来る?

 

 冷静に目に見える情報を頭の中にインプットする。

 

 そして、思考を研ぎ澄ませ、赤目の思考を読もうとする。

 

 周りは遮蔽物などない、平地。

 

 背後に岩壁の一つでもあれば、それを背にして戦いやすく出来ただろうに。

 

 それはここではできない。

 

 前だけでなく、背後にも気を付けながら赤目が現れるのを待つ。

 

 静寂の暗殺者サイレント・キル―――

 

 百鬼の前に赤目が現れた。

 

 その状態は近くでも見るとより悍ましく、痛々しい。

 

 既に肉は腐りかけ、骨が肉から飛び出ていたりしている。

 

 そんな状態になりながらもアンデッドとして闘いを強制されている。

 

 でも、そんな同情を持ち込んでしまえば、赤目にやられる。

 

 百鬼は抵抗しなければいけない。

 

 赤目の鉄貫が百鬼の首筋を掠める。

 

 一瞬反応が遅れてしまえば、今のでやられている。

 

 百鬼は即座にカウンターの一撃を赤目に繰り出す。

 

 「今、楽にしてあげますから―――」

 

 静寂の暗殺者サイレント・キル

 

 赤目が再びスゥーと姿を消す。

 

 こうなってしまえば、なす術はないか?

 

 いや、諦めるなっ!!

 

 百鬼は一瞬弱気になってしまうが、自分に喝を入れる。

 

 「擬態する気体アトモスフィア!!」

 

 百鬼も自身の能力を発動する。

 

 擬態する気体アトモスフィアは空気中に微生物を生み出し操る能力。

 

 微生物たちを使って、赤目の居所を探る。

 

 気配を消すと云っても認知できないだけで物理的には存在している。

 

 だったら辺り一帯に微生物を蒔き、それをセンサーにすればいい。

 

 「見つけました!そこですっ!!」

 

 赤目はすぐ近くにいた。

 

 百鬼はそこに向けて刃を振る。

 

 「どうですか?赤目さん!」

 

 手ごたえはあった―――

 

 「百鬼・・・避ケロ・・・!!」

 

 「ッ―――!?」

 

 百鬼は確かに赤目を斬った。

 

 これが生身の人間だったら勝負は決していただろう。

 

 しかし、相手は既に死んでいる者。

 

 痛みも無ければ、血も出ない。

 

 倒れることがない。

 

 

 赤目のカウンターが百鬼を切り裂く。

 

 肩甲骨の辺りを斬られる。

 

 本当は首を狙っていたのだが、若干狙いが外れたようだ。

 

 それでもダメージには違いない。

 

 百鬼は後ろへ下がり、態勢を立て直そうと図る。

 

 

 見誤った―――

 

 赤目さんは既にアンデッド・・・。

 

 あの程度で倒せるはずがなかった。

 

 百鬼は反省する。

 

 しかし、そんな悠長にはしてられない。

 

 すぐにまた動かなければ、赤目にやられる。

 

 静寂の暗殺者サイレント・キル

 

 「擬態する気体アトモスフィア!!」

 

 百鬼は擬態する気体アトモスフィアで対抗する。

 

 赤目の位置は把握した。

 

 姿を認知できなくても、攻撃を止めることは出来る。

 

 両者の刃が交じり合う。

 

 思えば、赤目さんと戦うのは戦闘訓練以来だ。

 

 百鬼はこんな状況なのに心の奥底では少し嬉しかった。

 

 アンデッドとはいえ、もう会えないと思っていた人と再会できたのだから。

 

 でも、そんな時間も終わらせなければいけない。

 

 「赤目さん・・・私は貴方のことを誰よりも知っています。」

 「私と貴方が真剣勝負で刃を交じり合わせれば、どうなるか?」

 「生きていた頃の貴方ならそんなことはしなかったハズです!!」

 

 百鬼はそう云った。

 

 それは勝利を確信していたからだ。

 

 

 「擬態する気体アトモスフィア!!」

 

 もし、赤目に勝機があるとしたら、初動だった。

 

 あそこで静寂の暗殺者サイレント・キルを使用していたら、やられていたのは百鬼だっただろう。

 

 様々な微生物が赤目を取り囲む。

 

 「ウっ・・・アァ・・・!!」

 

 明らかに苦しそうな赤目。

 

 静寂の暗殺者サイレント・キルは解除されている。

 

 「赤目さん・・・貴方はもう動けません。」

 「擬態する気体アトモスフィアを使って、貴方の身体の腐敗を促進させました。」

 「筋肉だけじゃない骨も形を保てない程に―――」

 

 「ア・・・リ・・ガ、トウ・・・」

 「ナギリ・・・。」

 

 それが赤目の本当の最後の言葉。

 

 「赤目さん・・・。」

 「貴方のこと本当に好きでした―――」

 

 最後に赤目は笑ったような気がした。

 

 「貴方の命は私が繋ぎます・・・。」

 「この子と共に―――」

 

 百鬼は自らの腹に優しく手を当てた。

 

 

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