第720話 【デルタ∴コサイン】失楽園
新を残し、先に進む一行。
ずっと薄暗い洞窟のような所を進んできて、目が暗闇に慣れて来た頃。
開けた場所に出ることが出来た。
「この先に誰かいますね―――」
徳川がそう呟く。
「誰であろうが関係ありません。」
「突き進むのみです。」
ベロニカがそう云った。
ここで時間を費やしても世界が滅亡に向かうだけ。
誰か一人でもシンを倒すことが出来れば、この次元統一の術も解ける。
敵が出てこようが、対処するのみ。
「これはヒドイ・・・。」
今度は進がそう口にする。
~アダムス 失楽園~
一行が出てきた場所―――
そこには荒廃した世界が広がる。
とても広い世界。
崖や岩が並んだ薄暗い荒野。
空はどんよりとした真っ黒な雲が渦を巻いている。
そして幾度も雷が鳴り響く。
終末の世界と言われても納得するくらいの景色だ。
「ようこそ―――」
「みなさん。」
「貴方は・・・!?」
未央が驚いた顔をする。
そこにいたのは聖王国の元司祭であるシーオス。
とても高齢とは思えぬ生命力を感じる。
聖王国にいた時は力をセーブして、その力を隠し、擬態していた。
その擬態も解き、本来の姿に変わっている。
「それが貴方の正体なのね―――」
邪悪な衣に身を包み、黒い翼を生やしている。
空を飛び、こちらを見下ろす。
まるで黒い天使―――
「堕天使ってわけね。」
エレナがそう云った。
「フフン♪」
「元々は人間でしたよ―――」
「だが、時が私を変えたのです。」
「ただそれだけのこと―――」
シーオスがそう云った。
「あの人は私が相手をするよ!!」
未央がそう云って前に出る。
以前、シーオスと決着のつかないまま終わった。
それを付けようと云うのだ。
「待つの!!」
「あの人とは私が殺るの!!」
未央の袖を引いて、キルが前に出る。
「キルちゃん・・・!?」
"キルさん・・・!?"
キルの中のアルマが心配そうにする。
"アイツはアルマにとっての特別だった彼女を殺したの"
"だから彼女の仇を取らなきゃなの。"
シーオスは神殿騎士であったアンジェを無惨にも殺した。
アンジェがアルマにとって大切な存在であると知っていながら―――
"それにアイツはアルマにとって父親のような存在だったの"
"それを他の人にやらせたくないでしょ?"
"それは・・・。"
アルマの心境は複雑だ。
シーオスには幼い頃から世話になった。
それこそ、父親のように接してもらった。
それが全て偽りだったなんて未だに信じられない。
真実は聞きたい。
アレは偽物だったのかと。
でも、それを知ってしまうのは恐い。
もしあの日々が、あの愛情だと感じたものが偽物だとしたら・・・。
"アルマ・・・勇気を出すの!!"
"人は前を向いて生きなきゃいけないの!!"
"いつまでも過去にしがみついてたらいけないの!!"
キルがそう説得する。
キルは現実をよく見ている。
現実を生きる辛さをよく知っている。
理想を口にするだけではそれは叶わないことをよく知っている。
理想と現実のギャップは誰かが埋めなければいけない。
綺麗事だけで、上手くいくはずが無いのだ。
"分かりました。"
"やりましょう。"
"私も闘います!!"
アルマも覚悟を決める。
後は他の連中だ。
「キル―――」
「一人でやれるのか?」
進がキルに向かってそう云った。
キルが頭に人差し指を向ける。
「一人じゃないの―――」
「アルマもいるの。」
「っ・・・!?」
「そうか―――」
「絶対に死ぬなよ―――」
進はそれ以上は言わない。
キルの眼を見て、シーオスの相手を任せようと判断した。
「えっ・・・!?」
「でもキルちゃん一人じゃ心配だよ。」
未央がそう云った。
「未央、ここはキルに任せよう。」
「未央はこの先にいるシンの相手をする為にも体力を温存してくれ。」
「それがここまで闘ってきたみんなの為でもあるんだ。」
「わ、分かったよ。」
未央はそう云うと、最後までキルの方を見ていた。
進達は先を急ぐ。
「フフっ、素直に行かせると思いますか?」
シーオスが先に行こうとする進達に攻撃をする。
キンっ!!!
それをキルは間に入り、阻止する。
「シーオス!!」
「貴方の相手は私なの!!」
「貴方程度が私の相手?」
「身の程を教えて差し上げますよ。」
キルとシーオスの闘いが始まる。