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第577話 【魔王城潜入組】バラム地区⑩


~バラム地区 スラム街 廃屋~

 

 「なぁ、姉ちゃん―――、アンタら一体何が目的なんだ?」

 

 ハンクが百鬼に聞いた。

 

 今このボロ小屋の中にハンクと百鬼の二人きり。

 

 百鬼は凛とした風格はあるが、見た目はただの若い人間の女。

 

 男なら妙な気を起こしたくなるのも不思議ではない。

 

 しかし、ハンクは一切そんな気が起きない―――

 

 どうしてか身体の震えが止まらない。

 

 まるで、檻の中に自分と猛獣が二人でいるような気分になる。

 

 もし、この女に手を出したらそれこそ、自分の五体はバラバラになってもおかしくない―――

 

 そんな感覚だけが先行している。

 

 だから、こんな空気感を変えたくてか質問した。

 

 「・・・・いいでしょう―――、教えましょう。」

 

 百鬼は少し考えて、ハンクに目的を教えることにした。

 

 ここは素直に答えた方が協力してくれると考えたからだ。

 

 「私達は魔王城に捕らわれた六魔将 エレナを救出する為に魔王城を目指しています。」

 

 「エ・・・エレナ様を―――!?」

 

 ハンクはエレナが捕らえられていること知らなかったようだ。

 

 一般兵にはそんなこと知らされていなかったのだろう。

 

 「・・・・帰ってきたようですね―――」

 

 百鬼は徐に上を向いた。

 

 「えっ―――!?」

 

 ハンクは何のことか分からなかったが、次の瞬間、天井からさっきの男が降ってきた。

 

 「おわっーー!?」

 

 ハンクは驚いて、尻もちをついた。

 

 赤目の手や服の袖には魔族の血がベッタリと付着している。

 

 「外にいた者は始末してきた―――」

 

 赤目はそう云った。

 

 「敵はやはり魔王軍でしたか?」

 

 「あぁ、そうだ―――」

 「数は三人、レベルは50前後、二人はそのまま息の根を止めて、一人は重傷を与え、そのまま逃がした。」

 

 「逃がしたんですか?」

 百鬼は驚いた顔で聞いた。

 

 赤目が敵に情けを掛けるということに心底驚いた。

 

 「質問に答えたら命を助けると約束したからな。」

 

 「赤目さん・・・。」

 

 さっき自分が言ったことを気にしての行動なのだろうということに気付いた。

 

 「さて、ハンク―――」

 「先ほどの続きだ。」

 「貴様が持っている情報を教えてもらおう。」

 

 「さっきも言ったがコレはタダで見せられるもんじゃねェー!!」

 「アンタらが金を出すってんなら考えてもやるが・・・!!」

 

 「金か・・・。」

 赤目が呟く。

 

 「フン!どうした人間!!この俺を納得させるような金額は出せねぇーみてェだな!!」

 「だったらこの話はな・・・」

 

 ハンクは赤目が渋る様子を見て、この話をなしにしようとした。

 

 ドサッ―――!!

 

 そんなハンクが目の前に重たい物が落ちる音がする。

 

 「アァ―――!?」

 

 ハンクは目が飛び出しそうになった。

 

 ピカピカ光る金貨が大量に入った袋が目の前に放り出されたからだ。

 

 「こ・・・コレは!?」

 

 「情報と交換だ―――」

 

 「兄ちゃん―――!!本当にいいのか!?」

 ハンクは震える手で金貨の入った袋に手を伸ばそうとする。

 

 「構わない―――、私には不要な物だ。」

 天童グループは、優秀な者には目のくらむような大金が働いた成果報酬として手に入る。勿論、この世界の通貨であっても得ることが出来る。

 

 しかし、赤目にとってそんな大金は無駄な物。

 

 彼は金の為に働いている訳ではない―――

 

 彼が働いている理由は自分の居場所を作る為―――

 

 自分のことを認識してくれる世界を作る為―――

 

 だからこんな簡単に大金を投げ打つことができる。

 

 「赤目さん・・・!!」

 

 「百鬼、心配するな。」

 「コレは私の個人的な金だ。」

 

 

 「それ後で会社に請求すれば経費で落とせますよ。」

 百鬼はそう云った。

 

 「・・・・・・そうだな。」

 数秒の間をおいて、赤目が返事をする。

 

 百鬼の言っていることはもっともだが、元の世界に戻った時に事務処理をすることを面倒だと感じてしまう。

 

 金に関しては関心が無いので、事務処理をするくらいならこのまま黙ってすらいたかった。

 

 しかし、ここは百鬼の先輩としての威厳を保つ為、最初からそのつもりだった風を装う。

 

 「おい!お前ら!」

 「後で返してほしいと言っても返さんぞ!!」

 

 既にハンクが金の入った袋を抱えていた。

 

 「金は渡した―――」

 「情報を教えてもらおうか―――」

 

 「・・・・いや、まだだ!!」

 「金だけじゃ満足できねぇ!!」

 

 この期に及んでハンクがゴネ出した。

 

 「何っ!?」

 赤目が怪訝な表情でハンクを睨む。

 

 「赤目さん―――、話しを聞きましょう。」

 

 「そこの姉ちゃんの言う通りだ!!」

 「俺のもう一つの要求を飲んでもらおう!!」

 

 

 「・・・・・言ってみろ。」

 

 

 「知っての通り、俺は魔王軍に追われている!!」

 「俺の身の安全の保障!!それがもう一つの要求だ!!」

 

 ハンクはそう云った。

 

 その要求に少し、赤目は考える素振りを見せる。

 

 そして、百鬼に視線を向ける。

 

 百鬼も小さく頷く。

 

 「分かった―――、では貴様には魔族達の街へ行ってもらおう。」

 「そこには魔王 真島 未央がいる―――」

 「彼女に事情を話して、保護してもらうといい。」

 

 ハンクを未央のいる街へ行かせることを思い付いた。

 

 あそこなら未央がいる限り大抵の脅威からは守ってくれるだろうと考えた。

 

 「み、未央様!?」

 「そうか・・・それなら安全か・・・!」

 

 ハンクもすぐに納得した。

 

 未央の実力も魔王軍の中では知られているようだ。

 

 「《転移》!!」

 

 赤目は転移のゲートを創り出す。

 

 「ありがとよ!兄ちゃんたち!!」

 「コレはアンタらが欲しいと言ってた情報だ!!」

 

 ハンクがそう云って手渡してきた洋紙には魔王城から降りてきた地点とここまでの経路、そして"鬼"という存在の情報が書かれていた。

 

 「こ・・・コレは!?」

 

 赤目達はその情報を確認した―――

 

 お互いに顔を見合わせる。

 

 その時だった。

 

 ベロニカから念話で通信が行われた。

 

 「赤目―――?」

 「聞こえるかしら?」

 

 「ベロニカか―――」

 「問題なく聞こえている。」

 「そちらの状況はどうだ?」

 

 

 「それが少し困った状況になってて協力してほしいの。」

 

 それはベロニカからの協力要請だった。

 

 

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