第674話 船上
~船上~
港を離れて数時間―――
既に日は落ちて、夜になっている。
このまま航路を進めば、夜が明けたらアダムスに到着するだろう。
この船にはオレ達の他に聖王国の船乗りが乗っている。
「静かだね―――」
未央がオレの横に来る。
「眠れないのか?」
オレは未央に聞いた。
「それはお互い様じゃん―――」
「確かにそうだな。」
みんなに個室が与えられ、そこでみんなは明日に備えている。
オレは夜風に当たりたい気分だったから船のデッキにやってきた。
空は相変わらず、歪みを見せている。
このまま何もしなければ明後日にはオレ達の命はこの世界と共に消滅する。
それなのに妙に落ち着いている。
「いよいよ明日だね。」
未央は手すりに手をつき、遠くを眺める。
「ああ―――」
「明日で全部決まるんだ。」
「今までいろいろあったね。」
「ああ―――」
「最初、未央がこの世界で魔王になっていると聞いた時は本当に驚いた。」
「こっちこそ驚いたよ!!」
「進ちゃんもこっちの世界に来てると思わなかったんだもん!」
「必死だったからな―――」
「絶対に未央を見つけて、元の世界に戻ろうって決めてたんだ。」
「そっか―――」
「その割には最初にこの世界で会った時、私のこと本気で倒そうとしてたよね」
「なっ・・・!!」
「あの時はお前が本気で世界を征服しようとしてると思ったからだ!!」
「それにまさか本当に魔王やってるかどうかは半信半疑だったしな。」
「フフ・・・まぁ、そうだよね―――」
「あの時は本気で世界征服もありかなって思ってたけどね。」
「でもそれは本気で世界を良くしたいと思ってのことだろ?」
「まぁ、そうだけど―――」
未央と久しぶりにたくさん会話した。
この時間が永遠に続けばいいなと思った。
こうしている間にも人々は不安でいっぱいだろう。
自暴自棄になり、犯罪に手を染める者も少なくないと聞いた。
しかし、いつだって正しいと信じている者がいる。
各国の王達によって鎮静化は図られている。
彼らは希望を捨てちゃいない。
オレ達は彼らにとって"最後の希望"なんだ。
「絶対みんなで元の世界に戻ろうね―――」
未央はそう云って、オレにその無垢な笑顔を向ける。
「あぁ、勿論だ―――」
「ん!?」
未央が右手の握り拳を差し出す。
「っ!?」
オレはそれを見て、その拳に合わせろという意図を感じ取る。
「あぁ。」
オレは自分の握り拳を未央の拳に合わせる。
コツンっ!!
オレ達はお互いに拳を合わせた。
そして、ここに誓いを立てる。
ゴソゴソ―――
そんなオレ達の背後でなにやら物音がする。
「アイツ等ここで何やってんだ?」
聞き慣れた声もする。
「み、皆さん―――」
「し、静かに」
「わっ、わぁーーー!!」
ドサッ―――!!
みんなが一斉に転んだ。
「聞いてたのか?」
そこにいたのはマリー、リオン、新、花の4人だった。
4人も眠れなかったのだろうか。
夜風に当たりに来たらオレ達がいたと言った所か。
「ん?あぁ、天童達の邪魔したらワリィーかなって思ってな。」
新が頭を掻きながらそう云った。
変な気を使わせてしまったようだ。
「私は二人の会話を盗み聞きみたいなマネするのは良くないって言ったんですよ。」
マリーはそう云った。
根は真面目なんだろうが、実際は聞きたかったんだろうな。
眼が泳いでいる。
「私は聞きたかったぞ!!」
「てか、仲間に入れろ!!」
花はその無関心そうな目でジッとこっちを見ている。
この子は本当に好奇心のモンスターだ。
「そうだ二人だけで語るなど―――」
「水臭いではないか!!」
リオンは大きな声でそう云う。
「フフ・・・それもそうだね!!」
「せっかくだし、みんなで話そっか!!」
未央が楽しそうにそう云った。
明日が最終決戦だと思えない位、穏やかな時間をオレ達は過ごした。
なぁ、シン―――
オレはお前が壊そうとしているこの世界を絶対に守るよ。
絶対に仲間を死なせない。
お前の野望は打ち砕かせてもらう。