第583話 【魔王城潜入組】バラム地区⑯
魔法の素質があると、昔から言われて育てられてきた。
幼い頃から大人を圧倒する程の魔力で皆、私の前に倒れた。
自分でも感じていた。
自分は魔法の才能を持って生まれることが出来たんだと―――
でも、その力を持って威張ったり、他人を虐げたりするつもりは全く起きない。
あぁ、自分は力を持って生まれてしまったんだな―――
だったら、せっかくだし自分の為、誰かの役に立つように力を磨こう。
そう、思って魔王軍に志願した。
そこで私はエレナ御姉様に出逢った―――
こんなにも美しく、可憐で、優しい―――
それでいて圧倒的な実力を持つ女性がいたなんて―――
私は一生この方の傍にいたいと思うようになった。
~大図書館 レプリカ~
魔導大全に一対一の真剣勝負を申し込んだベロニカ。
「それでは、付いて来てください―――」
司書―――、もとい魔導大全はこちらに付いて来るように指示する。
今からこの者と勝負をして勝てば、ヴィクトル達を元に戻すという約束をした。
代わりに私が負ければ、一生この者の物になると―――
「この図書館にこんな所が・・・!?」
図書館の奥を突き進み、いくつかの隠し扉を魔導大全は開く。
連れてこられた場所は天井が高く広い空間―――
それでいて他に何もない。
まさに闘うには打ってつけの空間。
ベロニカは周囲を見渡す。
「ここは僕が瞑想をするのに使ってるんだ―――」
「広く、何もないこの空間は瞑想するのに適している。」
魔導大全がそう云った。
ベロニカは先ほどから気になっていることがあった。
「貴方が『魔導大全』そのものなんでしょ―――?」
初めてあの古びた本を持って現れた時から感じていた異質な感覚。
身体がそこにあって、そこにないような感覚。
確かにあの本からも力を感じたが、司書からも不思議な魔力を感じていた。
そして、時折感じさせる大物感―――
人の形をしているが、司書自身が『魔導大全』であると結論付けた。
「その通り―――」
司書はあっさりと認めた。
「ってことは、その時折口調が変わるのもそのせいってことかしら?」
『魔導大全』は時折、女性らしい振る舞いをするかと思えば、少年のような純粋さを見せる時もある。
その微妙な変化をベロニカは指摘した。
「正解です―――」
「私は頭の中に複数の人格を宿している。」
「それはかつて、私が取り込んだ者達の意思―――」
「つまり、『魔導大全』という存在は偉大な賢者達の"集合知"なんですよ!」
そうか―――
賢者がたくさん集まり、より高度な知恵となる。
それが『魔導大全』の正体―――
「そして、今回のテストをクリアしたベロニカさん―――!!」
「貴方も我らの一部となるのですッ!!」
『魔導大全』はそう云った。
「それは敗けた時の話でしょ―――?」
「残念だけど、私は敗ける気はさらさらないから―――!!」
そう、もしベロニカが負ければ『魔導大全』の一部として未来永劫を生きることになる。
しかし、ベロニカはそんな未来を望まない。
故に闘って勝利する。
赤目達を元に戻し、エレナを救出する未来を掴み取る!!
そう、心に誓っている―――
「哀れな―――!!」
「実に哀れだッ!!」
「この全知の象徴である我に闘いを挑み、そして勝利するなど夢のまた夢ッ!!」
『魔導大全』は嘲笑う―――
絶対にそんなことは出来ないと考える。
「夢で結構―――」
「夢は叶える為にあるもの―――!!」
「夢を見ずして、人は前に進めないッ!!」
ベロニカの意思は固い。
「ふん、まぁいいさ―――」
「君は優秀だ―――」
「だからこそ、こちらに来て良かったと感じさせてあげるよ。」
魔導大全はそう云った。
そして、ベロニカと魔導大全は向かい合う。
両者の中で戦闘の合意を得た。
開始の合図はない。
ベロニカは魔道具を取り出す。
「魔導銃―――!!」
最近、魔法の弾丸を詰め込む技術を開発することに成功した。
これはその試作品。
火・水・雷―――3造成混合の銃弾。
それを魔導大全に向けて撃ち放つ。
「これは・・・魔導弾!?」
「そんな物まで創れるとは―――」
「やはり、ベロニカ、君は素敵だ―――!!」
魔導大全は魔導書を広げる。
幾重にも張り巡らされた魔導陣を展開する。
魔導の奥は誰も見果てぬ深淵。
「七星魔法:偉大なる流星!!」
全知の魔導大全―――
最速の詠唱を終え、魔力を解放。
天井いっぱいに広がる魔法陣。
そして、そこから見える宇宙空間。
宇宙空間から大量の隕石が降り注ぐ。
まるでベロニカの放った魔導弾が豆粒に見える。
「ッ―――!?」
ベロニカは水晶を創り出し、ガードするが、威力が違い過ぎる。
ガードを貫通し、その場に倒れた。
「我ながら、この威力に惚れ惚れしてしまう―――」
七星魔法―――、失われた古代魔法の一つ。
徳川も同じく使用できるが、まさしく選ばれた者にしか扱うことの出来ない別格中の別格。
規格外の威力に並の魔物は消し炭すら残らないだろう。
「ハァ・・・ハァ―――」
ベロニカの息は上がる。
強い・・・強すぎる―――
ベロニカはうつ伏せになりながら、そう思う。
しかし、コレは魔導大全の力の本の一端にしか過ぎない。