第607話 【魔王城潜入組】SECOND END
~魔王城 11階 瞑想部屋~
エレナも救出でき、リカントも浄化したことで全てが上手くいったかに思われたベロニカ達だったが、ベロニカは何かを忘れていると頭を悩ませる―――
「白魔法:エリアヒール!!」
エレナが癒しの白魔法を唱える。
「おぉー!!傷が癒えていくでござるよ―――!!」
「エレナ様がまさか癒しの白魔法を使えるなんて―――」
ヴィクトルは驚いた。
魔族でありながら、白魔法を使用できることもさることながら、癒しの白魔法を使用できるとなったら、コレは聖女以外にはあり得ない。
「二人には説明していなかったけど、私実は聖女の血が混じっているの★」
「「ッ―――!?」」
ヴィクトルとベリヤの二人は目を大きく見開いて驚く。
跳び上がるほどの衝撃だ。
「いやはや驚いたでござるが・・・なるほど、そうであったか―――」
「ってことはエレナ様は魔族と聖女のハーフってこと!?」
「そうよ★―――」
エレナは自分が魔王 アリスと聖女の間に生まれた子どもであることを話した。
そして、シンが自分の実の弟であることも―――
普段なら妹達以外にこんな話はしないが、既にシンの引き起こした状況によってヴィクトル達にも迷惑を掛けてしまった。
説明をしないと云うのはいささか良心が痛むと思ったのだ。
「スゴイ話だねーー。」
「エレナ様がアリス様の息子ってことはベロニカも知ってたってことだよね―――?」
ヴィクトルはベロニカに尋ねる。
しかし、ベロニカは頭を抱えて、なんだか苦しそうだ。
「ベロニカ?大丈夫?」
ヴィクトルはベロニカを心配そうに見つめる。
「え、えぇ・・・大丈夫よ―――」
「心配させたわね―――」
私は何かを忘れている。
何かとても大切なことだった。
巨大な鬼に立ち向かう誰か?
貴方は誰?
共に戦おうとした―――、しかしそこで貴方に何かを云われて―――
もし貴方がいなければ、エレナ御姉様を助けることも出来なかった。
ベロニカ―――
ベロニカの頭の中で魔導大全が呟く。
魔導大全は消えた赤目 紫郎のことも覚えている。
概念である彼らに赤目の認識操作は意味がない。
だからこそ、彼らはベロニカに赤目のことを思い出させることもできる。
しかし、それをするべきか―――
それをすることが彼女の幸せになるのか?
ベロニカ以外からの記憶からも赤目が消えたということは彼は恐らくもうこの世には・・・。
だったら忘れていた方が幸せなんじゃ―――
魔導大全がそう思うのも無理はない。
知的生物とはそういうものだから―――
合理性や損得勘定だけが全てじゃない。
道徳心や倫理感・・・それらが知的生物を進化させてきた。
誰かの為に必死になる―――
美しいじゃないか?
だからこそ、ベロニカが赤目が死んだことを認識したなら悲しみにくれるだろう。
そんなことを考えていた時だった―――
「皆さん―――、無事だったんですね。」
これまた全身がボロボロになっている百鬼がやってきた。
「百鬼!!無事だったのね!!」
ベロニカが百鬼に駆け寄った。
彼女の力が無ければまたエレナの救出は不可能だった。
「私は無事です―――」
「でも、赤目さんが―――」
ッッッ!!?
魔導大全は驚いた―――
百鬼は赤目のことを覚えている。
「赤目?誰それ?」
ヴィクトルがベリヤの方を向いた。
「拙者も知らないでござるな―――」
二人は赤目のことを覚えていない。
「そうですか―――」
「やはり、もう皆さん赤目さんのことは覚えていないんですね・・・。」
百鬼の顔は少し悲しそうだった。
しかし、ベロニカは反応が違った―――
「えっ・・・!?」
ベロニカ自身も驚いていた。
赤目という名前を聞いただけで自然と涙が出てきた。
赤目なんて人、知らないハズなのに―――
「ベロニカさん?」
その様子に何かを感じ取った百鬼。
「そうだ―――、思い出したわ。」
「赤目だ!!」
「赤目はどうしているの!?」
まさかっ―――!?
自力で赤目のことを思い出したのか!?
