第732話 【デルタ∴カラミティ】聖王国では②
~王都 聖ミラルド~
出来ないことは御姉様に頼る―――
ナデシコはそんな考え方をしている。
これまで絶え間ない鍛錬により己を鍛えてきたが、一人で出来ないことは多く、その場合周りに頼るようにしている。
今回もそれに当てはまる。
敵の外皮は硬く、自分の戦闘スタイルだけでの勝利は掴めないと今の攻防で判断した。
自分に足りない分はルミナスやベロニカが補う。
そうやってこの姉妹は今までやってきた。
「こんなガキまで戦場にやって来るなんて―――」
「ア"ァ"!?おめェーよく見たら魔族じゃねェーか!!」
「小っこいが角が生えてんなァ!!」
「魔力が小さすぎて最初気付かなかったぜェ!!」
ガーゴイルはナデシコを馬鹿にしたように大笑いしている。
完全に舐め切っている。
「不満!!」
魔力や筋力が弱いことは自分でも百も承知。
それをどう生かすかを考える戦い方を探り続けてきた。
しかし、ここまで馬鹿にされると多少は腹が立つのも事実。
「黄土魔法:ロックバースト!!」
大きな岩石を浮かべ、ナデシコに向けて放つ。
ナデシコはそれを避け、その小さな身体でガーゴイルの懐へ入る。
まずは、下腹部を殴打してみる。
男だったら、睾丸を狙えば大抵、激痛で悶えるのだが、この魔物に性別はあるのか?
まぁ、どちらでも変わらない―――
男でも女でも下腹部に衝撃を受ければ痛いというもの。
ナデシコはそう考え、ラッシュを叩き込んだ。
硬いっ!?
「ガキに多少撫でられた程度、効かんなァ!!」
さっきと同じだ。
「《石の爪》!!」
ガーゴイルの鋭爪がナデシコに向けられた。
ナデシコはその身軽さで難なく躱す。
カチカチ・・・。
地面が抉られ、削り取られている。
そして、その抉られた地面がドンドンと石化している。
どうやらアレに当たったら、自分の身体は石になるようだ。
厄介な能力―――
ナデシコはあのガーゴイルと戦っている。
ナデシコが気を引きながら、その裏で気付かれないようにルミナスが動いていた。
ナデシコ・・・もうちょっと引き付けておいて・・・。
二人は顔を見合わせて、意思疎通を図る。
二人の仲なら言葉を介さずとも相手の思っていることは伝わる。
「ちょこまかちょこまかと鬱陶しいガキだ―――」
「いい加減にしろ!!」
「《石化の視線》!!」
ガーゴイルはナデシコを睨みつける。
その視線の先が石になり始める。
「ッ―――!?」
これでは動けない。
「さぁ、簡単には殺さんぞ!!」
バサバサと翼を羽ばたかせ、ナデシコへと迫る。
その背後にはルミナスが―――
間に合ったみたい。
ナデシコは勝利を確信する。
その爪がナデシコに向けられた瞬間―――
「な、なんだ!!俺の身体が動かない!!」
「貴方の身体を糸で縛り付けさせてもらいました。」
ルミナスが背後でそう云った。
「貴方みたいな人はこれです!!」
「金の針!!」
「あ"ぁ"!?」
「何をした?」
ピキピキピキ・・・。
ガーゴイルの石の身体にひびが入る。
「俺の身体が砕ける・・・!?」
「うあああぁーーー!!」
ガラガラと音を立てて、ガーゴイルの身体は砕け、その場に消滅した。
「やっぱり、石に金の針って効くんですね―――」
縫合士のルミナス、石化治療も稀に頼まれる。
その時に気付いたのが、金を用いた針を刺すと石化が解除されるということ。
その経験から今回のガーゴイルに金の針を使用して、攻略することを思いついた。
「ナデシコ大丈夫!?」
「すぐ直すからね―――」
「不問!!」
「よし!!ルミナスさん達があの魔物を倒してくださった!!」
「我々も魔物の侵攻を防ぎ切ってみせるぞ!!」
兵士たちの士気も最高潮へと至る。
こうして、聖王国は無事に守り切れるかと思われたが・・・。
一方その裏で―――
「クッ・・・待て!!」
「その"王権"を持っていくな!!」
倒れるウィル―――
突如として現れたネオ魔王軍の黒騎士により、聖王国の王権は奪われる事態に見舞われた。
ルミナス達、メインの戦力が表に出て、手薄となった王宮内をこの黒騎士はやってきた。
護衛の兵士達では手も足も出なかった。
それほどの使い手。
ウィルも死にはしていないが、負傷してしまい、王権を取られた。
「誰か・・・アイツを止めて・・・くれ!?」
そのままウィルは意識を失ってしまう。