第632話 【待機&防衛組】並行天国
余は知っている―――
進と真の激闘が終わった日。
未央、お前はずっと悲しんでいた。
正気を失った進の近くで泣いていた。
ずっと泣いていた。
胸が張り裂けそうな程、お前の悲しみが余に伝わってきた。
でも、それを誰にも知られぬように―――
悲しみを表に出さないで、立ち向かおうとしている。
自分が悲しんだ顔をしていたら、進が帰って来れないと―――
笑顔で迎えようと―――
そう思っていたからだ。
余はそんなお前のことが気に入っている。
だからこそ、協力したいと思っている。
~国境付近の村 ライム~
「シーオスが二人いる!?」
もう一人のシーオスも立ち上がる。
「「並行天国―――、並行世界を自由自在に行き来することができ、その世界の自分を呼び寄せることのできる能力」」
「「並行世界の数だけ私は存在しています―――」」
「「この意味が分かりますか?」」
「異なる世界線の自分を召喚し、共に闘わせることの出来る能力?」
「「勿論、それだけではありません―――」」
「「例えば―――」」
二人のシーオスが同時に詠唱し、手から炎球を生み出し、左右の民家を燃やす。
全く、同じ魔力、同じ技術、同じ空気―――
まるでコピー。
「「もうお分かりでしょう」」
「「互いに知識・技術、能力を共有できる―――」」
「「別の世界で剣の修行をしていれば、それ以外の世界線の私も同様の技術を用いることが出来る。」」
「「別の世界線で魔法の研究をしていれば、それ以外の世界線の私も同様の知識を得ることが出来る。」」
世界線の数だけ、私は強大になることが出来る―――!!
そして、その世界線は無限大。
「「私はこの力で"神"を超えたのですよッ!!」」
その話が本当ならば、シーオスという男は恐ろしい強敵であることに間違いない。
一つの次元を滅ぼしたという話も信憑性を帯びてくる。
アリスの腹の傷は既に治癒しかかっている。
これは腹をくくらなければいけないだろう。
「その力で天国とやらを目指すのか?」
「「えぇ、そうです。」」
「「しかし、この能力だけでは足りません。」」
「「だからこそ、私はシンに協力しています。」」
「「さぁ、おしゃべりもここまでです。」」
「「続きをしましょう―――!!」」
いつの間にか、シーオスの周りにぞろぞろと別の世界線のシーオスが現れていた。
皆、同じ顔―――
同じ気配。
百人を超えるであろう、シーオスが一斉にアリスへと襲い掛かる。
一人でもあれだけ苦戦したシーオスがこの数。
個人が国家を、星を凌駕している―――
シン―――、お前はとんでもないヤツを協力者にしたようだな。
「ユニークスキル:進化の極意!!」
アリスはユニークスキル『進化の極意』を発動する。
進化の極意は自身の真祖の力を解放する能力。
アリスも本領を発揮する。
全身に高密度の魔力を帯びる。
髪は黒くなり、長さも伸びる。
そして、黒翼が背中から飛び出す。
「貴方も正体を現したようですね!!」
ここからが本当の勝負。
アリスとシーオスの激闘が幕を開ける。
「う・・・うぅ・・・!!」
シーオスに開幕、吹き飛ばされたアンジェの意識が戻り始める。
物凄い力に吹き飛ばされたと思ったら、コレは一体なんだ・・・?
眼の前の光景に目を疑う。
コレは夢か幻か―――
未央とシーオスが戦闘をしている。
しかし、何だこれは―――
シーオスが何百人もいる―――
それらが一斉に未央に襲い掛かっている。
それでいても未央がそれら全ての攻撃を受け流し、渡り合っているという事実。
「これほど私の攻撃を喰らってもまだ立っている―――」
「シンが一目置くのも頷ける力ですね!!」
アリスを前に余裕の言葉を放つシーオス。
それもそうだろう。
一人倒したくらいでは止まらない。
しかし、アリスは眼に絶望はない。
フフ・・・この時代に余をここまで追い詰める者が現れるとは―――
嬉しくなるぞ!!
そうだ―――
魔王は―――
歓喜していた。
「吸血気法:血塗れの王者!!」
「ハアアァァーーーッ!!!!!」
アリスの全身から闘気が解放される。
シーオス達はその溢れる力を前に怯む。
「私が・・・ち・・・近づけないだと・・・!?」
サクッ!!!
漆黒に輝くアリス―――
流れるような剣技が繰り出される
一人、また一人とシーオスが倒れる。
「なっ・・・!!」
ここに来て、初めてシーオスの顔が歪む。
予想以上のアリスの力に動揺した。
「これが貴方の本当の力という訳ですね―――」
しかし、すぐに平静を取り戻す。
「このままではどれだけ私が立ち向かってもやられるでしょう。」
「もっとも、数の暴力で押し切るということもできなくはないでしょうが。」
「貴方相手にそれをする必要も時間もない。」
シーオスは確信していた。
この勝負の勝者は自分だと。
「並行天国!!」
シーオスが右手を天に掲げる。
その瞬間、アリスの周りの景色は一瞬で変わる。
さっきまで目の前にいたシーオスは消え、周りに何もない漆黒の空間が現れる。
「ッ―――!?」
「フフ・・・これ以上貴方と闘っても時間の無駄と判断しました。」
「だが、貴方はやはり危険だ。」
「だから別の時空へ送ってあげました。」
「何もない"無"と化した異次元にね・・・。」
「貴方はそこで朽ち果ててください。」
シーオスは高笑いを上げる。