第672話 サミット⑥
~聖王国 王城内通路~
これはほんの好奇心だ。
自分と同じような理想に燃えた若き王がこれほどまでに信用している人物とは何者なのか。
話には聞いている。
短い期間でいくつもの国々を救っている英雄と呼ばれる少年。
一度会ってみたい。
そんな欲望から―――
結局、付いて来てしまった―――
眼の前に先行するウィルと小春姫。
小春姫が英雄殿にお会いしたいと要望し、ウィルはそれを英雄殿に掛け合った。
結果として、すんなり会うことはできそうだ。
「突然の申し出ですのに・・・対応して下さりありがとうございます。」
小春姫が丁寧なお礼を口にする。
アーサー王も小春姫もゲストなのだから、その程度の要望であれば叶えるのは当然。
寧ろ、世界の命運を握っていると他の王達が言っている者がどんな者なのか目にしておきたいと思うのが普通だ。
「ここです―――」
こうして、案内された部屋のドアをウィルが開ける。
「ッ―――!?」
二人は驚いた。
部屋を開けた眼の前に映った光景は進が片手で逆立ちをしているというものだったからだ。
まさか鍛錬中だった?
「これは失礼した―――」
「まさか英雄殿の鍛錬をしている所だったとは・・・。」
片手の逆立ちで自らの体を支えていると思ったら、手は床から少し離れている。
そして、そこから僅かながら魔力を感じる。
「まさか・・・自らの魔力を操作して浮いている?」
スッ・・・!!
綺麗なフォームで足を下げた。
今まで逆さだった身体を正常に戻す。
客人の登場を出迎える為。
「えぇ―――、微力な魔力を放出することで身体全体を支えていました。」
「こんな時まで鍛錬を欠かさないなんて、素晴らしい人だ。」
そんな進をアーサーは褒めたたえる。
しかし、進にとってこれは当然のルーティーンに過ぎない。
「こんな時だからこそ、いつも通りのことをするんですよ。」
今がどんな時か十分に把握している。
それでもなお、落ち着き、冷静でいる。
それが何より大切であると信じているからだ。
「それでオレに用とはいったいどんな要件でしょうか?」
進が試すような顔でそう云った。
「こちらの小春姫がぜひ進さんに会いたいとおっしゃられたのでこちらに案内しました。」
ウィルが紹介をする。
大して進と年齢も変わらないだろう。
そんな少女が進を前に何を感じ取るのか。
「初めまして、私はオリエンシャルペイの小春です。」
とても礼儀正しい。
周りから大切に育てられてきたのだろう。
「知っていると思いますが、オレは天童 進―――」
「みんなからは英雄と呼ばれている者です。」
本当に歳下なのか?
アーサーはその立ち振る舞いにそう思わざるを得なかった。
生き物として絶対的に我々と異なる。
「・・・・・オレに何を視ますか?」
進が小春姫にそう云った。
小春姫は進の方を真っ直ぐと視る。
「美しく、それでいて鋭い一振りの刃―――」
それはまるでオリエンシャルペイのサムライが武器としている刀。
小春姫は進からそれを感じ取った。
「貴方はどうですか?」
進がアーサーの方を見て、そう云った。
それはどういう・・・・
っ・・・!?
アーサーはそう思い、進の方をもう一度しっかりと視る。
大きく眼を見開き、感想を改める。
自分より二回りは歳下の少年から巨大な影を感じ取った。
澄み切った光を一身に受けた少年の影。
ゴクリっ!!
アーサーは生唾を飲み、緊張が走る。
「アナタが只者ではない事だけは分かる。」
「これで僕が彼を推している理由が分かってもらえましたか?」
ウィルはそう云って、アーサーと小春姫に同意を求める。
「オレの実力が知りたいならいつでも大丈夫ですよ。」
進はそう云って二人の顔を見る。
いつでも大丈夫と云うのはいつでも手合わせをするという意味。
何なら正式な試合でなく、不意打ちだって構わないと考えていた。
「いえ、必要はありません―――」
「私は納得しました。」
小春姫は納得した顔で、その場を後にする。
「ふぅーー!!」
ウィルは深く息を吐き出す。
ようやく、世界が一つにまとまった。
これでシンと闘える。
「それでは改めてこれからよろしくお願いします。」
ウィルはアーサーにそう云った。
そして、握手を求めて手を差し出す。
アーサーも笑顔でその握手に答えた。