第660話 世界滅亡のカウントダウン
~ガラドミア 地上~
生殺与奪を進に握られたナブラ―――
自分の方が生物として圧倒的に上なのに、この少年に勝てるビジョンが見えない。
コレが技術の力―――?
赤目が実践したように。シンが実演したように。真が実現したように。
自分よりも脆弱な者が自分を圧倒するという逆転現象。
その集大成のような少年が今、自分を見下ろしている。
◆◆◆
~始まりの島 アダムス~
一方その頃、シン達のいるアダムスでは―――
「そろそろ始めるか―――」
シンは玉座に腰掛けている。
ネオ魔王軍は既にシンによって掌握されている。
全ての兵隊はシンの洗脳によって、意のままに操られている。
旧魔王軍の残党達はシンと云う存在に希望を持ち、アダムスに集ったが、シンはその忠誠心を疑い、全ての戦士に洗脳を掛けた。
「この世界も多少は名残惜しいですが―――」
「我々の理想の為に仕方ありませんね。」
シーオスがそう云った。
「天童 真は死んだようですね―――」
「もう一度手合わせしたかったですが―――」
「それも叶わないようです。」
タイアンがそう云った。
二人はシンの両側に立ち、この世界の終焉を予感する。
「そろそろ教えてくださってもよいのではないでしょうか?」
「何をだ?」
シーオスはシンに尋ねる。
「どうやって世界を融合させるつもりです?」
「この世界を対象に私の《転輪聖王》でも発動させましょうか?」
お互いの理想は認識しているが、具体的にシンがどうやってあらゆる時空を融合させるのかは聞いていない。
というよりもここまでシンが二人に秘密にしていた。
万が一、外に情報が洩れる可能性を極力下げたかったからだ。
「そうだな―――」
「実際に見てもらった方がいいだろうな!!」
シンが立ち上がった。
その眼はこれまで以上にキラキラと輝いていた。
まるでこれから楽しいことが起こるような期待感を出して。
「アレフ・ノート!!」
「こっちにこい!!」
アレフ・ノートがどこからともなく現れ、コクリと頷く。
つかみどころのない存在。
まるで亡霊のような存在。
「確か、霊神とか言ってましたが、何者です?」
シーオスも数多くの時空での知識があるが、アレフ・ノートという存在は聞いたこともない。
「自己紹介の時も話していたが、自分が誰か分からないらしい。」
「オレもアレフ・ノートが何者かは分からない。」
「だが、アレフ・ノートの身体を調べてスゴイことが分かった。」
「スゴイこと?」
シーオスが聞き返す。
「どうやら、この者の身体は生成と消滅が絶え間なく行われているみたいなんだ―――」
「ほう・・・それは興味深いですね。」
シーオスが興味深そうにする。
「"テセウスの船"という言葉を知っているか?」
「確かパラドックスの一つですね!」
シンの問いかけに反応したのはタイアン。
「長い年月を掛けて船の部品を全て変えた時、その船が元の船と同じものと言えるかという話―――」
「つまり、それと同じようなことがこのアレフ・ノート殿の身体にも起こっていると?」
「その通りだ―――」
「このアレフ・ノートの身体は無限を宿している。」
「その身体を媒介にオレの魔法を使用する。」
「ッ―――!?」
そう云って、シンはアレフ・ノートと共にバルコニーに出た。
そして空を仰ぐ。
複雑な呪文を詠唱し始める。
その詠唱を何分も掛ける。
徐々に足元に魔法陣が浮かび上がる。
ここは世界の中心アダムス―――
この魔法を使うにはここが適切だった。
詠唱を終えたシンは満足げに手を天に掲げた。
「極大混沌魔法:混沌世界!!」
その魔法に呼応するようにアレフ・ノートが光る。
「世界よ!!」
「刮目せよッ―――!!」
世界中の空に穴が開いた。
そしてその穴から無数の物質が飛来し、隕石のように地面に落ちてきた。
それが世界中に降り注いだ。
世界を巻き込んだ天災。
「ククク・・・・クハハハハハハっーーーー!!!」
シンは楽しそうに笑う。
「徐々にだ―――」
「徐々にこのヌバモンドは他の時空と融合を始める。」
「どれくらいで融合は完了するのですか?」
シーオスは尋ねる。
「ざっと、一週間という所だな。」
「その一週間で世界は恐怖の渦が巻き起こる!!」
「世界中が不幸を感じることができるッ!!」
恍惚な表情を浮かべるシン―――
「シーオス、タイアン!!」
「世界中に声を伝えるぞっ!!」
「オレ達の声をっ!!」
「そして、アレフ・ノート!!」
「お前はガラドミアに行ったナブラ達を連れて来いッ!!」
「既に真は死んだ!!」
「もはや奴等にオレ達を止める程の脅威はないッ!!」
シン達は部屋の奥へと移動した。
これから世界は滅亡へと向かう。
残された時間は僅か一週間。