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第657話 英雄の帰還


~ガラドミア 地上~

 

 「チッ、片腕がやられたか―――」

 

 ナブラに反撃を受けたことで真の左腕は上がらない。

 

 ヤツのダメージはヒールによって回復することが出来ない。

 

 真は残された右腕のみで闘うしかない。

 

 ナブラが暴れたことでガラドミア全体は既に崩壊しており、瓦礫の山と化していた。

 

 真は童子切を力強く握り、ナブラに相対する。

 

 戦況は一気に絶望的な状況へと逆転。

 

 しかし、真は一切絶望していない。

 

 ズンズンズンッ―――!!

 

 ナブラがその巨大な足でこちらにゆっくりと向かって来る。

 

 「そんなボロボロでまだ歯向かうってのかァ!?」

 

 ナブラがそう云った。

 

 「―――ボロボロはお互い様だろ?」

 

 真が言い返す。

 

 確かにナブラは真の静寂の月食を受けてその傷がまだ癒えていない。

 

 しかし、体力の底が真とナブラでは圧倒的にナブラの方が高い。

 

 二人がこの状態でこのまま闘った場合、真に勝ち目はない。

 

 ダウンロード&インストールはヤツを前に意味を為さない。

 

 生半可なスキルではナブラに通用しない。

 

 白魔法による回復も出来ず、静寂の月食も既に破られているとなると万事休すか。

 

 しかし、私は天童 真―――

 

 敵を前にして逃げるという選択は存在しない。

 

 刺し違えてでもヤツを倒すッ!!

 

 真は死を覚悟した。

 

 「これで終わりだっ!!」

 

 ナブラが突撃してきた。

 

 「ッ―――!?」

 

 ナブラの拳を受け止める一人の少年が現れる。

 

 「進・・・っ!」

 

 「ア"ァ"―――!?」

 

 進はナブラの腹に掌底を喰らわせる。

 

 「ウオっーー!!」

 

 単純な腕力ではなく、気の力を放った。

 

 「父さん、無事?」

 

 進はそう云って、真に声を掛ける。

 

 「よもや息子に助けられるとはな・・・。」

 「私も焼きが回ったものだ。」

 

 真は満身創痍―――

 

 進もそれは一目で分かった。

 

 「社長!!お怪我をっ!!」

 

 徳川が心配して駆け寄る。

 

 「もう、進ちゃん!!速いってば!!」

 

 未央も後からやってきた。

 

 進は妙な胸騒ぎがしていたから急いでここにやってきた。

 

 ガラドミアが謎の地震から急激に崩壊を始めた。

 

 その原因がこの巨大な鬼だということはすぐに分かった。

 

 進は戦場に帰ってきた。

 

 英雄の帰還―――

 

 幸か不幸かその初戦がこの鬼神ナブラ。

 

 「徳川、未央―――」

 「ここはオレに任せてくれないか?」

 

 真剣な眼で徳川と未央にそう云った。

 

 「・・・・・分かった!!」

 

 「進様がそう云うのであれば、この徳川見守りましょう。」

 

 未央も徳川も進に任せて、後ろへ引いた。

 

 「進・・・気を付けろ。」

 「ヤツが破壊した者は我々の治癒魔法でも回復が出来ない。」

 

 真はそんな助言を進にする。

 

 まさか、父さんがオレにそんな助言をするなんて―――

 

 進はそう思った。

 

 「分かったよ―――」

 

 「それと・・・ヤツが赤目を殺した。」

 

 父さんはそうも云った。

 

 赤目―――

 

 アイツが赤目を・・・。

 

 進は赤目のことを覚えていた。

 

 真と進は脳の記憶領域の作りが常人と異なる。

 

 それにより赤目の認識消去の影響を二人は受けていなかった。

 

 だからこそ、赤目の意思を汲み取った。

 

 「ガキが一人現れた所でおれの相手になるわけねェーだろォーーー!!」

 

 ナブラは怒りを抱いて、進に照準を変えた。

 

 ナブラがその剛腕で進に殴り掛かった。

 

 

 「―――進のコンディションはどうだ?」

 

 真が徳川に尋ねる。

 

 「進様は完璧でございます。」

 

 徳川はそう答える。

 

 グウゥゥーーン!!

 

 まっすぐ伸びるナブラの拳を進はひらりと躱し、そのままカウンターに入る。

 

 スンっ―――!!

 

 周囲には光ったように見えた。

 

 「天童流剣術:信 暁月ぎょうげつ!!」

 

 神速の一刀がナブラの胴体を切断した。

 

 「ウ・・・ウソだ!?」

 「おれがこんなガキに・・・・やられるはず・・・!!」

 

 ドオォォォーーーン!!

 

 その巨体が胴体で真っ二つになり、地に倒れた。

 

 

 

 

 虚無から蘇りし、"天才" 天童 進 完全復活であった。

 

 

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