第559話 【ガラドミア遠征組】決戦③
~ガラドミア宮殿内 玉座の間~
本当の所は少し、遊ぶつもりだった―――
闘いになんかならないだろうなって、心のどこかで感じていた。
でも、俺様の眼の前にいるのは、意外―――、それはそれは豪勢なご馳走だった!!
「なんで、テメェーみたいな強ェー奴が―――」
「こんな辺鄙な国に隠居してやがんだよォ!!」
「灰魔法―――」
サンドルは灰魔法を使用しようとするが、まだセルフィの術にかかったまま―――
魔法が使えない。
チッ!まだ使えねェーか!!
心の中で舌打ちする。
「どうした?もう怖気づいたのか?」
「鬼の王よ―――!!」
セルフィは自分が作り上げた氷の柱の上でサンドルを見下ろす。
「上から見下ろしやがってよォーーー」
「キヒヒヒーーー、だがなァ調子に乗ってるのも今の内だぜェ!!」
サンドルはそう云うと、収納のスキルで異空間から何やら取り出す。
「槍・・・?」
セルフィはサンドルの手にしたそれを見て、そう云った。
ここに来て、サンドルは初めて自分の愛用の武器を取り出す。
「昔は強ェー奴もわんさかいて、よく使ってたんだがなァーー!!」
「最近はめっきり、雑魚しかいなくなって埃を被ってたんだよなァ!!」
「《灰葬槍 アッシュ・スレイ・ランス》―――」
サンドルの身の丈よりも長い槍を彼は手にし、構える。
強大な力を秘めていることは肌で感じる。
コレがサンドルの本気の戦闘態勢。
その姿を見ても、セルフィの表情に一切の動揺無し―――
◆◆◆
「いいかい?セルフィ―――」
「これからはみんなのことを守ってやるんだぞ。」
あれからどれくらいの時が過ぎ去っただろうか―――
世界の王と邪神の闘い―――
約千年前に行われた聖戦。
父上はエルフ族の代表として闘いに赴き、そこで帰らぬ人となった。
それから五百年後―――
それから私は父上の言いつけ通り、民を守るための力を身に着けた。
この時には芽生えていた―――
自分が一族の頂点であるという自覚に。
民が安心して暮らせるように外界とのつながりを断った。
周囲に広範囲の強力な結界が張り、エルフ以外を寄せ付けないようにした。
「セルフィ様―――」
「そ、その力は・・・!?」
ガラドミアの領地にある特殊な素材が採取できるマギア湖を一瞬で凍らせたことがあり、従者は目を見開いて驚いた。
セルフィの魔力の覚醒に。
この時、既に非凡な才能を開花させていた。
覚醒した邪神が攻めてきた時、セルフィは一発の魔法で邪神を葬り去ったこともあった。
「君がセルフィ王女か―――」
「誰じゃ?」
「魔王アリス―――」
魔王と名乗る者が訪れたことがあった。
どうやって、結界を乗り越えて入ってきたのか、疑問に思ったが、ヤツを見て確信した。
魔族だが、悪いヤツではないと。
寧ろ、我に世界のことを良く話してくれた。
ヤツの話を聞くのはそんなに悪い気もしなかった。
「何で貴様は我に近づいてきたのじゃ?」
そうだ―――、毎日雑談をしに来ている訳でもあるまい。
我に近づくということは何か目的があるはずだ。
「あぁ、その通りだ―――」
「余は君の力を借りたいと思ってる―――」
「何の為じゃ?」
「未来の為―――」
アリスはそう返答した。
変なヤツだとは思ったが、他に特にすることもなかったので、興味本位で力を貸してやった。
ヤツは自分の力の全てを一つの石に封じ込めた。
「貴様、死ぬつもりか?」
「死ぬつもりはない―――」
「だけど、やり残したことがある。」
「もし万が一、余が死んでも余の意思を引き継げるようにこれを残す。」
この石があれば、自分が死んでもこの石に封じ込めた力を次の後継者に残せる。
どこかでそれを使うつもりなんだろう。
その日がヤツと会った最後だった。
それから風のうわさで魔王アリスが勇者と相打ちになって死んだという話が耳に入った。
別に悲しいという気持ちはなかった。
元より、本人は死ぬ気はないと言っていたが、死ぬ覚悟のある目をしていたし。
ただ、ちょっと―――
これから退屈になるなぁ・・・。
◆◆◆
この世界には様々な魔法がある―――
生活に使用する魔法、戦闘に使用する魔法、誰かを守る魔法―――
こと戦闘に関して、一発で地形を変えるような極大魔法だってある。
魔法と云うのは自分が使えば便利だが、相手が使用すればそれは極めて危険なもの。
凶器と一緒だ。
勿論、それぞれ対策をすることも可能だが、それはそれだけ時間を掛けることなる。
だからこそ、皆考える―――
その思考に至る―――
"発動する魔法が危険なら、発動させなければいい"
その為、何万の人が研究して、挫折し、苦しんだ。
魔法を封じる魔道具なんかも開発された。
魔法を封じる魔法だって開発されたが、一般化されるには程遠かった。
そんな凡才の努力を踏みにじるかのようにセルフィの魔法は存在する。
相手の『沈黙化』。
それは凡才達が喉から手が出る程欲しがった力。
「琥珀魔法:静寂なる騎士」
セルフィはその魔法によって3体の氷の剣士を創り出す。
彼らはセルフィの言葉に忠実に動く。
「ヤツを迎撃しろ―――!!」
サンドラを指差し、騎士達に命令する。
近接型でないセルフィが近接戦闘で渡り合うにはこういった手法を取る。
静寂なる騎士のレベルは80。
その剣にはセルフィの魔力が宿っており、斬りつけた者に『沈黙化』を与える。
「しゃらくせェーぞ!!」
「今更、こんな雑魚が相手になるとでも思ってんのかアァーーー!!」
サンドルは激高する。
静寂なる騎士達を前に吠える。
まずは一体の胴をアッシュ・スレイ・ランスが貫く。
「・・・・・・。」
静寂なる騎士は声を上げることもなく、忠実にアッシュ・スレイ・ランスを掴む。
一瞬、サンドルの身体に沈黙化が起こる。
身体の細胞を沈黙させた。
ザシュッーーー!!
サンドルは背後からもう一体に斬られる―――
痛みはそれほどない。
元々、痛覚は遮断しているからだ。
それでも眠くなる。
沈黙化の力だ。
チッ!!ねみぃ!!コイツ等の能力のせいか―――
「オラあぁぁーーー!!」
サンドルはそのまま豪快にアッシュ・スレイ・ランスを持ち、その背後の静寂なる騎士に攻撃をする。
最初の一体は胴を貫かれたまま、二体目に衝突させ、その身体を粉砕する。
「琥珀魔法:絶対零度!!」
地面から氷柱が生まれる。
当然、沈黙化が付与されている。
別にサンドルが静寂なる騎士と闘っているからと言って、セルフィが攻撃することを止めるということはない。
ここまで侵略を行ったサンドルを前に部下を戦わせて、自分は高みの見物を決めるつもり等毛頭ない。
圧倒的な力で捻じ伏せる―――、それがセルフィの解だから。
「こんな氷が俺様に効くわけねェーだろうがッ!!」
サンドルが力任せにアッシュ・スレイ・ランスを氷柱にぶつけた。
グラグラと音を立てて、建物が崩れる。
二人の勝負に建物の方が耐えられなくなっていた。