第610話 【待機&防衛組】労働
~王都 聖ミラルド~
「オイ!新入り!」
「早く、あっちから木材持って来い!!」
「おう!!」
親方の声がいつものように聞こえる。
なんだろう、こういった職人気質の人って、どこか血の気が多かったりする。
それにこの太陽―――
暑くて、やってられねェー!
「俺、何でこんなことやってんだっけ―――?」
バルバスは云われた通り、太く四角い木材を何本も抱えて、そんな疑問を持つ。
よくよく思い返してみる。
ガラドミアに行くチーム、魔王城へ行くチーム、ここに残るチームの3つに分かれた。
他の2つは面倒そうだったので、消去法で残ることにした。
それで毎日プラプラしていたら、ある日ここの親方にガタイの良さを見込まれて声を掛けられた。
いっちょ、この木材を持ってはくれないかと―――
かなり体つきを褒められたのでいい気になって、持ってしまったのが運の尽き―――
「おぉーー!!やるなぁ!!」
「兄ちゃん―――、ここで働かねェーか?」
「俺は魔族だぞ―――」
バルバスはそう答えた。
「あぁ?モノ作んのに人間も魔族も関係ねェーだろ!!」
「モノづくりってのはなぁ、やってみると楽しいぞ~~!!」
親方すっごい楽しそうに言うんだなコレが―――
俺は昔から何かを壊して生きてきた―――
だから作るなんてこと知らなかった。
でもやってみるとコレが案外楽しい。
魔王軍にいた時には無かった感覚だ。
戦場に出ては敵兵を壊してきた。
俺はそれが楽しかった。
でも、作るのも楽しい。
壊すより楽しいかもしれない。
って、最近思ってきたが―――
やはり肉体労働、ここ数日はかなりきつい。
復興もいよいよ大詰めになって来てみんなのやる気と熱気がすごい。
それに相まってこの太陽―――、ぶっ倒れそうだ。
「フゥゥ―――!!!」
バルバスが大きく息を吐き出す。
トロルとは言え、流石に重たい物を持ち過ぎた。
「バルバスさん―――、あのコレどうぞ!!」
「あぁ??」
バルバスは後ろから女の子に呼ばれて、思わず振り向いた。
そこにいたのはエレナの妹のルミナスだった。
手に持っていたのはバスケットに入ったクッキー。
どうやら手作りらしく、他の人にも渡して回っているらしい。
俺、コイツとそんなに接点ないのに、律儀なヤツだな・・・。
バルバスはありがとうと言って、クッキーを一つ頂く。
サクッと焼き立てのいい感触。
一瞬で口の中に甘味が広がる。
う、美味いッ!!
周りを見ると、他の職人たちもその美味さに感動しているようだった。
「喜んでもらえて良かったです―――!!」
ルミナスは天使のような微笑みを返す。
コイツ、本当に同じ魔族かよ―――
バルバスはそう思った。
「不浄!!不潔!!不満!!」
ナデシコが向こうで声を上げてる。
「おい、お前の妹だろ―――?」
「何か言ってんぞ―――」
バルバスはナデシコを指差す。
「・・・・ナデシコまた何かやらかしたのかしら?」
「ナデシコーー!!どうしたのーー!!」
トコトコとルミナスはナデシコの方へと走っていった。
「さてと、こっちももう一仕事やるか―――」
バルバスは立ち上がり、やる気を出す。
そんな時、親方から声が掛かる。
「オイ!新人―――」
「これ見てみろ―――」
「何っすかこれ?」
親方から差し出されたのは丸い筒状の物。
「前にススム様から教えてもらったんだ―――」
「街中の地面の下にこの管を張り巡らせて、どの家庭からも水を出すことが出来るだって―――」
「クロヴィスが復興するときもそれをやってもらってよォー」
「俺も見よう見まねで作ってみたんだ!!」
「それと新人が前にこの材料の金属を魔法で作ってたよな?」
「アレでピンと来たわけよ!!」
「アンタの魔法と俺の腕でこの聖王国中もこの管、張り巡らせられねェーかってな!!」
それは水道管という名のインフラの形成。
かつては水道管が作られる前は井戸や川の水が使われていた。
しかし、それは伝染病のリスクがある。
だから、進はクロヴィス復興の際に水道管を張り巡らせることを提案した。
聖王国も復興に伴い水道管を採用することにした。
「こっからさらに大変になるぞ~~」
「新人覚悟しとけよ~~!!」
ま、マジか・・・!?
バルバスはこれから大変になると直感した。
「う・・・冗談じゃねェー!!」
「何で俺がそこまで・・・」
断ろうと思った―――
だが、もしここで断ってしまったらまたメルクロフ達にバカにされるかもしれない。
俺だって出来るんだ―――!!
「わ、分かった―――」
「やるだけやってやるよ―――」
「おぉ、そうか!!」
「期待してるぜ!!」
バルバスはこれから労働地獄に入る。
想像を絶するキツさだったとバルバスは後に語るが、ここではその詳細は伏せておくことにする。