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第724話 【デルタ∴コサイン】分からないって言葉で逃げたくないから


~アダムス 失楽園~

 

 あらゆる方向から来る斬撃、打撃、突撃、射撃、スキル、術式―――

 

 そして、そのどれもがハイレベルであり、高次元。

 

  "す、すごい・・・!?"

 

 キルの中にいるアルマは驚きの声を上げる。

 

 それらの技を行使するシーオスにではない。

 

 それらの技を全て躱しきっているキルに対しての言葉。

 

 シーオスの攻撃がどれだけ速かろうが、関係ない。

 

 キルは全てシーオスが"動き出す前"に動いている。

 

 まるで、そこに目掛けて攻撃が来るのを事前に察知するように。

 

 

 戦場ではそれが当たり前だったの―――

 

 どこから来るか分からない斬撃、打撃、突撃。

 

 遠距離からの射撃、魔法、スキル、術式。

 

 場合によっては背後からの暗殺もあり得る。

 

 それらから生き残る術はそこで身に付けるしかなかった。

 

 

 だから、シーオス・・・

 

 貴方の攻撃はそこまで"恐く"ないの。

 

 数百人のシーオスを前に一歩も引かないキル。

 

 これだけの実力差、物量差を物ともしないキルに次第にイラつき始めるシーオス。

 

 

 全く、この娘はイライラさせてくれます―――

 

 しかし、これも試練。

 

 私が天国へ行く為の試練―――

 

 そう思うことで、やり遂げられる。

 

 目覚めるのです、シーオス!!

 

 乗り越えるのです、シーオス!!

 

 そんな主の声が聴こえます。

 

 私を迎え入れる準備をしてくれています。

 

 

 敵の動きや癖を瞬時に理解して、インプットするキル。

 

 数えきれないほどの経験値を無限の効率で取得するシーオス。

 

 どちらの"才"が上か―――

 

 それはまもなくハッキリする。

 

 「主は常に私達を見守ってて下さる!!」

 「その大いなる力が私に力と勇気を与えてくださるのだ!!」

 「極聖槍ロンギヌス!!」

 

 

 「神なんて信じたって意味無いの。」

 「神に媚びを売っても彼らは決して助けてなんかくれないの。」

 「"自分"を救えるのは"自分の行動"だけなの。」

 

 ロンギヌスがキルの足元に刺さる。

 

 その衝撃波でキルの立っている足場が崩れる。

 

 その背後から数人のシーオスが追撃の為、迫る。

 

 それを躱すイメージは既にできている。

 

 後はなぞるように動くだけ。

 

 そのイメージ通り―――

 

 動くだけ。

 

 一歩、二歩、三歩・・・。

 

 軽やかなステップでシーオスの攻撃を避ける。

 

 まるで自分だけゆっくり時間が進む感覚。

 

 そして、反撃―――

 

 追撃するシーオスを一人、また一人と殺す。

 

 これはシーオスであって、シーオスじゃない。

 

 まるで夢の中にいるような感覚。

 

 同じ人間を何度、殺してもまた現れる。

 

 コレは本物のシーオスか?

 

 分からない―――

 

 その疑念がキルの迷いを生む。

 

 キルが神聖剣を振るう。

 

 自分の思い描いたイメージ通り。

 

 それでまた一人のシーオスを殺そうとした、その時。

 

 「それは私の想像(イメージ)通りです。」

 

 シーオスが不敵な笑みを浮かべた。

 

 キルのイメージを超えた動きをシーオスが見せる。

 

 神聖剣の軌道をなぞるように躱し、そのままキルへ反撃をする。

 

 ロンギヌスでキルの腹部に貫く。

 

 「ッ―――!?」

 

 「キル・・・貴方が私の動きを学習できるように私も別次元であなたの動きを学習しました。」

 「貴方が一発で学習できることをこちらは何万時間分のコストを掛けてしまいましたがね。」

 

 そこからは雪崩式だった。

 

 戦況を覆そうと、キルは無理矢理ロンギヌスを引き抜き、距離を取ったが、シーオスが追撃の手を緩めない。

 

 こっちは一人に対して、シーオスは無限大。

 

 キルのスタミナが無尽蔵だろうが、無限の達人は殺しきれない。

 

 「ッ―――!!!!」

 

 キルがシーオスの攻撃を受け続ける。

 

 数百回に一回、数十回に一回、数回に一回・・・

 

 その頻度は徐々に増え、一発一発がキルの体力を確実に削る。

 

 しかし、キルは決して、声を上げない。

 

 痛がって見せたりしない。

 

 相手に弱みを見せない。

 

 それが彼女の"意地"だから。

 

 神なんかに決して頼ったりしない彼女の"鋼鉄の意思"だからだ。

 

 「いい加減諦めたらどうですか?」

 

 シーオスがまだ何百人も残っている。

 

 まぁ、ここにいるのは数百人だが、やろうと思えばもっと召喚できるだろう。

 

 戦力差は圧倒的―――

 

 常人だったらとっくに絶望する戦力差だろう。

 

 でもキルは決して諦めない。

 

  "キルさん―――、どうしてそこまでやるんですか!?"

 

 アルマもそう云った。

 

 それは分からなかったからだ。

 

 どうしてここまで命を掛ける必要があるのか。

 

 「私にも分からないの。」

 

  "えっ・・・!?"

 

 「昔はもっと分かりやすくて、自分や周りの大切な人の為に生きてきたの。」

 「でも進達と出会ってから私は変わったの。」

 「あのアニキ達はどんな絶望的な状況でも決して諦めないの。」

 「それを見てたら、私も勇気を持てたの。」

 「だから戦うの!!」

 「どうしたら勝てるか分からないけど―――」

 「分からないからやらないじゃないのッ!!」

 「勝たなくちゃいけないから戦うのッ!!」

 「分からないって言葉で逃げたくないから戦うのッ!!」

 

 

 その言葉がアルマの心を強烈に刺激する。

 

 ざわつかせる。

 

 

 

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