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第574話 【魔王城潜入組】バラム地区⑦



~大図書館 レプリカ~

 

 「ねぇねぇ―――、ベリヤン!!見てて!!」

 

 ヴィクトルが楽しそうにベリヤを呼ぶ。

 

 ベリヤもヴィクトルの方を見ている。

 

 ヴィクトルが手を伸ばす先には薄汚れた本がある。

 

 ちょん―――

 

 ヴィクトルが本に触れた瞬間、本が光を放ち、消失する。

 

 その光は全てヴィクトルの中に入っていった。

 

 「「おおぉぉ~~~っ!!」」

 

 ヴィクトルとベリヤの二人は歓喜の声を上げ、今の現象に感心する。

 

 今の本の内容はヴィクトルの頭の中にインプットされる。

 

 「今ので、ヴィクトル殿は本の内容を覚えたでござるか―――?」

 

 「うん!!ページ数は251ページで、4部構成になってたみたい。」

 「主な内容はこの世界の歴史と発展の経緯って感じだね。」

 

 「ほぅ・・・歴史書ってことでござるな―――」

 

 「では、拙者も試してみますか―――」

 

 そういって、ベリヤもヴィクトルと同じように適当に本棚に置かれた本に触れる。

 

 そうすると、ヴィクトルの時と同じように本は光って消えた。

 

 その本の光がベリヤの中に入る―――

 

 本の内容がベリヤにインプットされる。

 

 「おぉ!!本の内容が分かるでござるよ!!」

 「読んだこともないのにっ!!」

 

 「すごいね!!ここ!」

 

 ヴィクトルとベリヤは二人、この不思議な空間に浮かれていた。

 

 そんな二人を横目にベロニカの方は黙々と図書館の本を触れては吸収、触れては吸収を繰り返していた。

 

 そして、着実に図書館の本を減らす中、思考を巡らせている。

 

 ただでさえ、この図書館の本は1億冊以上―――

 

 司書が云うにはこのレプリカ空間は外の時間よりも大分遅くなっているらしい。

 

 大体、ここでの一時間が外での一分相当だと言っていた。

 

 とは言え、時間は惜しい。

 

 こんな所で貴重な時間を使う訳にはいかない。

 

 それに命を落とすかもしれないというあの司書の話も気になる。

 

 200、201、202・・・。

 

 一冊ずつ手に触れ、本の内容をインプットしていく。

 

 「ベリヤン、ベリヤン!これ見てて―――!!」

 

 ヴィクトルが楽しそうに両手で触れ、同時に二冊を吸収する。

 

 「おぉー、すごいでござる~!」

 「同時に読み込むこともできるのでござるな!」

 

 「ふふん!!どうよ―――」

 

 ドヤ顔のヴィクトル。

 

 そんな遊んでいるような二人に対して、ベロニカは段々とイライラしてきた。

 

 自分はエレナを助ける為にこんなに真剣にやっているのにこの二人はどこか気の抜けたような―――、遊んでいるようにしか見えなかったからだ。

 

 そんなイライラも暫くして、ついに限界を迎えた。

 

 「ねェ!!二人とも真面目にやってくれないかしら―――ッ!!」

 「私達は大切な任務中なのよっ!!」

 

 ベロニカも本当は怒るつもりなんてなかった。

 

 でも、楽しそうにしている二人を見ていたら、何だか込み上げるものがあって、つい強い言葉を言い放ってしまう。

 

 「ご・・・ごめんよ―――、ベロニカ・・・。」

 「つい楽しくなって、はしゃいじゃった―――、気を付けるよ。」

 

 「すまなかったでござる・・・ベロニカ殿はリーダーという重責があり、真面目にやっていたというのに拙者達は・・・。」

 

 ヴィクトルとベリヤはすぐに謝った。

 

 自分達が楽しそうにしていたことがベロニカを不機嫌にさせてしまったことに気付く。

 

 二人はほぼ同時に俯き、すまなそうにする。

 

 「・・・・・。」

 

 「・・・・・。」

 

 それから二人は無言で、作業を再開した。

 

 ただ、黙々と本を手にとっては自分の中に取り込む作業を繰り返す。

 

 ベロニカも同じように本をインプットする作業に励む。

 

 そうして、レプリカ空間で数時間が経過していた。

 

 ベロニカ達の作業の様子を先ほどの受付嬢―――、司書は高い所から眺めていた。

 

 「貴方達にこのテストがクリアできるかな―――?」

 「貴方達はまだ分かっていない。」

 「このテストの困難さを―――」

 

 まだまだこの図書には膨大な数の蔵書がある。

 

 幾千年の中で培われた先人の知識を詰め込んだ図書の数々―――

 

 それらを取り込んでいく作業。

 

 魔導書探し・・・。

 

 「知識を得ると云うのは本来時間の掛かるもの―――」

 「それを手に触れるだけでショートカットする。」

 「それがどれだけ許されざる行為か―――」

 「身を持って体験するといいわ。」

 

 司書はそう云って、どこかに姿を消した。

 

 

 ベロニカは着々と作業を進めていく中で、心の中に靄が掛かっていることに気付く。

 

 さっきは二人に言い過ぎてしまったと―――

 

 本来、エレナを助けたいという願いはある種自分の我儘。

 

 それを皆は付き合ってくれているだけだ。

 

 それなのにただ楽しそうにしているというだけで、イライラして強く当たってしまったのは、こちらが悪い。

 

 単調な作業を行っているおかげで少し冷静になった。

 

 よし、二人にはさっきのことを謝ろう―――

 

 ベロニカはそう決意した。

 

 その時だった。

 

 ドサッ―――!!

 

 誰かが倒れる音がした。

 

 「ベリヤンーーーっ!!」

 

 ヴィクトルの声だ。

 

 大分慌てている。

 

 急いで、ベロニカもその声のする方へと向かった。

 

 「だ、大丈夫でござる―――」

 「少し、ふらついただけでござるよ―――」

 

 ベリヤはとても体調が悪そうにしている。

 

 少なくとも屈強な戦士であるベリヤが倒れるということがどれだけ異常事態か、想像に難くない。

 

 「何があったの?」

 

 冷静にベロニカは聞いた。

 

 「・・・・何もなかったでござる。」

 「拙者は二人と同じように本を手に取り、読んでいただけでござる―――」

 「ただ、ちょっと頭が痛くなってそれで・・・。」

 

 苦しそうな声で語るベリヤ。

 

 ウソは言ってないようだ。

 

 「ッ―――!!」

 

 ベロニカは後悔した―――

 

 自分の浅はかさに怒りすら感じた。

 

 「ヴィクトル、ベリヤ、ごめんなさい―――」

 「私がリーダーとして未熟だから、このような事態を引き起こしてしまったんだわ―――」

 

 そう云うベロニカの手が震えていた。

 

 「この図書館の本を手に取ると、膨大な情報が一気に頭に流れ込んでくる―――」

 「でも、それを連続でやると今のベリヤみたいにその情報量に耐えられなくなり、倒れた。」

 「もっと、考えるべきだった・・・。」

 

 ベロニカは二人にそう説明した。

 

 「どうやら気付いたみたいだね―――」

 

 司書は高みの見物をしたまま、不敵な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 ベロニカ達の読破総数:1559冊

 

 

 

 

 

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