魔導大全は驚いた。
我々と融合したことで、記憶領域の進化が始まったとみるべきか。
これは実に興味深い。
魔導大全は考察をしていたが、そんなことベロニカには関係ない。
百鬼自身も驚いたが、すぐにベロニカが赤目のことを思い出したことを察する。
「赤目さんはもう・・・。」
それだけ云うとベロニカも赤目が既にこの世を去ったことを察する。
「そう・・・。」
「彼にはどれだけ感謝してもし切れないわ―――」
暗い調子で声を出す。
全体が暗くなる中、ベロニカ達の前にまた誰かがやってきた。
ドンっ―――!!
下の階をぶち抜いて、巨大な鬼が飛んできた。
「いい感じで不幸が充満している!!」
「シン・・・★!!」
やってきたのはナブラとシン、そして見覚えのない人物が一人。
エレナとシンが目が合う。
「姉さん―――、術が解けたんだね。」
ベロニカを含めて、全員が敵意を表す。
仮に全員が万全の状態なら戦闘が始まっていただろう。
しかし、既に全員満身創痍の状態。
ここで闘うなんて無謀だと誰もが分かっている。
「オレ、姉さんと暫くいて分かったんだ―――」
「オレ達は敵対していた方がいい。」
「そっちの方がオレは不幸になれる!!」
シンはエレナ達に向かってそう云った。
「だから、オレはオレ自身の計画を進めることにする。」
「何をしようって云うの★?」
エレナが聞いた。
「全時空の融合―――」
シンは至って真面目な顔で答えた。
「何を言ってるの★???」
「昔から興味があったんだ―――」
「何で、生まれた瞬間から人間は不平等なのか―――」
「自分はこんなに"不幸"なのに周りは幸せを感じている。」
「どっちがより純度が高いのか、興味が尽きない。」
「試してみたい。」
「不幸な奴らと幸福な奴ら、みんな一緒にしたとき―――」
「我々はどちらを感じるのか?不幸?それとも幸福?」
「マイナスとプラス―――、どちらの絶対値がより大きいのか。」
「考えただけでワクワクが止まらない。」
そう云うシンの顔はまさに狂った科学者のようだった。
「そんなこと私が許すと思う★?」
エレナが鋭い視線をシンに向ける。
「そうだ―――、姉さん!!」
「その眼だ!!オレが姉さんに向けられたかったのは!!」
「だから、最後に決着をつけたいんだ。」
「アリス、真、進、新、キル・・・そして、姉さん―――」
「オレと同じ血を引いている奴等が全員、オレのことを全力で殺しに来る!!」
「不幸の前夜祭としてこれ程素晴らしいことはない―――」
盛大に語るシン―――、本当に心から待ち望んでいるのだろう。
「なぁ、今ここでやっちまわねェーのか?」
「そんなまどろっこしいことしなくてもいいだろ―――」
ナブラがシンに尋ねる。
「ナブラ・・・オレは過程を楽しみたいんだ。」
「じっくり、じわじわと不幸にさせていく―――」
「それでも幸福を感じていられるか、それとも不幸に膝を折るか。」
「だから、今日は見逃してやる―――」
「まぁ、おれはアンタに従うと云ったからな―――」
「オイラも構わないっすよ。」
ナブラも祝呪もベロニカ達とここで戦闘はしない了承した。
「オレ達はこの世界の中心―――『アダムス』で待っている―――」
「全勢力を持ってネオ魔王軍が相手をしてやる。」
「楽しみに待っているぞッ!!」
妖しく笑いながら、シン達は転移のスキルで消え去った。
「シン・・・貴方は私が絶対に止めてみせるから★」
エレナは決意を新たにする。
グラグラグラ・・・!!
魔王城が激しく揺れている。
幾度の激しい戦闘によって、既に魔王城は崩壊に向かっている。
暫くしたら、ここは崩れ去ってしまうだろう。
「みんな!!脱出するわよ★」
エレナが声を掛け、皆は転移のスキルで脱出した。
空高く浮いていた魔王城が瓦礫を墜として崩壊していく。
エレナ達はその様子を地上から眺めていた―――
魔王軍を象徴していた魔王城が崩壊する。
これは一つの時代の終焉を意味していた。