表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
611/779

第611話 【待機&防衛組】教会


~王都 聖ミラルド~

 

 「聖王国に来てみたが、噂通り魔族や獣人が多くいるみたいだな―――」

 

 そう呟いたのはランジネット公国から派遣された調査員。

 

 通称『ファントム』―――、周りはそう呼ぶ。

 

 本名は自分でも分からない。

 

 親から名前を貰えなかった。

 

 というより、親の顔は俺も知らない。

 

 ファントムという名前は裏社会ではそれなりに有名だと自負している。

 

 今回、聖王国が獣人や魔族と手を組んで、何かしようとしていないか調査をするという依頼を受けてここに来た。

 

 見方によっては宗教国家であった聖王国が魔族の手に堕ちた可能性だってある。

 

 何故、魔族や獣人が人間を助ける―――?

 

 ランジネット公国のお偉い方々はそこが疑問らしい。

 

 俺だって、分からない―――

 

 通常、獣人はまだしも魔族など好戦的で人間を恨んでいる者だって多くない。

 

 好き好んで人間の国家の復興に協力したりしない。

 

 個人的にも興味はある。

 

 が、今回は仕事でやってきた―――、かなり高額な報酬で依頼された。

 

 この特S級の任務は普通の冒険者には出来ない。

 

 大量の魔族が関わった国家規模の任務だからだ。

 

 だからこそ、洗練された技術を持つこのファントムに白羽の矢が立ったという訳だ。

 

 無事に聖王国に到着したが、この国以前と大分様子が変わっているな―――

 

 以前はもっと閑散として、厳かなイメージだったが・・・

 

 獣人と魔族が復興に絡んでいるからか、文明のレベルが数段上がっているかのようだ―――

 

 例えば、以前は馬車が往来を行ったり来たりしていたが、見たことのない乗り物に人々が乗って移動している。

 

 アレは馬ではない―――、動力は何だ?

 

 カラクリ?

 

 それに売られている武具や魔道具・・・見たことの無い物ばかりだ。

 

 かなり高品質と見ていい―――

 

 「コレは何だ?」

 

 街中にあるそれに疑問を持ち、捻ってみた。

 

 先端の口から水が出てきた。

 

 「ッ―――!?」

 

 まさか、コレは水か?

 

 ファントムは出てきた水を手ですくい、口を付けてみた。

 

 飲める―――!!

 

 通常、井戸や川から水は汲まれているこの世界で、こんな便利に清潔な水が出せるなんて―――

 

 バルバスの活躍により、既にこの国中は水道管が敷かれていた。

 

 この聖王国は以前の聖王国とはまるで違う―――

 

 教会が圧倒的な権力を振りかざしていただけの時代とは。

 

 クロヴィスの復興時に進から伝えられた新技術がこの国でも流布され、実践されたのだ。

 

 ボトムズから解放された大量の人材、コロシアムで飛び交っていた大量の金貨、それらを正しく運用しようとする意思―――、それらが上手く交じり合い、この国は変わった。

 

 変革に成功した。

 

 

 

 少なくとも俺が見たことのない技術ばかり―――

 

 もしこの国が敵に回ったら、ランジネット公国等ひとたまりもないだろう。

 

 ここで見たことは全て報告対象だな。

 

 問題は魔族と手を組んで何をしようとしているか―――

 

 ランジネット公国の敵になりうる可能性があるのか―――

 

 そこの見極めだな。

 

 もう少し、深く調べる必要がありそうだ。

 

 ファントムはさらに街を回ることにした。

 

~王都 教会本部~

 

 「シーオス司祭!!」

 「このままで良いのですか!?」

 

 声を荒げる教会聖職者。

 

 週に一度の議会を開く教会関係者。

 

 その席で聖王国の現状とこれからについて議論が行われていた。

 

 「いいのかとはどういう意味ですか?」

 「ギシア君―――」

 

 「我が国に魔族や獣人が入り、好き勝手している!!」

 「この現状を見過ごせと―――!!」

 

 「好き勝手など・・・言い方には気を付けなさい―――」

 「彼らは善意で復興に協力してくれているのですよ。」

 

 「それは本当でしょうか―――?」

 「私は魔族や獣人など信用できません!!」

 「他の方々もそうでしょう―――!?」

 

 ギシアは周りに座っている聖職者たちにも問う。

 

 

 その様子をテンプルコマンドのアルマンとアンジェも聞いていた。

 

 テンプルコマンドも教会聖職者の護衛として会議に同席している。

 

 今日も荒れているな・・・。

 

 アンジェはそう思っていたが、口には出さない。

 

 ここの所、いつもこうだ―――

 

 教会は教皇の不正が明るみになり、権威は地に落ちた。

 

 それでもこうして活動が続けられているのはウィリアム様の働きと聖女様の声に他ならない。

 

 あとシーオス司祭―――

 

 あの御方の人徳によるところも大きい。

 

 あの御方も国民一人一人・・・引いては世界中の人々の幸福を心の底から考えておられる。

 

 魔族達にも穏やかな心で接している。

 

 種族という枠に囚われてなどおられないのだ。

 

 「魔族だから信用できない、人間だから信用できる―――」

 「本当にそうでしょうか?」

 「彼らだって望んで自分の種族へ生まれてきたわけではないのですよ?」

 「だからこそ、種族という枠に囚われず、彼らを信じてみてはどうでしょうか?」

 「少なくとも私には彼らが悪だとは思えませんよ―――」

 

 シーオス司祭はハッキリとそう云った。

 

 今の教会は実質あの御方がトップ―――

 

 言ってることは間違っていない。

 

 あの御方がああ云ってしまえば、周りは頷くしかないのだ。

 

 「で、ですが・・・!?」

 

 ギシアもそれ以上は何も言えなかった。

 

 私もあの御方は今の教会にとって必要な人材だと思っている。

 

 今、国民に必要なのは"安心"なのだ―――

 

 信用に足る指導者の存在―――、シーオス司祭はその資格がある。

 

 だからこそ、我々テンプルコマンドはあの御方を守らなければならないのだ。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