第73話 過去の事を夢で見て悲しくなるのはなぜか
天童 進は六魔将サンドルと戦い、全ての力を出し切っても勝てなかった。
そして突如現れたリカントと呼ばれた男が"未央"のことを新しい魔王と言っていた。
「オレの力が足りなかったばかりに、サンドルに敗けてしまった。」
「元の世界では、敗けたことのなかったこのオレが―――」
「父さんが知ったらなんて言われるかな、怒る?いやあの人はただ冷静にまるで無価値な道具を見る様に突き放すだろうな。」
幼いころから両親、主に父親からあらゆる分野の学問と格闘術を叩き込まれてきた進は誰よりも自らの父親のことを理解している自信があった。
進の父親は、若くして起業しその類まれなる才能を生かし自身の会社を日本有数の企業へと押し上げた男。
その本質は超合理主義、全て物、者を利用できるか利用できないかで判断をするような人であった。
自身の息子もその例外ではなく、自分の会社を継がせるために自ら指導を行い後継者として相応しい男にしていこうと考えていたのだ。
ただそれはある種自分の手で最高の作品を作り上げて、自らの有能さを周囲にアピールするためのものであり、決して進に対して愛情を注いでいたわけではなかった。
進は少なくともそう考えていた。
「そういえばここはどこだ?」
「また、あの時みたいに自分の精神世界か?」
進は周囲が真っ暗であることに気が付いた。
すると、目の前に突然、懐かしい感じのする公園の景色に変わり、そこには10歳くらいであろうか一人の少年が複数の子供たちに虐められていた。
少年は無抵抗に虐められており、進が止めに入ろうと思ったが体は動かなかった。
決して恐ろしいとかではないのだが、体が動かない。
そんな時、一人の少女がその虐められている少年を庇うようにして現れた。
「ちょっとあんたたち何寄って集って進ちゃんを虐めてんのよ!」
「ああ、あれは昔のオレと未央だ―――」
「てことはここはオレの過去の記憶か・・・。」
虐めていた一人の少年が未央に対して、言った。
「俺らはそこの進君と遊んでいただけだぜ!」
「邪魔だから、女は早く帰りな!」
「あっ、それとも、お前にも俺らと遊んでもらおうか?」
ゲラゲラとその少年たちは笑っている。
そして、その少年たちはニヤニヤしながら未央に迫る。
「ああ、この時オレは未央に守ってもらっていたのか...」
「あれこの後、オレと未央はどうなるんだっけ?」
大抵のことは一回覚えたら忘れることのない進だが、何故かこの時の記憶が薄れていることに気付き疑問に思った。
進がどうなるんだっけと考えているところで目が覚めた。
目を覚ますとそこは見慣れた宿屋のベッドだった。そして、何故か進の瞳からは涙が流れていた。
「オレは一体どれくらい寝ていたのか・・・。」
「皆は!?」
そこには、進が眠っている間ずっと看病をしていたのであろう。
マリーが椅子に座りながらうたた寝をしていた。
オレの声に気が付いたのか、ハッと目が覚めたマリー。
大粒の涙を流しながら、オレに抱き着いてきた。
「ススムさん!ススムさんだ!」
「良かった生きてる!」
「フッ、オレが死ぬわけないだろ。」
「何せ"天才"天童進なんだから―――」
抱き着いたマリーの頭を撫でながらオレはそう返した。
暫くして涙も収まり、落ち着いたマリーにオレが寝ていた間のことを聞く。
どうやら魔坑道での戦いの後―――
オレは死んだように眠り、フラムさんたちが頑張って洞窟の外まで運んで、転移石で戻ってきたらしい。
生き残ったのは11名で約半数があの戦いで亡くなったみたいで、一番被害があったのはフラムさんのパーティであるレッドカーネーションであった。
メンバーはフラムさんとエリアさん以外サンドルに殺されてしまった。
そのエリアさんもサンドルの魔法により、意識を奪われ現在は昏睡中らしい。
レッドカーネーションのジャンさん、エマさん、セヴランさんの葬式はどうやらオレが眠っていた間に行われたらしい。
そこにはまるで魂が抜けてしまったようなフラムさんが参加していたようだった。
エリアさんの意識を取り戻すにはどうやら一年以内にサンドルを倒さないといけないらしい。
「そうか...フラムさんが一番つらいだろうな」
「なぁマリー、俺たちパーティにフラムさんを誘ってみないか?」
「ちょうど前衛の戦士が欲しかったし―――」
「オレとフラムさんが協力すれば一年でサンドルに勝てる。」
「とオレはそう確信している。」
「何か勝つための秘策とかあるんですか?」
「フフフ...オレを誰だと思っているんだ!"天才"天童進だぞ!」
オレは勢いよくベッドから飛び降りた。
「オレに不可能なことはない!!」
「フラムさんが仲間になってくれるなら私は嬉しいです!」
マリーは両手でガッツポーズをして、フラムさんを仲間に誘うことを賛成してくれた。
「よし、では早速フラムさんを誘いに行くぞ!」
「はい!」
マリーはにっこりと返事をする。
二人は準備をして、部屋を出た。