第616話 【待機&防衛組】夜襲
~王都 聖ミラルド~
未央達が王家の墓に潜っている中、王都でも動きがあった。
ファントムが魔道具による定時連絡を送る。
遠く離れた位置にいる相手と会話を行うことの出来るアイテムでとても貴重なものだ。
そして、報告の場で今日、起こった一連の出来事を話す。
にわかに信じられない出来事。
この国の魔族はとても温厚で、自分達以上の技術と戦闘力を持ってして、国を発展させている。
この国は、公国を狙ってはいない。
寧ろ、協力して手を取り合い、共に発展していくことが公国の為になると―――
そんな内容の報告だ。
信じてはもらえないだろうなと薄っすら感じてはいたが、それでも言わなければ―――
行動しなければ現状は変えられない。
だから、ファントムはこの国の正当性を熱く語った。
ひとしきり語ると、公国の侯爵らは考えさせてくれと一言。
簡単に信じることはできないだろうが、やるだけのことはやった。
後はどう転ぶのか祈るだけだろう。
引き続き、この国に残り、動向を探すように命じられた。
勿論、報酬はその分頂ける。
しかし、ファントム自身、もはや報酬よりもこの先の未来がどうなっていくのかに興味があった。
だからこそ、やれるだけのことはやる。
そう思って立ち上がる。
そんな時だった―――
事態は急変する。
グサッ―――!!
突然、何者かに背後から刺される。
「ッ―――!?」
咄嗟のことだったので、身体を捻り、宙に浮き、刺してきた相手を蹴り飛ばす。
「だ、誰だ―――!!」
刺されたのは背中。
辛うじて急所は外している。
思ったほどのダメージはない。
この国の刺客?
しかし、今日出逢った魔族達は温厚だった―――
彼らが異物を排除しようとしているとは考えにくい。
では一体誰?
「・・・・・・。」
刺客は一言も言葉を発しない。
「チッ・・・!!」
ファントムは舌打ちをして、武器を抜いた。
殺らなければ殺られる。
そう判断しての行動。
正当防衛だ、誰にも咎められることはない。
既に時刻は人通りも全くない深夜―――
街灯すらない完全なる闇。
ファントムは昔から隠密行動を生業にしている為、夜目は効く。
相手の動きや顔なら分かる。
しかし、刺客の顔は真っ暗で分からない。
恐らく、布か何かで顔を隠しているのだろう。
鑑定のスキルを使用しても相手の情報が出てこない。
ありえない―――
鑑定のスキルに対する耐性がある刺客―――
そもそも鑑定のスキルだって、この世界じゃ珍しいのに。
ここまで完璧に鑑定に対する耐性を持った者が存在している事実。
その存在が只者ではないと認識させる。
この世界にまだこれほどまでの強者がいたのか。
ファントムはそう思った。
「何者かは知らないが、俺も命を狙われた以上手加減はできない―――」
お互いに短剣を使用しての斬り合い。
「《幻影剣》!!」
ファントムはスキルを発動させる。
幻想の剣で剣の軌道を読みにくくさせる。
恐らく相手もこの闇の中でもハッキリ視えているのだろう。
この技は有効と判断。
「ッ―――!?」
思った通り、刺客は驚いた様子だ。
言葉にはしないが、様子で分かる。
このまま全力で勝負を決めてやる。
ファントムはそう決めた。
「《幻想法術『蜃気楼の連撃』!!》」
これまで培ってきた技術、魔力の集大成『蜃気楼の連撃』。
五体全てを使って、ただ一人を戦闘不能へ陥れる為の技。
数メートルという空間を支配し、四方八方から連撃を繰り出すことで相手の感覚を狂わせる。
この技は師匠の直伝―――
技術と魔力で相手を討てと師匠には教わった。
相手に幻惑の魔術を掛けて、見えないスピードであらゆる角度で切り刻む。
多大なストレスで相手はなす術をなくすだろう。
「これで終わりだ―――!!」
ファントムはそう確信する。
しかし、刺客の反応はファントムの予想とは全く異なった。
刺客は短剣を捨て、ファントムの両腕を押さえつけた。
「バ・・・バカな!!」
この超スピードが見切られている・・・?
限界まで速度を上げて、人間の領域を遥かに超えたこの技が敗れる?
ファントムは両足を刺客の顎に叩き込む。
見事なまでに綺麗に当たった―――
これでダウンは間違いない。
ファントムは確信した。
しかし、刺客は微動だにしない。
まるで大木を蹴ったのかと錯覚させるほどの感触。
そのまま刺客は力任せにファントムを地面へ叩きつける。
「クハッ―――!!」
受け身も取れず、脳が揺らされる。
しかし、ファントムも長年、戦いの場に身を置いてきた。
すぐさま立ち上がり、武器を構える。
「参ったな・・・俺も焼きが回ったか・・・?」
フラッとしたが、まだまだ戦えると思っていた。
ファントムは目を疑った。
気づいたら刺客が周りに何人もいるんだよ。
目の錯覚?
いや、違うね―――
確かにいる。
奴らは自分を取り囲んでいる。
しかも不思議なことに全く同じ気配なんだ。
気配ってのは人によって微妙に違う。
ファントムはその微妙に違う気配を感じ取れる。
だからこそ分かる。
この周りに奴らは全く同じ気配を持っている。
同一人物・・・?
そう疑う程だった。
そんなこと現実的にあり得ないのにね。
「ウオオオォォーーー!!」
もはや、逃げることも不可能。
死を覚悟したファントムの一撃。
しかし、先ほどの頭への一撃が重かったのか、距離感が狂う。
刺客の顔を空振りする。
だけど、その時―――
一瞬だけど、刺客の顔が視えたんだ。
その顔は知っている。
「な・・・なんでアンタが・・・?」
自分を襲ってきた人物があまりにも予想外の人物で驚いた。
ファントムは大きく眼を見開き、それ以上の言葉が出なかった。
冷たい眼差しがファントムを突き刺す。
そして、周りにいた刺客たちが一斉にファントムを刃で突き刺す。
「ぐあああぁぁーーー!!」
ファントムの叫びが闇夜に消える。