第603話 【魔王城潜入組】朽ちた餓狼
~魔王城 11階 瞑想部屋~
百鬼がナブラと接触する少し前―――
ベロニカ達はアンデットとなったリカントと戦闘を行っていた。
「ベリヤ!ヴィクトル!」
ベロニカが一声入れる。
二人は頷き、リカントを囲むように立ち回る。
1対3だが、こちらが優位だとは一切思っていない。
それだけリカントは強い。
上級魔族が何人束になっても歯が立たないだろう。
「リカント様―――、御覚悟!!」
ベリヤが先に動き出す。
その手にはキラリと光る刀が握られている。
「暗黒武技:動の刃―激動!!」
ベリヤの闘気を乗せた豪快な一振り。
生前のリカントならまず間違いなく当たらないだろうが、今はアンデット。
動きは相当鈍っているハズ。
しかし、それは大きな見誤り。
自動勇猛化発動。
自動高速化発動。
物理障壁発動。
高速詠唱化発動。
「ッ―――!?」
ベリヤの攻撃はリカントに当たることなく、阻止されてしまう。
「そ・・そんな―――」
ベリヤは目を大きく見開き、奥歯を悔しそうに強く噛み締める。
リカントの意思など関係なく、自動で強化スキルが発動しているではないか。
自動反撃―――!!
刃が障壁に阻まれ、押し込もうとするが、微動だにしない。
リカントがベリヤの攻撃を仕掛ける。
「ベリヤン!!」
「援護防御!!」
ヴィクトルがスキルにより、ベリヤの盾となる。
ヴィクトルはスライム―――
物理衝撃は無効化できる。
これで防げるとヴィクトルも思ったが、そんなにリカントは甘くない。
熱波拳!!
再び、自動でスキルが発動している。
リカントの拳が真っ赤になるほどの高熱を帯びる。
「アアア"ァァーーー!!」
苦しそうな声を上げるヴィクトル。
スライムは多量の水分で出来ている。
高熱を受ければ蒸発してしまう。
「ヴィクトル殿!!」
ヴィクトルの危機に何とかしなければと思考を巡らせるベリヤ。
そんな状況でベロニカが動いた。
「魔導大全―――、力を貸してもらうわよ。」
分かったよ―――
「七星魔法:原子の威光!!」
物凄い高エネルギー砲がベロニカの手から放たれる。
「す・・・スゴイ!!」
思わず、感嘆の声を上げたのは他でもないベロニカ。
全身から魔力が溢れてくる。
コレが魔導大全と融合したということ。
それが実感に変わる。
「ベロニカ・・・逃ゲロ―――」
ベロニカを脅威と判断したリカントはベロニカと距離を詰める。
「いいえ、リカント様!!」
「私は逃げません!!」
「七星魔法:偉大なる流星!!」
ベロニカが超級魔法を発動させる。
ベロニカは魔導大全と融合したことで、ほぼ無詠唱、かつ無尽蔵な魔力で魔法を使用することができるようになった。
既に六魔将以上の力を得たと言っても過言ではない。
しかし、相手は六魔将最強だった男―――
相手にとって不足はない。
「ベロニカ殿!!加勢するでござるよ!!」
後ろからリカントを斬りつけるベリヤ。
武士であるが故に背後からの攻撃は後ろめたさはあるが、仲間を助ける為なら仕方がない。
それに相手はリカント―――、遠慮など不要。
時間にして1秒もなかっただろうが、リカントの気を引くことには成功する。
「よくやったわ―――、ベリヤ!!」
「極大水晶魔法:究極水晶化!!」
ベロニカはリカントを相手に水晶魔法を使用した。
対象を結晶化する。
ただし、生半可な水晶魔法ではリカントを結晶化できない。
だから、魔導大全の力を使用して、己の潜在的な魔力を解放させた。
美しく透き通った結晶は天井まで達し、リカントを包み込む。
アンデットとなったリカントは水晶の中に閉じ込められ、停止する。
「ハァハァ・・・これでなんとかなったのかしら―――」
流石に超魔法を連打すれば息も上がる。
「リカント様・・・。」
ベリヤもヴィクトルもリカントの方を悲しそうに見つめる。
どうにかして助けられないのか。
思いは一緒だ。
「助けられるとしたら、神聖系魔法で除霊するくらいしかないわ―――」
しかし、今ここで聖なる白魔法を使用できる者はいない。
「エレナ御姉様ならあるいは・・・。」
ふと、ベロニカがそう呟いたが、結局はエレナを救出しなければ叶わない。
「二人とも、時間がないわ―――」
「上の階へ向かいましょう―――!!」
ベロニカがそう云った瞬間、水晶にヒビが入った。
「そ、そんな・・・!!」
崩れ落ちた結晶の塊の中からリカントが出てきた。
再び、動き出した最強。
ベロニカの本気の水晶魔法が効かないなんて―――
どうしようと思った。
でも考えている時間はない。
「ベロニカ・・・上に行って!!」
そう云ったのはヴィクトルだった。
「えっ・・・!?」
ベロニカは驚いた。
「いいから早く!!」
「エレナ様ならリカント様を助けられるんでしょ!!」
「だったら早くしなきゃ―――!!」
確かにそうだが、それはつまり、二人を―――、ヴィクトルとベリヤを見捨てるということになる。
「ボク達なら大丈夫だよ!!」
「なんとかしてみせるから―――」
そう云ったヴィクトルの顔は不安そうだ。
策なんてほとんどないんだろう。
でも、そこまで云うヴィクトルの気持ちを無視するのも―――
「ベロニカ殿―――」
「ヴィクトル殿は必ず、拙者が守るでござる!!」
「だから、上に行ってほしいでござる!!」
ベリヤまで―――
二人の眼は覚悟を決めた眼だった。
だったら、もう反対しない。
「分かった―――」
そう云って、ベロニカは上の階段へ走る。
もう振り返ることはない。
だって、二人のことを信じているのだから―――
生きてまた会いましょう。