第662話 世界各地②
~エアルベア 王都~
南大陸に存在する人間たちの国『エアルベア』。
総人口1千万人を超える南大陸一栄えている国。
物流も盛んに行われ、中央大陸を繋ぐ海路はここ数十年で目覚ましい発展を見せている。
金属、食料、動植物、繊維品に始まり―――
宝石、魔石、呪文書のような高級品
珍しい魔道具まで商品が目まぐるしく流通している。
そんな国で『賢王』と呼ばれている男がいた。
名前を『アーサー-ルル-エアルベア』。
この国の王様だ。
若くして王になり、20年余り―――
優れた政策を打ち出し、彼が戴冠してからというものこの国では大きな戦争、飢饉、反乱は起こっていない。
それどころか目覚ましい経済成長を遂げ、中央大陸の国家を凌ぐほどと言われている。
「陛下―――」
「先日、聖王国から使いの者がございました―――」
「ほう、聖王国側から使いが来るとは珍しいな。」
「―――で、内容は何だ?」
「はっ!」
「内容としましては―――」
「昨今の世界情勢について、各国の代表者で話し合いがしたいと―――」
「それで開催の場所と日時を指示してきました。」
「ほう・・・。」
アーサーは顎に手を当て、髭を撫でる。
ふむ・・・。
話し合いの内容はやはり魔王軍の動向と言った所か・・・。
先日の魔導国、ブロワ王国の陥落の話は耳に入っている。
それにガラドミア襲撃も先日何度も行われたと聞く。
それらに対する対策―――
各国の協力を求める場か。
アーサーは部下からの言葉でそこまで思考を巡らせる。
アーサーからしてみたら断る理由がない。
というよりも―――
ここで申し出を断れば、その国は魔王軍に襲撃されても諸外国の援助を受けることも難しくなるだろう。
「分かった・・・その使いに伝えろ。」
「我ら、エアルベアも参加―――」
アーサーが言い切ろうとしたとき、兵士の一人が慌てて、部屋に入ってきた。
「た、大変です!!」
「陛下ッッ―――!!!」
その兵士は青ざめた顔で汗がダラダラ流れていた。
よっぽどの緊急事態なのだろう。
想像するに難くなかった。
「どうしたというのだ?」
アーサーはあくまでも冷静に振舞う。
一国の王が動揺していては国民に示しが付かないからだ。
「そ、空がっ!?」
アーサー達はバルコニーへと出た。
そして、空を仰ぐ。
どす黒い雲が天空を覆っている。
邪悪な渦が空を飲み込み始めている。
緊急事態であることは一目で分かった。
「円卓の騎士達に伝えろッ!!」
「今すぐここに集まるようにとな!!」
アーサーは真剣な顔付きで部下に指示を送る。
魔王軍の仕業か―――
急いで諸外国達と連携を取らねば最悪の事態になるぞ―――!
事の重大さをいち早く察知し、動き出す。
~ドラコミシア王国~
リザードマンが大半を占める国『ドラコミシア王国』。
古くからドラゴンに所縁のある地として有名な土地。
そして、唯我 新が初めてこの世界に来た時に訪れた国でもある。
「やっぱり、何かおかしいな~~」
ここはドラゴン達を飼育する小屋。
ドラコミシアの見習い騎士であるコノハはここでドラゴン達の世話をしていた。
「どうしたのだ?」
リザードマン達の部隊の戦士長であるマダラが偶々、この小屋にやってきたらコノハが困ってそうだったので、声を掛けた。
「あっ、戦士長殿―――」
「いやですね・・・最近、ドラゴン達が元気ないみたいなんすよー!」
コノハは頭をポリポリと掻いて、答える。
少し、焦った様子のコノハ。
まさか、戦士長に声を掛けられるとは思ってもいなかった。
下手したら、ドラゴン達の不調は飼育係である自分に向けられるのではないかと思ったから動揺したのだ。
「がうぅぅぅ・・・!!」
マダラとコノハが話をしている最中―――
喉を鳴らしながらドラゴンが重たそうな目蓋を開き、空を眺める。
それに釣られて、マダラとコノハも空を見た。
「アレは一体・・・!?」
「な、な、なんすかァーー!!」
「アレっーーー!!」
ゴクリと生唾を飲み込む二人。
この国でも混沌世界の影響が広がっていた。
「姫様、大変です!!」
「空が・・・!!」
急いでマダラはドラコミシアの姫であるジルダの所へ走る。
ジルダもその時既に異変に気付いており、空に向かって両手を合わせて祈りを捧げていた。
「どうか、新達に神の御加護を―――!!」
目を瞑り祈り続けるジルダ。
そして、マダラの方へ顔を向ける。
「戦士長―――」
「落ち着きなさい―――」
「我々が慌てていては民の不安を煽ることになります。」
「急いで会議を開きましょう。」
「これからどうするかについて、話し合いを行いましょう!!」
ジルダは毅然とした態度でマダラに指示する。
世界の各国がネオ魔王軍の脅威を感じながら、協力して動き出していた。