第594話 【魔王城潜入組】無謀な挑戦
~魔王城 10階 生物研究室~
時は少し遡り、赤目がナブラを足止めしている最中―――
ベロニカ達は10階の生物研究室に到着していた。
「相変わらず凄い数のカプセルね―――」
ここは人一人が簡単に入るくらいの大きさのカプセルがズラリと並んでいる。
この10階は六魔将 ハイロンの実験施設として用意された階層。
人間、獣人、エルフやドワーフのような亜人、魔族、天使・・・様々な種族が検体として保管されている。
「でも、ここまで来たってことはこの先にいるのは・・・」
ヴィクトルがベロニカの方を向いて云った。
「えぇ、勿論、この先にいるのはハイロン様でしょうね―――」
「ですよねー!」
ヴィクトルとベロニカがそんな会話をしていると―――
「皆さん、ようこそ―――」
「お待ちしてましたよ―――」
掠れたような声が奥の方から聴こえた。
薄汚れた茶色いローブを纏った骸骨の顔をした魔術師が立っている。
六魔将 ハイロンだ―――
リッチは恐ろしい程の魔力を有しているというが、ハイロンも例外ではない。
彼が鬼人族を蘇らせ、伝説のオーガ 鬼の神、鬼神 ナブラをこの時代に呼び起こした。
「出たわね―――」
ベロニカはそう云った。
「私達はエレナ様を迎えに来ました―――」
「このまま素直に通してくださればハイロン様の邪魔をしようとは思っていません―――」
「どうか、見逃してはいただけないでしょうか―――」
ベロニカは敢えて下手に出る。
望みは薄いが、こちらとしても同じ元魔王軍であったものと敵対したいとは思っていない。
「それはできない相談ですね。」
「エレナはシン様が連れてこられた。」
「あの御方は正当な魔王の後継者です。」
「あの御方の許可なくエレナを連れ出す訳には行きません!!」
予想はしていたが、やはり交渉は不可能か。
であれば、実力行使に移るしかない。
ベロニカは他のメンバーと顔を見合わせ頷く。
「であれば、仕方ありません―――」
「ここで貴方を倒すしかないですね。」
ベロニカはそう云った。
それはチームの総意。
"ベロニカ!気を付けて!あのリッチ相当手強いよ!!"
ベロニカの中の魔導大全もそう助言している。
そんなことは分かっている―――
六魔将ということはそれだけで一騎当千の実力者。
たった一人で国を墜とすことだって難しくない。
それどころか大陸一つを消すことだって出来てしまうような存在だ。
「ベロニカさん―――、ここは私に任せてください!!」
ベロニカを背にして百鬼が立つ。
「百鬼!ここはみんなで―――!!」
ベロニカが言いたいことも分かる。
でも、今回の目的はエレナの救出がメイン。
ここで時間を喰っていては下の階でナブラを足止めしている赤目が報われない。
「赤目さんのことを思うならみんなはこのまま上に行ってください!!」
百鬼は強めにそう云う。
「・・・・・分かったわ。」
「百鬼も気を付けなさい―――」
少しの無言の後、ベロニカは了承した。
「承知したでござる―――」
「うん!!」
ベロニカに続いてベリヤとヴィクトルも了承する。
赤目のことを組んでくれた。
百鬼が強いことは皆知っている。
それを知ってるからこそハイロンのことを任せたのだ。
「階段はあっちよ!!」
ベロニカは指差してヴィクトル達と共に行った。
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
その様子を百鬼もハイロンも無言で眺める。
随分とあっさり行かせてくれた。
百鬼はそれに疑念を抱く。
「随分とあっさり行かせてくれるんですね―――」
ハイロンの真意を知りたいが故、少しカマを掛ける。
「えぇ、一目見た時から貴方が一番強いことは分かってましたから、貴方さえ足止めできればよいと考えてました。」
「ッ―――!?」
百鬼は眉を顰める。
「それに11階に待ち構えているものをあの3名では天地がひっくり返っても突破できないでしょう―――」
「11階で待ち構えているもの・・・?」
「クフフフ・・・」
百鬼が聞き返すが、ハイロンは妖しく笑っているだけ。
「策は二重、三重に張ってこそ意味がある。」
「貴方達がエレナを連れ出すなど無謀な挑戦なんですよ!!」
確かにここに来て、予想以上のことが起こっている。
多数の鬼人族に伝説のオーガ ナブラ。
これから先、何が起こっても不思議ではない。
「だったら、貴方を早々に倒して、私は3人の後を追うわ―――」
百鬼は杖に仕込んだ刀を抜いた。
ハイロンは複数のカプセルから中の液体を抜き出し、カプセルを開く。
多数の検体が目を覚ます。
「私の実験は何も鬼に関することだけではありません―――」
「究極の生物を創り出す・・・それが目的ですから!」
ハイロンが合図を送るとその生物たちは自我を失ったように百鬼に襲い掛かる。
数多の命を弄んできたのだろう―――
百鬼はそれがたまらなく許せない。
「可哀想に・・・。」
それだけ云うと、百鬼は涙を流し、刀を振るった。
既に対象は見ていない―――
それどころが俯いてすらいる。
そんな状態で何か動いていたなとそう実感させる程度。
ドサドサっーーー!!
襲い掛かった検体は既に地に伏していた。
ほとんど瞬殺だった。
みな一様にそれでいて綺麗に斬られていたんだ。
「どうやら貴方も想像以上のようですねェー!」
ハイロンは不敵に笑い、百鬼に興味を持つ。