第580話 【魔王城潜入組】バラム地区⑬
~大図書館 レプリカ~
共同作業を始めて、半年―――
ただし、この空間と外の世界では時間の流れが違うので、外の世界で云うと約3日くらいにしかならないだろう―――
「初めはあんなにたくさんあったのに―――」
ベロニカは改めて周囲を見渡す。
「赤目殿~~こっちは終わったでござるーー!!」
作業は順調だ―――
この図書館の本も残すところ半分程度まで減ってきた。
初期を思えば、何とも感慨深い。
でもまだ半分もある。
ゆっくりしているつもりもない。
このまま粛々と進めるだけだ。
しかし、この図書の中に本当に私達が探す『魔導大全』があるのかしら―――?
ここで一つの疑念が沸いてきた。
流石に半年間もこの作業をしていて、まだ見つかっていないとなれば、もしかしたと思ってしまうだろう。
そして、その疑問はベロニカだけでなく、赤目も感じていた。
「ベロニカも気付いたか―――」
ベロニカは一言も話していないのに何故か心を読んだかのように赤目がそう言ってきた。
「えっ・・・!?」
思わず、ベロニカは動揺の反応を返してしまう。
「ここの本棚の中に『魔導大全』は存在しない―――」
「それに気づいたのだろう?」
赤目がベロニカに目を見つめて話す。
もし本当にそうなら私達のやっているこのテストの意味とは?
そんな二人の前に足音を鳴らしてあの司書が現れた。
「どうやらお二人はそのことに気付いたようですね―――」
「貴方は―――!?」
ベロニカは目を疑った。
いつもの司書とは雰囲気が違う。
纏っているオーラが完全に別物だ。
「そろそろ気付かれる頃だとは思いましたよ―――」
「気を付けろっ!ベロニカ!!」
「この者、相当な実力者だ!!」
赤目は警戒してベロニカの前に立ち、武器を構える。
その様子を百鬼達も気付いたようで近寄ってきた。
「騒がしいけど、どうしたの~?」
ヴィクトルが話しかける。
「勘違いしないでください―――」
「今ここで皆さんと事を起こすつもりはありません―――」
「ではそのような姿で私達の前に現れたのは何が目的だ!」
彼女の手には魔導書が握られている。
「もしかして、その本が『魔導大全』!?」
ベロニカは彼女の持つ本を指差しそう云った。
「えぇ、そうです―――」
「コレが貴方達の探している本です!」
司書はそう答えた。
「お願い!!その本を貸していただけないでしょうか!!」
ベロニカは懇願した。
「そうですね―――、貸すのはいいですよ。」
「だって、ここは図書館―――、本を貸し出す場所。」
「そう、貸していただけるのね―――」
ベロニカはホッと胸を撫で下ろした。
やっと手に入ると思ったからだ―――
でもそれは今すぐにという話ではない―――
司書はニヤリと笑みを浮かべた。
「ですが、最初に申し上げた通り、『魔導大全』は相応しい者の前にしか現れません。」
「そして、今貴方達はテスト中―――」
「このテストにクリアすることこそが、この本を得る資格です。」
「じゃあ、何でその本を持って私達の前に現れたの?」
ベロニカは尋ねた。
「それは貴方達が順調に半分の図書を消化したから―――」
「いわばコレはその褒美―――、"チラ見せ"というヤツです。」
司書はまたあのいつものニコニコ顔になる。
「百鬼―――っ!!」
赤目は百鬼に呼び掛けた。
場合によっては武力行使―――
力によって強引に奪うことも視野に入れる。
赤目はそう考えていたが、百鬼は首を縦には振らない。
そうか、百鬼はそういう女性だったな―――
ハンクとのやり取りを思い出す。
ここで百鬼の信用を失うことは長い目で見たら損だと思い直す。
「じゃあ、どうやったらその本を手にできると云うの?」
ベロニカは司書に尋ねた。
そうしたら、司書は優しくこう云った。
「初めに申し上げた通り―――」
「ここにある全ての本を手に取った時、それがこのテストのクリア条件です。」
司書は周りを見渡す。
どこか満足そうな表情だ。
「わ、分かったわ―――」
「でも、その時は必ず、約束を守ってね―――!!」
ベロニカは念を押す。
このペースなら後、半年もすれば本は手に入るだろうと考えていた。
しかし、人生はそんな上手くいかない。
司書がまた口を開く。
「でも、本当の地獄はここからだと思いますよ―――」
「えっ・・・!?」
そう言い残すとフッと司書に取り付いていたオーラがなくなり、いつもの司書に戻った。
そして、手に握られていた魔導書もどこかに消えてしまった。
「作業を再開するわよ―――!!」
ベロニカがそう云ったその矢先―――、事件が起こった。
バタンっ―――!!
突然、ヴィクトル、ベリヤ、百鬼の3名が倒れた。
「えっ・・・!?」
ベロニカはその光景に目を疑った。
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