第682話 【第一ゲート】仕事の仕事人 六谷 五人 VS 詐取 祝呪⑥
~古びた教会~
「異常な仕事量?」
祝呪は聞き返す。
確かに六谷の雰囲気が変化した。
外的な要因、内的な要因でユニークスキルが変化することは稀にある。
この闘いで六谷にそれが起こった。
なんて不運―――
祝呪はそう思った。
スンっ―――!!
六谷が床を強く蹴り、祝呪へ飛び掛かる。
いかに力があろうが、速さがあろうが、オイラの豪運の前では無意味―――
六谷の6-シックス・ツールが巨大なハサミに変形する。
避けるまでもない。
祝呪はそう思い、動こうとしない。
しかし、それは大きな誤り。
ザクッ―――!!
「何っ―――!?」
祝呪の腹にハサミが突き刺さる。
思わず、鈍い声を上げる祝呪。
鬼気迫る表情の六谷が目の前にいる。
いつもの済ました顔なんかじゃない―――
祝呪を殺すことしか考えていないような表情だ。
どうして攻撃が当たった?
自分は祝福によって守られているハズ。
そして、ヤツは呪いによって、弱っているハズ。
それなのに何故っ?
「ここからは俺も力が抑えきれない―――」
「どうなっても知らんぞッ!!」
黒い閃光と共に六谷がその巨大なハサミを振り回す。
ザシュ!!ザシュ!!
そんな金属音を立てながら。
命を刈り取るという行為。
そんな攻撃の中、祝呪は目の前の光景に目を疑う。
「そんなことが可能なんすかッ!?」
六谷はあり得ない位のスピードで攻撃を繰り返していた。
それは人体が行える運動量を遥かに超えたもの。
例えば、今現在、祝呪に攻撃が当たる確率が1%だったとした時。
六谷は高速で100回祝呪に攻撃を当てようと試みていた。
そんなことが可能か?
99回外して残りの1回当たる為にヤツは攻撃を繰り返している?
この男は馬鹿なのか?
明らかな異常!!
合理性の欠片もない。
「脳のリミットを外している。」
六谷は言葉を続ける。
「ッ―――!?」
「異常な仕事量は脳のリミットを外して、限界を超えた運動量を可能にするスキル。」
こんなバカげた戦い方をしていたら、六谷の身体の方が持たない。
しかし、祝呪を追い込むにはこれくらい異常でなければならない。
徐々に攻撃は祝呪の身体を傷つけ、着実に祝呪を追い詰める。
その異常性に祝呪も恐れを抱き始めた。
「オイラの祝福だけじゃダメだ!!」
「呪いだ!!」
「ヤツに呪いを掛けなければッ!!」
「カース―――!」
先ほどの呪いを再び六谷に掛けようとする。
しかし、それは途中で中断された。
六谷が攻撃が激しすぎてそれどころではなかった。
使用できない!!!
深くオイラの身体が傷つけられている。
このままでは・・・・
こんな所でオイラが敗けるなんて―――
今まで奪ってきた。
どんな奴からも祝福を奪い、呪いを掛け、その絶望の顔を見て快楽を得ていた。
それなのにこの男は決して絶望することなく、オイラに立ち向かって来る。
なんなのだ?
コレは―――!?
「ウオオオォォォーーーーーっ!!!!」
ビリビリビリ―――
祝呪に鳥肌が立つ。
六谷の叫びがさらに祝呪の足を半歩後ろに下げる。
防御してもまるで意味がない。
圧倒的な力と速さで押される。
力や速さなど運の前では見劣りすると考えて来たのに―――
この男は目の前の不運を力と速さで跳ね返している。
こんな男もいるのかと祝呪は闘いの中、感じていた。
「お前が何の躊躇もなく殺せるクソ野郎で本当に良かった―――」
「俺はツイているッ!!」
ビリビリビリ―――
ひりつく戦場。
オイラはシン様の理想である次元統一することで、ありとあらゆる絶望を感じたかっただけなのに。
その心地よさが未来永劫続くことこそ、オイラの望みだった。
でもそれはもう見届けることも出来なさそうだ。
「六谷アアアァァっーーーー!!!」
祝呪が叫んだ。
最期の咆哮というヤツだ。
血だらけの祝呪がその力を振り絞り、全ての呪いを六谷にぶつけようとする。
しかし、そんな見え過ぎた動き、六谷は簡単に躱す。
そして、ハサミを何回も何回も振り払い、祝呪の身体を細かく切り裂いた!!
「カハッーーー!!!」
祝呪は鮮血を撒き散らし、床に倒れる。
「仕事人は絶対に仕事を果たす・・・・。」
しかし、六谷も既にボロボロ。
当たり前だ。
脳のリミッターを外して無事な訳がない。
祝呪が倒れたのを見たすぐ直後、彼もまたその場に倒れた。