第715話 【デルタ∴タンジェント】正接
タンジェントは、直角三角形における角度の関数として定義される。
三角形ABCにおいて角Cが直角だった時、角Bをθとして辺AC、ABに対して以下のように定義される。
tan(θ)=AC/BC
タンジェントは傾きを示し、正接とも呼ばれている。
~アダムス 立体武器庫~
「こなクソ・・・!?」
新とタイアンの殴り合いが続く。
どちらも止めたりしない。
互いが一発殴れば一発受ける。
誰が決めたわけでもない暗黙のルールを守る。
気持ちいい―――、永遠に続けていたいが、コレは勝負。
アラタ、貴様を殺す気で叩かせてもらうよ!!
タイアンが決心を固める。
力を解放することの。
「ユニークスキル:技術特異点!!」
タイアンがその力を露にする。
タイアンの身体がほんのりと光る。
それの何が変わったのか新は知る由もない。
だが、明らかな変化―――
一瞬手が止まる。
警戒してしまう。
「どうしたんです?」
「怖気づいたんですか?」
まるで心を読まれたかのようにタイアンが口にする。
「そんなわけねェーだろ!」
そんなはずがないと新は否定する。
「そうですか―――」
「なら掛かって来れるハズです。」
「んなこと言われなくたって行くぜ!!」
新がタイアンへ殴り掛かる。
角度45度、速さ300km/h超、重さ推定1mt。
超人という自己暗示が掛かった拳は何物も全て自分の我儘を通すことができる。
驚異的なスキル付き。
えぇ、貴方はやはり超人の域に達している―――
だから私も本気が出せるのです。
タイアンが新の拳に目掛けて拳を当ててきた。
「ッ―――!?」
新の拳から血が噴出する。
スキルを学習するスキル『技術特異点』
その力によって、天童流剣術すら会得を可能にした。
「貴方と同じ力です―――」
少し驚いた顔を見せるが、新はニヤリと笑みを浮かべる。
「おらおらおらおらアァーーー!!」
怯んだ様子もなく、再びラッシュを繰り出す。
「それも確かに厄介ですが、私にも同じことが可能です。」
中国拳法では象形拳と呼ばれる動物や自然の形態や動きに基づいた技術を特徴とする拳法があります。
アラタ―――、私は貴方の戦闘スタイルを真似ています。
そして、学習ができるということはそれを凌駕できるということ!!
タイアンの拳が新の腹を貫いた!!
お互いが拮抗しているように見えたが、その差は徐々に開き始める。
タイアンが有利に傾き始めた。
「カハッ―――!?」
新は口から血や唾液が混じった液体を吐いてしまう。
「やはりタフですね―――」
「ですが、最早決着はついたも同然。」
「貴方の攻撃は私には通用しません。」
"アラタ~~、また困っているみたいだなァ~~!!"
"【オレ】が力を貸してやろうか?"
まただ―――
また俺の中でごちゃごちゃ言っているヤツがいる。
この声のヤツはどうやらかなり強ェらしい。
いつも喧嘩に敗けそうな時、力を貸してくれる。
だが、その度に俺が俺じゃないみたいな感覚になりやがる。
"お前は【オレ】を飼い慣らしているつもりだろうが、【オレ】は誰にも服従はしねェー"
"それはお前自身が一番分かってんじゃねェーのかァ!?"
そうだ―――、コイツは俺自身なんだ。
俺が自由を求めるのと同じようにコイツもまた自由を求める。
だからこそ、お互いが反発し合う。
"【オレ】は外に出て自由に暴れる、お前は勝利を手に出来る。"
"一体、何が不満なんだァ!?"
それは俺の力で得た勝利じゃねェーだろ!!
"何を言っている―――"
"【オレ】はお前だ、つまり【オレ】の力もお前自身の力だ"
それがよく分からねェー。
モヤモヤしてくる。
・・・力だけ寄こせよ。
"ア"ァ"!?"
"冗談言ってんのか?"
お前が俺なら俺の言うことだって聞いてくれんだろ?
"そうじゃねェー、コレはお前に気を遣って言ってんだ"
"【オレ】の力をお前が耐えられる訳ねェーって言ってんだ"
んなこと、やってみなきゃ分からねェーだろ!!
新は頑固だ。
それは新の中の怪物も知っている。
だから一つ溜息を吐き、やれやれという形で頷いた。
"しょーがねェーな!!"
"だが、無理そうなら【オレ】が出てやる。"
"お前に死なれても困るんでな。"
そう云うと、新の中の声は消えた。
その瞬間、新の身体の奥から力が溢れてくる。
ゴクっ―――
新は生唾を飲む。
止めどなく溢れる力に少し動揺する。
その変化にはタイアンもすぐに気付いた。
「それがお前の真の力か?」
タラリと汗が流れるタイアン。
"自由"の力を纏う新―――
ここからが本当の闘い。