第622話 【待機&防衛組】着火
~エレナの魔道具店~
俺は・・・アレからどうなった?
グレガーは・・・どこだ?
「グレガアァーーっ!!」
アルマンは両目をパチっと開け、覚醒する。
「あっ、良かったです―――」
「目が覚めたんですね。」
聞き覚えのある声―――
とても安心感がある。
この声は、ルミナスさん!!
「どうやら俺はまた助けられてしまったのか―――」
ルミナスは優しい微笑みをアルマンに向ける。
ふかふかの布団の上に横になるアルマン。
全身はまだ痛む。
グレガーのヤツ、深手を与えるだけでトドメは刺していかなかった。
最初っから命を奪う気はなかったということか。
「偶然街中で倒れている所を見つけたので、ここまで運んできちゃいました。」
ちなみに武装まで含めたら100kgは超えるアルマンをここまで運んでくることができたのもルミナスの力。
本人はそのことに気付いていないが、腕力だけで言ったらそこら辺の男よりはある。
「そうですか―――」
「なんとお礼を言ったらいいか。」
「このお礼は必ずします。」
アルマンはルミナスに感謝する。
「いえいえ、アルマンさんが無事なら何よりです―――」
ルミナスは微笑み返す。
~公国領内 辺境の村~
緊迫する聖王国と公国の情勢。
そんな中、公国内の平凡な村が襲われる。
今まで当たり前だったものは当たり前ではなくなる。
外部の理不尽に対して通常、人は無防備。
平和というものは突然崩壊する。
「ギャアアアーーー!!」
村人の悲痛な悲鳴がこだまする。
「何てことをするんだ!!」
村人は言葉にする。
突然の賊の襲撃に村の安っぽい対策、装備は尽く無力化された。
相手はスキルや魔法を行使する。
ただの村人が太刀打ちできるような集団ではなかった。
「そ、その角は・・・魔族!?」
「貴様等、魔族か―――!!」
薄暗い夜、燃え盛る炎の中、薄っすらとそのシルエットが視える。
村に火が付けられる。
一気に火の手は上がり、村は燃え広がった。
家の中にはまだ生きた人達が残されている。
子ども達は泣き叫ぶ。
弱者はいつの日も虐げられる。
「・・・・人間は皆殺しだ!!」
魔族はそう云った。
「俺達が何をしたって言うんだ!!」
「脆弱なくせに平穏に暮らしている―――」
「貴様たちはそれだけで悪だ!!」
「な、なんて暴論だ!!」
村人は酷く怒りを感じた。
しかし、無力―――
この世界で物事を通したいなら力を示す必要がある。
弱者の戯言は通用しない。
その魔族の瞳が妖しく光る。
手を前に突き出し、魔力を集中する。
「ぐ・・・!!何をする!!」
村人の身体は宙に浮き、手足をジタバタするも拘束は解けない。
魔族が強く手を握り締めると村人の身体は無残にも四散する。
肉片は周囲に飛び散り、血のシャワーが周囲に降り注ぐ。
「薄汚れた血だ―――」
「後はお前たちに任せる―――」
低級の魔物が湧いて出た。
そして魔族はその場を立ち去る。
その村が焼き払われたことは数日後、公国内に知れ渡った。
生き残りが周囲の村に助けを求めたことで噂が広まることになる。
魔族が村を焼き払ったと―――
そして、被害に遭った村は一つではなく、複数あるようだ。
そのどれもが聖王国と公国の国境付近の村をターゲットにされている。
このことは聖王国内にも伝わる。
公国は恐怖した―――
聖王国の魔族が攻め込んできたと。
そう思っても仕方ない。
聖王国内でも代表者間で協議がなされたが、ウィルは疑問に思った。
本当に聖王国内の魔族が実行したのだろうかと。
現在聖王国に滞在している魔族達が温厚な性格であることは知っている。
彼らがそんなことをするとは思えない。
それにあまりにもタイミングが良すぎる。
聖王国内で公国の人間が殺害された後、すぐにこの事件だ。
誰かの思惑を感じずにはいられなかった。
「陛下―――、どのように致しますか?」
「公国に使いを送る!!」
「我らの潔白を示す必要がある!!」
ウィルは決断した。
早く手を打たないとさらに公国との関係が悪化すると思ったからだ。
自分達は攻め込む気などないことを示さないといけない。
「承知いたしました―――」
「準備を進めますが・・・」
「使いの者は誰にしますか―――」
「そうだな・・・。」
聖王国の使いとして相応しい者―――
誰にするか・・・。
ウィルは誰にするか決めかねる。
そんな時、彼女が手を上げた。
「私、行ってみたい!!」
「えっ・・・!?」
「未央さんが―――!?」
手を上げたのは未央だった。
魔王である彼女を公国へ行かせる?
とてつもない不安がウィルを襲った。