第688話 【第二ゲート】召喚士 鈴谷 花 VS ダークヒーロー モブ山モブ太郎⑥
~アカデミー~
かつて異次元の覇王竜である黒を怒らせた集団がいた。
彼らを『ギアナ』といった。
その土地では侵略する異邦人を意味する言葉だった。
ギアナは侵略した国々を好き放題に荒らし、食料や貴金属を奪っていく悪党集団だった。
そんな彼らも触れてはいけない生物の逆鱗に触れ、絶滅の道を辿ることになる。
その時、偶々洞窟で寝ていた黒のいた森を焼き払った。
たった一人の少女を炙り出す為に森を焼き払ったというのだった。
気持ちよく昼寝をしていた黒はその事実を知り、激しく怒り―――
彼らのいた大陸ごと滅ぼしてしまう。
当時・・・いや、今もか―――
黒にとって善悪はない。
ただ自分の思い通りに行かないこと―――
自分の気に入ったモノが侵されることに激しい怒りを感じる。
その時、その森は彼にとってとても眠るのに最適だった場所だったのだ―――
そして、今回も自分のことを異次元の覇王竜だからといって恐れることなく対等に接してくれる花を傷つけられそうになったことに対して―――
彼は怒っていた。
「クロ・・・・?」
身体に傷はない。
不死鳥の優しい炎が全てを癒してくれた。
元より、モブ山の攻撃がどの程度通用していたのかはクロ本人にしか分からない。
「貴様―――」
「花からその汚い手を離せッ!!」
クロが鋭い目つきで睨む。
凄みがあるッ―――!!
バッ!!
思わず、モブ山が花から手を離す。
強い怒りをクロから感じる。
自分が傷つけられるよりも自分が大切にしているモノが傷つけられる方がクロは怒る。
空気が歪む―――
明らかにこの周囲の空気はヒリついてる。
「DD-ブレイク!!」
ゆっくりと近づくクロに対して先制攻撃を仕掛ける。
ガシッ―――!!
力強く握られた拳はクロの思いっきりの握力で砕かれ潰される。
「イイイィィーーーー!!」
情けない声を上げるモブ山―――
一瞬、自分が虐められていた頃の記憶が蘇る。
どうしようもない無力感―――
「僕はあの頃とは違うッ!!」
「主人公は僕なんだッ!!」
そう言葉をつぶやき、使えなくなった右手はそのままに今度は左手で拳を作る。
最大出力、全身全霊の一撃。
ここで決めなければ、僕はやられる。
「DDD-ブレイク!!」
主人公補正があるなら、この異次元の覇王竜だって倒せるはず。
絶対は僕だ―――
お前は僕に倒されるべきなんだッ―――!!
モブ山はそう強く心に思い、攻撃を繰り出す。
それはたしかに渾身の一撃だった。
今放てる最高の攻撃―――
ポスッ・・・!!
クロはそれを片手で受け止める。
「魔力圧縮―――」
グオオオォーーーンと鈍い音を立て、モブ山の腕を引きちぎった。
魔力圧縮で力をDDD-ブレイクの威力を殺し、あと力任せに腕を引きちぎる。
「ッ―――!?」
そんな凄惨な光景に思わず、花は言葉を失う。
「まだまだ・・・!!」
モブ山はそう云い、戦闘を続行する。
圧倒的な力の差を前にしても彼の心はまだ折れない。
そうだ―――、心が折れないと見るや
クロは徐々に身体を変形させる。
本来の竜の形態に戻る。
人化していると力の1/10も出せない。
「花―――」
「そこから動くな―――」
「今、そこに結界を張ったから。」
モブ山は変化するクロを見上げる。
「・・・・っ!!」
ガラドミアの時はエルフ等がいたから力を大分セーブしていたが―――
ここでなら全力が出せそうだ。
主人公補正?
そんな物が無駄であると感じる程、圧倒的な敗北を貴様にプレゼントしてやろう―――
現実は残酷だ。
弱者がどれだけ頑張ったって―――
強者には勝てない。
「《神域の息吹》」
「グオオォォォォーーー!!」
モブ山はクロの圧倒的な力で瀕死の状態に陥る。
「多少の力を持って、調子に乗ったか―――?」
「矮小な人間に有りがちな行動だ。」
「しかし、貴様は相手を弁えるべきだった。」
「この世界には手を出してはいけない存在という者がいる。」
「我もその一人だッ!!」
冷酷な眼差しがモブ山に向けられる。
その手で簡単に捻り潰すことができる。
「僕は・・・主人公だ・・・。」
「決して・・・挫けたり・・・しないッ!!」
「アンタが・・・どれだけ、強くても―――」
「ウオオォォォーーーっ!!!」
最後の力を振り絞り、モブ山は叫ぶ。
「っ・・・・!!」
クロはスゥーと鼻で大きな息を吸い込む
勝利を確信した。
この者も所詮は脆弱な存在だったと―――
自分を脅かす存在ではなかったと。
もし、今回の元凶であるシンという男が花を危険に及ぼすと云うのなら―――
もし、あの英雄がシンの討伐に失敗するのならあるいは―――
その時は我が―――
クロは心にそう決める。
「さらばだ・・・!!」
そう云い、今にも消えそうなモブ山の生命を消し去ろうとする。
その時だった。
「クロっ!!もう止めてエエェーーーー!!!」
花は大声で叫んだ。
「花・・・・!?」
とても悲しそうな顔をしている。
思わず、手の力を緩め、元の人型へと戻る。
その手には気を失ったモブ山が。
既に戦闘は終結していた。
「クロ・・・!!!」
「この人は・・・まだ生きてる?」
「あぁ、虫の息という所だが、辛うじて生きてはいる。」
「だったら―――」
「花、何をする!?」
花はここに来る前に進から渡されていた自分用のポーションをモブ山の口に注ぐ。
さっきまで自分を殺そうとしていた者を助けると云うのか?
クロは理解できない。
「クロ・・・・例え相手が悪者でもさ―――」
「命まで奪うのは間違ってると思うんだよ。」
「花・・・。」
鈴谷 花 VS モブ山モブ太郎―――
鈴谷 花の勝利で幕を下ろす。




