第694話 【第三ゲート&第四ゲート】聖騎士 マリー & 銀獅子姫 リオン VS プリンセス クォーク & プリンセス レプトン⑥
~古城~
力任せに聖霊樹木を引き千切った―――
マリーとリオンに戦慄が走る。
クォークとレプトンが一体化し、一匹の怪物に変わった。
容姿は普通の魔族の女性に見える―――
でも明らかな異質。
今にも空間全てを飲み込んでしまうんじゃないかという存在感。
ゴクリっ―――
リオンが生唾を飲み込む。
汗がダラダラと流れる。
明らかな緊張。
「リオンさんッ!!」
「気を付けてください―――っ!!」
マリーは声を張り上げて、リオンに注意喚起をする。
そうしなければいけないと感じ取ったからだ。
ドンっ―――!!!
リオンの身体がフワッと一瞬宙に浮いたかと思うと、勢いよく遠くに吹き飛ばされてしまう。
「リオンさアアァァーーん!!」
マリーは目を大きく見開き、瞬き一つしていない。
いや、少しでも瞬きをしようものならやられてしまうと直感する。
「ハドロン―――」
「えっ・・・!?」
「貴方達に名乗る必要すらないかもしれないけど―――」
「それが今のアタシ。」
ハドロンがゆっくりとマリーに近づく―――
身体の震えが止まらない。
私が圧倒的な強者を前に震えている?
これまでの進さんとの厳しい修練を思い出すんだ。
マリーはそう心に思い込む。
思いっきり、自分の手の肉をつねる。
痛みで恐怖を克服しようとする。
でも、身体の震えは止まらない。
仕方ないので、マリーは更なる痛みで恐怖を乗り越えようとする。
自分の足に刺さっていたガラス片を思いっきり引っ張り、抜き取った。
血は思いっきり出た。
でもそのおかげで一瞬だが頭が冴える。
逆に視界がクリアになり、震えは止まった―――
「悲しいものですね―――」
「"人"というのはそうまでしないと恐怖を乗り越えられない。」
ハドロンが表情を変えずにそう云った。
「アナタは神様にでもなったつもりですか?」
まっすぐな瞳がハドロンに向けられる。
絶対に絶望なんてしない。
相手が誰であろうとマリーはそう決めていた。
「調子に乗るなよ―――」
「小娘が―――」
「アナタだって、小娘じゃないですか。」
「なんなら私より幼い―――」
「さっきの方がよっぽど可愛らしかったですよ。」
マリーは挑発するようなことを発言をする。
進さんならきっとこう云うだろうな。
そんなことを頭に思い浮かべながら―――
相手を言葉で怒らせ、隙を作る。
確か、そう教えてくれましたよね。
ハドロンは片手にフォーク、もう片方の手にナイフを持つ。
まるでこれから食事をするんじゃないかって思わせる。
でも、それは食事じゃない―――
闘争だ。
マリーは前に蹴り出した。
「超加速!!」
身軽なマリーは極限までスピードを極めた。
相手の急所をひたすら狙う戦法を取る。
非力な自分にはそう云った戦法が合っていると考えたからだ。
ハドロンの急所を見極めようとする。
ないッ―――!!
このハドロンから急所という概念は感じられない。
それどころか近づいたらやられるイメージしかない。
どうすればいいのですか?
進さん―――
迷いは動きを鈍くする。
「アナタ喰っちゃうわよ♡」
ドオオォォ――ーン!!!
ハドロンは巨大なナイフを軽々しく振り下ろす。
城内はガラガラと揺れ、崩壊する。
一体どれだけの力を解放したのだろうか。
当たったら一たまりもないだろう。
マリーは紙一重で躱していた。
ステータス的には私が十人束になっても勝てないだろう。
だったら、どうする?
尻尾を巻いて逃げ出す?
違うよ―――
立ち向かうんだ。
「喰らうのは私の方―――」
「成長を喰らう者アアァァーーー!!」
マリーはそのユニークスキルを発動する。
敵は強大、でもそれの力の差を喰らい、自分がそれを凌駕する。
それが成長を喰らう者。
まずは一太刀をハドロンの脛に斬り込む。
皮膚は硬いが、薄皮一枚と言ったくらいには斬れる。
「少し、手傷を負わせたくらいで調子に乗らないで―――」
「ッ―――!?」
斬り込んだ先に―――
マリーの眼前にハドロンが現れる。
超加速をした自分より速い?
そんなことって―――
マリーがそんなことを思う間もなく、ハドロンのフォークがマリーの腹部に突き刺さった!!
「カハッッッーーー!!!」
苦しい。
息が吸えない。
何これ・・・?
喉の奥から鉄臭い液体が上がって、口から吐き出してしまう。
血・・・?
コレは私の血・・・?
「フフっ・・・やはり、人間は脆いな―――」
マリーはその場に倒れてしまう。