第681話 【第一ゲート】仕事の仕事人 六谷 五人 VS 詐取 祝呪⑤
これまでの人生を"普通"に生きてきた。
そんな俺が初めて"普通"じゃない力を手に入れた。
「赤魔法:ファイア・ストーム!!」
手をかざし、詠唱すると炎の柱が巻き上がる―――
何故か自然と詠唱呪文が分かる。
不思議な感覚。
コレが魔法を使うということ?
「おめでとう―――」
「これで君も人類を超えた!!」
パチパチと拍手が聴こえる。
そこに立っていたのは社長。
"天災" 天童 真だ。
そうか、俺の手術は成功したのか。
手術、人類が人類を超える外科手術。
俺達スカウト組は皆、その手術を受けて、そして超人的な力を手に入れた。
トップアスリートを軽く超える身体能力、達人を凌駕する武器術、魔法やスキルといった超常的な力。
それらがまとめて手に入る―――
それは社長曰く『人類の進化』だと。
その日から俺の"普通"は"普通"じゃなくなった。
幼い頃、普通に暮らすことを目指してきたのに―――
心のどこか底で俺は普通じゃないことに惹かれていた。
恋をしていた。
どうしてか、高揚感が抑えきれない。
それから俺は特殊訓練を受け、どんな状況にも対応できるオールラウンダーとしての地位を確立した。
どんなことも"普通"に対応できる。
~古びた教会~
「どうっすか―――?」
「コレがオイラの真の姿。」
これが祝呪の戦闘形態?
光と闇の衣を纏う妖しい立ち姿。
戦闘力を測った時、この男は果たして強いのか?
単純な力、魔力だったら六谷の方が高いだろう。
しかし、今の祝呪はその"異常さ"が限界突破している。
「例えば、どんな硬い岩でもその拳で簡単に砕くことの出来る人間がいたとする―――」
「その男は無敵か?」
祝呪はそう六谷に問い掛ける。
「・・・・・・・。」
六谷は答えない。
「答えは"否"だ。」
「どれだけ強い人間がいたとしてもそれだけで最強にはなり得ない。」
「それはシン様も一緒。」
「最強になり得るには"運"すら味方に付けなけれならない。」
「アンタはそれがあるって言うんすか?」
六谷が逆に聞いた―――
祝呪はそんな当たり前のことをと溜息を吐く。
「やってみれば分かる―――」
そう云った瞬間、六谷が魔法陣を展開する。
「赤魔法:炎の槍」
炎の槍を創り出し、祝呪の脳天を目掛けて思いっきり投げた。
しかし、その炎の槍は祝呪を掠ることさえなく、素通りしていく。
「ッ―――!?」
六谷は驚く。
自分が狙った的を外すなどあり得ないと。
祝呪の豪運が発揮されていた。
攻撃は避けるまでもなく祝呪に当たらない。
「普通な君と異常なオイラでは天と地ほどの差があるってまだ分からないのかい?」
「これで終わりにしよう―――」
「《咒術言葉》!!」
さっきは触れただけでそのヤバさが伝わったのに今度は呪いを直接掛けてきた。
それもかなり上位のもの―――
「火も水も風も土も全てが濁るようなそんな呪いの力。」
「君も味わってくれよ―――」
そう云うと、六谷の身体に悍ましい文字の数々が浮かび上がる。
殺、死、呪、憎・・・マイナスの感情が流れる。
「うああああぁぁぁーーーっ!!」
情けない叫び声を上げる六谷。
息が出来ない。
苦しい。
ドンドン身体の体温が奪われ、力が吸われていく。
感じたこともないような恐怖が六谷を襲う。
どんなに屈強な戦士でも実態の伴わない現象には手も足もでない。
祝呪はまさにそれだ。
「《通常業務》っーーー!!」
六谷がそれすらも通常のものとしてとらえる為、通常業務を発動する。
「無駄さ―――」
「君がどれだけ普通に縋ろうとも、異常から逃げられない。」
祝呪は嬉しそうな声でそう云う。
勝利を確信したか。
余裕そうだ。
六谷は苦しんでいた。
そんな―――
俺の"普通"が通用しない。
ドサッ―――!!
六谷の身体が地面に倒れる。
生命力を感じない。
「この勝負はオイラの勝ちっすね―――」
勝負は決まったかのように思われた。
しかし、そんな六谷の身体からドス黒いオーラが放たれる。
普通では勝てない。
今の普通を捨てなければこの男に勝てない。
いつからか普通じゃないものに恋をしてしまった自分。
そんな自分に変えてしまうのが少し恐い。
「でも―――」
「ここで敗けるよりはずっといいッ―――!!!」
そして六谷が立ち上がる。
「ッ―――!?」
「オイラの呪いを受けて何故立ち上がれる?」
祝呪は驚きの声を上げる。
「《異常な仕事量》!!」
「こっからが本当の勝負だッ―――!!」
六谷と祝呪の対決最終局面。