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【完結】エレベーターに乗ったら異世界に来てしまった件 ~大切な幼馴染を追いかけて異世界に来た天才少年は聖女しか使えないハズの治癒魔法の才能を開花させる~  作者: ゆに
第7章 エレベーターに乗ったら異世界に来て困惑していたらいつメンが揃った件

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第599話 【魔王城潜入組】一緒じゃなきゃイヤです


~魔王城 10階 生物研究室~

 

 どうしたんだろう―――、立つことが出来ない。

 

 痛い、苦しい、息が出来ない。

 

 私は何をされた?

 

 百鬼はナブラに勢いよく地面に叩きつけられたことさえ認識するのに数秒掛かった。

 

 頭に刻み込まれる―――、『恐怖』。

 

 「どうした~~?」

 「さっきの威勢はもう失せたか?」

 

 ゆっくり、百鬼に近づき、彼女の髪を掴む。

 

 そのままナブラは百鬼を自分の目線に合わせるように持ち上げる。

 

 「カハッーーー!!」

 

 百鬼は内臓から逆流してきた血液を口から吐き出す。

 

 ナブラの顔にピチャっと音を立ててその血が付着する。

 

 「~~~~ッ!!」

 

 意識はまだある。眼の前にナブラがいる。言い返してやりたい。

 

 でも言葉が上手く話せない百鬼。

 

 一撃でこんな状態になるなんて―――

 

 「そうか―――、貴様、もう壊れてしまったんだな―――!!」

 少し残念そうにするナブラ。

 

 興味の失せた玩具に用はない。

 

 百鬼をそのまま地面に叩きつけようとする。

 

 その瞬間だった。

 

 ナブラの背後に誰かが―――

 

 「ア"ァ"―――?」

 

 ナブラが振り返ったその瞬間、ナブラの瞳に刃を突き立てる。

 

 「・・・・・!!」

 

 ナブラは驚いて百鬼を手から離す。

 

 赤目さん・・・?

 

 百鬼が見上げるとそこには真っ白な包帯を顔面にグルグルに巻いた人物が立っていた。

 

 「百鬼・・・苦しいか?」

 「コレを飲め―――」

 

 あぁ、この声は赤目さんだ・・・!!

 

 赤目の登場に安心した百鬼。

 

 赤目は百鬼に治癒薬であるポーションを飲ませる。

 

 百鬼のケガが癒され回復していく。

 

 効き目は抜群のようだ。

 

 「赤目さん―――、その傷は?」

 

 「ヤツに顔の皮を剝がされた―――」

 

 真っ白な包帯は赤目の鮮血で真っ赤に染まっている。

 

 やはり、赤目さんもヤツに相当苦戦を強いられたんだ。

 

 いや、苦戦なんてもんじゃない、一方的に蹂躙されたんだ。

 

 「赤目さんも傷薬を飲むべきです―――」

 

 赤目さんはまだポーションは持っているハズだ。

 

 何で飲まないのか、百鬼は疑問だった。

 

 「既に飲んでいる―――」

 

 「えっ―――!?」

 

 赤目の言葉に耳を疑う百鬼。

 

 ポーションを飲んでいるなら赤目の傷も治ってもいいはず。

 

 なのに何故?

 

 百鬼は疑問を持った。

 

 「恐らく、それがヤツの能力なのだろう―――」

 

 「修復不可の破壊―――」

 「ヤツが意識的に破壊したものは回復が出来ない。」

 

 「えっ―――!?」

 「それなら私のケガは治ってますが―――!?」

 

 「それは、ヤツが明確に破壊しようと思っていなかったのだろう―――」

 「それだけ本気にさせていなかったということだ。」

 

 百鬼はまだナブラにとって遊び感覚で触れあっているというレベルなのだろう。

 

 しかし、赤目との戦闘はもう一段上の領域まで持っていくことができた。

 

 その違い―――

 

 「作戦会議は終わったか―――?」

 

 ナブラが動き出す。

 

 眼に刃を突き立てたのにもう元に戻っている。

 

 回復速度が早すぎる。

 

 「驚いたぞ―――、壊したと思ったのに壊れていなかった―――」

 「こんな人間は初めてだ―――」

 

 ナブラが赤目のことを素直に認める。

 

 「百鬼―――、逃げるんだ。」

 

 赤目がそう云った。

 

 「えっ・・・!?」

 

 百鬼は驚いた。まさか赤目からそんな言葉が出るなんて思いもしなかったからだ。

 

 自分達は仕事人。

 

 目的の為に全力を尽くす。

 

 結果を出さなければ意味がない。

 

 皆、やり方に違いは有れど、その根底は一緒だと思っていた。

 

 そんな赤目から目的も達することなく逃げろという言葉が出たからだ。

 

 「私はまだやれます!!」

 

 百鬼はそう云った。

 

 「勝てない―――」

 「私達、二人掛かりでもヤツに勝つのは不可能だ。」

 「それは君も分かっているだろう?」

 

 「そ、それは・・・。」

 

 赤目にそう云われて反論が出来ない。

 

