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第726話 【デルタ∴コサイン】預言


 時はシーオスが幼少期まで遡る。

 

 「貴方にとってこの世界は何色に視えますか?」

 

 曇り空の下で、一人の神父が黄金色の髪の小さな子に尋ねた。

 

 この少年は最近よく、この小さな町外れの教会に足繁く通っている。

 

 よく教会に置いてる古びた聖書を読みに来たり、神に祈っているのを何度も見ていた。

 

 後から他の人が聞いた話では、神父から見た印象はとても大人しい少年というものだったらしい。

 

 「分かりません―――」

 

 少年は静かにそう答える。

 

 「分からない?」

 

 

 「先日、僕のおじいちゃんが亡くなったんです。」

 「最期はとても安らかな顔をして逝きました。」

 

 少年の顔は少し物寂しそうな感じだったらしい。

 

 「そうかい―――」

 「それはきっとおじいちゃんは『天国』に行ったのだね。」

 

 神父はそう答えた。

 

 「『天国』?」

 

 「そう、『天国』。」

 「人がその生を終える時、行く場所。」

 「神様がいて、そこは永遠の命と安らぎを得られる所なんだ。」

 「人はそこを目指す為に"正しく"生きているんだよ。」

 

 神父はそう話した。

 

 「そんな所があるんですね―――」

 

 少し晴れた顔の少年。

 

 それからその少年は神学を学んだ。

 

 それは熱心に学んだと聞いた。

 

 それがシーオスという男の少年時代。

 

 

 

 

 自分が他の人間と"違う"ってことに気付いたのはその辺りだった。

 

 どこかぼやけた雑音(ノイズ)だけがいつも頭に響いていた。

 

 雑音(ノイズ)だけなら我慢することが出来た。

 

 でもそれは次第にエスカレートしていった。

 

 最初は少し聴こえた声も歳を重ねるにつれ、大きな声に変わった。

 

 それに初めて来たハズの場所なのに見たことがあるということが頻繁に増えた。

 

 そして、それは場所だけに留まらない。

 

 「ハインズが死んだんだ―――」

 「シーオス、見てくれないか!!」

 

 「分かりました。行きましょう。」

 

 昔から知った顔のハインズという男が戦地から遺体でやってきた。

 

 その顔はとても無念そうな表情だった。

 

 各地で頻繁に続く紛争―――

 

 多くの命が犠牲になり、その魂が天国へと昇る。

 

 「ハインズ、貴方の行動いつも神は見ておりました。」

 「これからは安らかに眠りなさい。」

 「主は貴方を天国へと導いてくれるでしょう。」

 

 

 シーオスがそう祈りを捧げ、ハインズという若者の命は天へと還る。

 

 この顔、このシーン、この風景―――

 

 まただ―――

 

 やっぱり、見覚えがある。

 

 私の中でハインズは既に死んでいた。

 

 どういうことなのでしょう。

 

 神は私に何をお伝えしたいのでしょうか―――

 

 青年となったシーオスはそう感じていた。

 

 この違和感はついに現実のものとなる。

 

 神が自分の前に現れ、何かを言っている夢を見た。

 

  "何をおっしゃっているのですか―――?"

 

 シーオスがこの時にその夢で何を視たのか、その神から何を伝えられたのか。

 

 正式な記録として残っているモノは何もなかったという。

 

 しかし、この時からだった。

 

 自分が二人いることに気付いたのは―――

 

 「貴方は・・・?」

 

 それはベッドの横に佇んでいたという。

 

 「私は貴方です―――」

 「分かるでしょう?」

 

 自分と同じ顔、同じ声、同じ生命。

 

 直感で理解する。

 

 これは自分なのだと。

 

 その瞬間にもう一人のシーオスの記憶が共有された!!

 

 「あぁ・・・・貴方はそんな人生を歩んできたのですね。」

 

 共有された記憶では住んでいた地域に蛮族が侵略し、多くの罪なき命が奪われた記憶が入り込む。

 

 自分とは違う人生を歩んできた自分の人生。

 

 二人分の人生―――

 

 それから二人のシーオスは話し合う。

 

 なぜこんなことになってしまったのかと。

 

 そして、ある結論に辿り着く。

 

 「コレは神の意思だと認識しています。」

 

 「そうですね―――」

 「私もあの神からある"言葉"を預かりました。」

 

 「目指しましょう―――」

 「『天国』への道を。」

 

 それから彼らは色々な実験を行う。

 

 二人の記憶や経験が共有されるのであれば、二人で魔法の修行をすれば、その効率は人の2倍になる。

 

 それを試して、それが本当であることを証明した。

 

 「これはスゴイ発見ですね―――」

 「自分が増えるということはこれだけ世界が広がるということなのですね。」

 

 そんな日々を送っていると、また一人シーオスが現れた。

 

 3人目の自分だ―――

 

 「貴方もですか―――」

 

 「感覚で分かります。」

 「貴方も私なのですね。」

 

 3人目のシーオスは結婚をしており、子どもも2人いたが、流行病で妻子は亡くなったらしい。

 

 「とても辛い思いをされたのですね―――」

 

 「貴方達も同じですよね。」

 

 「・・・・・そうですね。」

 

 こうして、シーオスは3人になり、再び実験を繰り返す。

 

 そうして、来る日も来る日も実験を繰り返しては新しいシーオスが現れる。

 

 彼らは無限に近い次元があり、それぞれにシーオスがいることを理解する。

 

 彼らに共通することは皆、不幸な体験をして来るということ。

 

 そして、これが運命だと結論付ける。

 

 そんなある日、彼らの前にあの男が現れた―――

 

 「お前、オレと"同じ"だな―――」

 「興味がある。」

 

 見られた―――

 

 誰にも悟られることなく、実験を進めていたのに。

 

 この男は・・・・一体!?

 

 

 コレがシンとシーオスの邂逅だった。

 

 

 

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