第645話 幸せに生きるも不幸に生きるも全ては平等②
~ガラドミア近辺魔王軍拠点~
人体の限界を遥かに超えた可動領域、腕力、耐久力―――
やはり私の見立て通り、天童 真は明らかな『人間兵器』。
自分の力がこの男にどこまで通用するか。
早く決闘たい・・・。
タイアンは思う―――
対する真。
今まで、拘束されていて、武器もなければ、衣服もない。
連日の拷問で、身体のあらゆる箇所は傷痕だらけ。
コンディションは最悪。
しかし、真はそれを不公平とは思わない。
不平等とは思わない。
「本当は万全の状態の貴方と決闘たかったが、仕方ありません。」
「気にするな―――」
「闘いとは・・・勝負とは"理不尽"なもの―――」
「いついかなる瞬間でも起こりえるもの。」
「故にそれができる状態にしなければならない。」
「万全の状態でしか闘えない者など二流もいい所。」
「しかし、この天童 真は超一流だ。」
「そう云って頂けると私が救われます。」
両雄向かい合う。
真とタイアンのバトルが始まる。
お互い手刀の打ち合い、諸手の掴み合い、隙の探り合いが行われる。
それは高度な技術合戦。
両者手捌きだけで音速を超える。
間違いなく通常の人間ではありえない速度。
これがまだ様子見という段階なのだから、二人は本領を発揮していない。
数秒、数十秒と経過する中で徐々に両者のスピードも加速していく。
さらに打ち合いの最中、自然と行われる目突きや金的も両者はいなしていく。
バンっ!!
真の内払いを防御するタイアン。
「流石は中国出身―――」
「洗礼された中国拳法だな。」
「貴方こそ、中国拳法だけじゃない―――」
「空手、柔道、ボクシング、ムエタイ、テコンドー・・・他にも多くの技術が組み合わさっている。」
「古今東西のマーシャルアーツの集大成のような技術・・・ここまでの境地に至れる者が存在していたとは震えます。」
「そろそろ様子見は終わりだ―――」
「ダウンロード&インストール!!」
真は己のステータスウィンドウを開き、瞬時にボタンを押す。
「進に全てのスキルを消去されたからな―――」
「入れ直しだ。」
「そんなことさせると思いますか?」
タイアンがダウンロード&インストールをしようとする真を狙う。
「《疾風迅雷》!!」
瞬間的な加速―――
タイアンは掌底を放つ。
「そう慌てるな―――」
「天童流剣術:十六夜!!」
まさに一瞬の出来事―――
斬る瞬間が視えなかった。
タイアンの全身が斬れる。
表皮から鮮血が飛び散る。
あまりの出来事にタイアンの動きが止まる。
それはタイアンにとって初めてのことだった。
「《剣生成》、《錬金術》、《分解》、《白魔法》、《黒魔法》、《飛翔》、《転移》、《念話》。」
「まずは服だな。」
「《錬金術》―――、私に合う服を創れ!!」
真の全身に漆黒のスーツが覆う。
「ふむ・・・後は童子切だけだが。」
「概ね、天童 真の復活と云った所か。」
不敵な笑みを浮かべる真。
タイアンが手も足も出ない。
全身が震える。
しかし、タイアンは絶望しているわけではない。
寧ろ、コレは歓喜の震え。
コレが天童 真―――?
面白い!!
「《剣生成》―――」
「耐久はイマイチだが、無いよりはマシか。」
デタラメな真のスペック。
それがタイアンを突き動かす。
「ユニークスキル:技術特異点!!」
そう云った瞬間、タイアンの手が真の頬を掠る。
その技が真の眼を大きく見開かせることになる。
「ッ―――!?」
今のは、これまでとは比べ物にならない程のスピード。
力を温存していたとは言え、ここまで違うとは―――
「技術特異点―――、ある時点で爆発的に技術が向上する現象。」
「それは急速的な『進化』ともいえる。」
「私にはそれが可能。」
「それが貴様の能力という訳か―――」
「進化するのは貴方達、天童グループの特権ではない!!」
「その技術を伝えたのは国光か・・・。」
『国光 智明』―――、天童グループ 第三事業本部のトップ。
主に世界各国の軍事業務を行う。
そんな男が中国マフィアと繋がっていてもおかしくはない。
「だったらどうします?」
「ヤツの裏切り等昔から気付いている。」
「だが、ヤツは我が社に莫大な利益をもたらしてくれるからな。」
「それもここまで泳がせてきたが、少し考える必要があるようだ。」
まぁ、帰還してからのことをここで考えていても仕方ない。
それに私の見立てではヤツの身体は全身に機械を埋め込んでいる。
より効率的に人体が壊せるように改造されているのだろう。
とりわけ厄介なのは頭に埋め込んだ脳チップだな。
アレがある限りヤツの成長スピードは私を遥かに超える。
ヤツは頭にAIを飼っているような状態だからだ。
「コレで少しは闘えますかね?」
タイアンは近くに落ちていた剣を拾って構える。
この男、剣術も出来るのか?
真は思った―――
「面白い、どこまでやれるか見てやろう。」
「天童流剣術:新月!!」
「天童流剣術:新月!!」
二つの新月がぶつかり合う。
「何っ!?」
「流石に驚きましたか?」
「天童家以外の人間が天童流剣術を使えたことが―――」
タイアンは天童家の人間が長い年月を掛けて身に着ける技を簡単にコピーしてしまったのだ。