 

 「だから、君だけ・・は逃げるんだ。」

 

 「そんな・・・私だけなんて・・・!!」

 「ベロニカ達はどうするんですか!!」

 

 「・・・・・私がヤツを必ず何とかする!!」

 「だから・・・君は行くんだ!!」

 

 「何とかって・・・勝ち目は有るんですか!?」

 

 「もう私には時間が無いんだッーー!!!!」

 

 赤目が声を荒げる。

 

 その言葉で百鬼は察した。

 

 「まさか・・・赤目さん静寂の暗殺者サイレント・キルの力を・・・!?」

 

 赤目は静寂の暗殺者サイレント・キルの力を全て開放してしまったんだと。

 

 「静寂の暗殺者サイレント・キル 終焉の舞(ラストダンス)を発動させた。」

 「もう少ししたら私の存在した記憶は皆の中から消えるだろう―――」

 

 「私は赤目さんのこと絶対に忘れませんッ!!」

 

 「そんなこと分からないだろうッ!!」

 

 どうして、コレが最後かもしれないのに言い争っているんだろう。

 

 こんな最後なんてイヤだ。

 

 赤目は武器を手にし、振るう。

 

 一瞬で外壁に穴を開けた。

 

 魔王城は現在、空高い天空の上だ。

 

 常人ならこんな所から落ちたら絶命だろうが、百鬼なら着地することも可能だろう。

 

 「君はそこから逃げろ!!」

 

 赤目は百鬼に云った。

 

 「一緒じゃなきゃイヤです・・・!!」

 

 「我が儘を言うな―――」

 

 「一緒じゃなきゃイヤですッ!!!」

 

 「いいから私の言うことを聞いてくれッ!!」

 

 「一緒じゃなきゃイヤですッーーー!!!!」

 

 「・・・・っ!?」

 「君のことを愛しているから君だけは生きて欲しいんだッ!!」

 

 ついに本音を口にする赤目―――

 

 もっと二人で話したいこともあった。

 

 もっと二人で行きたいところもあった。

 

 もっと二人で過ごしたいと思った。

 

 でも、もう無理だ―――

 

 その願いは一生叶わない。

 

 二人が言い争っているのをナブラはずっと眺めている。

 

 今にも散る最後のあがきとして彼らが何をするのか実に興味があったからだ。

 

 「おれから逃げれると思っているのか?」

 

 ナブラが向かって来る。

 

 それに乗じて、赤目は百鬼を上空から突き飛ばす。

 

 「赤目さん・・・!?」

 

 本当は百鬼は赤目のその手を掴みたかった。

 

 でも、赤目はそれを望んでいない。

 

 「貴様の相手はこの私だ!!」

 

 百鬼は魔王城から落ちていく。

 

 あぁ、赤目さん―――、私は貴方のことを決して忘れません。

 

 赤目は武器を手にして、ナブラに特攻する。

 

 「その勇気に敬意を表して、全力で相手をしてやろう!!」

 

 ナブラが本気で赤目の背中を叩いた。

 

 

 ズドドドドドドォォォォーーーン!!

 

 

 その衝撃は10階から下の全ての階層を一撃で破壊する。

 

 それはある意味、ナブラから赤目に対する敬意の象徴。

 

 瓦礫が空中に飛散する。

 

 

 赤目の身体は既に原型を留めていない位ぐちゃぐちゃにされていた。

 

 そして、薄れ行く意識の中―――

 

 赤目は最期に思う。

 

 この瞬間だけは仕事人ではなく、一人の人間として、一生を終えようと思った。

 

 母さん、父さん―――、最期にもう一度会いたかった。

 

 何時の日か自分のことを思い出してくれると信じてきたが、出来なかった。

 

 社長、申し訳ございません―――

 

 貴方の覇道に最後まで付いていくことが出来ませんでした。

 

 進様―――、どうかまたもう一度立ち上がってくれる日を私は願っています。

 

 ベロニカ、ヴィクトル、ベリヤ・・・種族が違えど、君達と過ごした日々は私にとって貴重だった。

 

 どうか、生き延びてくれ―――、そしてあの怪物を抑えられなかった私を恨んでくれても構わない。

 

 申し訳ございません、申し訳ございません、申し訳ございません―――

 

 心の中で赤目は必死に連呼していた。

 

 そして、そんな自分が最後の最期にどうしようもなく情けなくなった。

 

 何故、自分の人生なのに最後にこれほどまでにみんなに謝っているのか―――

 

 謝ることが自分の人生だったのか?

 

 謝ることで許してもらおうとまだ思っているのか?

 

 彼らが謝ってもらうことを本当に望んでいるのか?

 

 いや、そうではないだろう―――

 

 だから、自分はやり切ったのだと、そう思って死にたい。

 

 最後は安らかに眠りたかった―――

 

 あぁ、もう意識が・・・。

 

 どうか、百鬼―――、君は私の分まで幸せになってくれ。

 

 

 

 

 この日、仕事人 赤目 紫郎は死亡した。

 

 

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