第714話 【デルタ∴タンジェント】バチバチ
~アダムス 立体武器庫~
今のは予想外だった―――
ヤツはAIの出した答えを出す前に私に一撃を決めた―――
AIに匹敵する速度で動いた?
バカげている。
人間の脳内のニューロンは900億個と言われているが、最新鋭のテクノロジーが生み出したコンピュータのトランジスタの数は1000億個以上と言われている。
つまり、現代の科学技術は既に人間の領域を凌駕している。
私の脳内に埋め込まれた脳チップはさらに遥かその先、トランジスタ数2000億個にも匹敵する。
それをアラタは超えてきた―――
私よりも疾く動いてきた。
タイアンが倒れながら思案していると、風を切って新が追撃を仕掛けてきた。
手に金属バットのような物を持って、それを振り上げてきた。
キンっ!!
新の振り下したバットが地面に叩きつけられる。
タイアンは目を見開き、足の力だけで飛び跳ね、躱した。
空中でクルクル回転し、綺麗に着地する。
「まさか、こんな物まであるとはなぁ!!」
銃火器や刃物だけではなく、鈍器も武器として揃えていた。
日本では金属バットも武器にする文化があると聞いていた為、タイアンは事前に用意していた。
タイアンは横に置いてあった日本刀を手に取る。
そして、鞘から刀身を抜き出す。
「天童家の者は秘伝の剣術を極めると聞いた。」
「だが、アラタ―――」
「貴様は父親から見放され、それを教えてもらえていないのだろう?」
「ア"ァ"―――!?」
「そんなもん使えなくても俺は俺だ!!」
「関係ねェーよ!!」
タイアンは新の方へと駆け出す。
低い姿勢を保ち、両手でしっかりと柄を握る。
「刀とやり合うってか!!おもしれェー!!」
キィィィーーン!!
周囲に金属音が響く。
日本刀と金属バットの鍔迫り合いだ!
斬れないか―――
タイアンはそう思う。
いかに日本刀と言えども金属を斬るのは難しい。
タイアンは大きく上体を伸ばし、刀身を振り下ろす。
新は直前でその危うさを肌で感じ取る。
「天童流剣術:新月!!」
「ッ―――!?」
金属バットは綺麗に一刀両断される。
「あっぶねーー!!」
新はギリギリで躱していた。
もう少し前に出ていたら、バットごとそのまま斬られていただろう。
「それ、天童の技だろ・・・!?」
相変わらず、この技は身体への負荷が大きい。
この技を使用する為の身体作りをしていない者が使用するには危険だ。
タイアンは天童流剣術をそう評価していた。
それからタイアンは新を斬ろうと刀を振り続けるが、新はそれを躱し続ける。
まさに防戦一方。
「ちょろちょろと―――、素早いやつだ。」
ヒュン、ヒュンと空を切る。
技術特異点と統計学は深い関わりがある。
突然の人間の進化も統計学的に見れば、あり得ない話ではない。
常に一定の状態を保つ量子が存在しないように人間も常には一定ではない。
常に進化を続ける―――
しかし、その進化を自覚している人間は意外にも少ない。
自覚がある者は進化する速度が大きい。
指数的な成長が見込める。
しかし、気付けない者、気付こうとしない者はその進化が遅い。
私は自覚している側―――、そしてアラタも自覚しつつある。
自分が常人とは異なる成長を遂げていることに。
ビリ、ビリ・・・。
タイアンは再び上体を伸ばし、刀を振り上げる。
「天童流剣術:新月!!」
地面ごと一刀両断する。
「なんつー切れ味だよ・・・。」
それを新は再び躱す。
「どうした逃げてばかりか?」
タイアンが挑発する。
確かにそうだなと新も思ってしまう―――
引け目を感じていては勝負には勝てない。
「やってやんよ―――」
新は覚悟を決める。
「そうだ!それでこそ、『強さ比べ』ができる!!」
「天童流剣術:新月!!」
バチ、バチ・・・。
3度目の新月―――
タイアンも身体に相当な負荷が掛かっている。
「ウオオォォォーーー!!」
新が叫ぶ。
まとも喰らったら身体が真っ二つになってしまうだろう。
新は刀身を両手で受け止めようとする。
真剣白羽取りだ。
先ほどもやって見せたが、今度は天童流剣術でそれを実践する。
本物の殺人剣で成功する保証はどこにもない。
まさに決死の行動―――
「切り裂けろォォォーーー!!」
タイアンが気合の入った声で振り下ろす。
イケるかっ・・・!?
「ぐぅ・・・!!」
「う、動かない―――」
過去、天童流剣術を素手で受け止めようとした者がいるだろうか?
天童流剣術500年の歴史を見ても、そんな人物は一人としていない。
見せたが最後、死ぬとまで言われた殺人剣を本日初めて素手でのキャッチが成功してしまう。
「どりゃあああーー!!」
新はそのまま刀身を振り回し、タイアンの身体ごと、壁へと叩きつけた。
「ッ―――!?」
借り物の技だとしても、天童流剣術が素手で防がれるだと―――!?
「おりゃあああーーーーっ!!!」
新の攻撃は止まらない―――
好機と見るやひたすらにタイアンは殴り続ける。
こうなってしまえば、予想もクソもない。
体力のある方が有利になってしまう。
「オラオラオラオラオラオラオラァーーーっ!!!」
今度はタイアンが防戦一方になる。
「チョウシに乗るなァァーーー!!」
タイアンが反撃を繰り出す。
その威力たるや厚いコンクリの壁を砕く程の威力―――
それを身に受け、新は良い笑顔でいた。
「倒れやしねェーよ!!」
「っ―――!?」
「うりゃああーー!!」
更なる追撃―――、気持ちの籠った一発。
新の拳がタイアンの頬を抉る。
あまりの運動量に新からは蒸気のようなものが見える。
タイアンも新の一撃を受けても怯まない。
恐らく、頬の骨にヒビが入っただろう。
しかし、怯まない。
コレは勝負中だからだ―――
寧ろ、こういった勝負を求めていた。
新へ掌底が繰り出す。
新は避けない。
胸に掌底が入り、ピキピキと音を立てて骨が砕ける。
「っ!!!」
一瞬、声を出しそうになったが新は耐える。
さらに殴り合いを継続。
二人とも留まることを知らない。
バチバチとした喧嘩が続いていった。
二人の果てなき強さ比べが繰り広げられる。