第546話 【ガラドミア遠征組】銀獅子姫 リオン VS 負荷 シエル②
~ガラドミア内市街地~
周囲の生物はシエルの泡魔法により『脱力』状態となり、地に伏している。
今この場で立っているのは、シエルとリオンの二人のみ。
そんな二人が向かい合い、衝突する。
シエルの武器は杖―――武器名『水精霊のロッド』。
水のエレメントを封じ込めた武器。深海の海王が海底の鍛冶師に作らせたという一品。
対するリオンの武器は剣―――武器名『獅子王の剣』
父親レオがかつて、現役時代に使っていたとされる剣を受け継いだ。クロヴィスの王としての資質がある者にしか扱えない剣。剣でありながら、『砕く』という打撃属性を持っている特殊な剣。
「泡魔法:淡い泡」
再び、シエルの周囲の泡が浮かび上がる。
そして、シエルが合図と共にリオンへ一斉に泡が発出される。
「またあの泡か―――!?」
「銀魔法:銀鏡の障壁!!」
リオン、今度は自分に対して防御壁を作り出す。
さっきも防げたのだから、今度も同じように防げるはずだと考えた。
「甘いよーー!!リオン姫!!」
「アタシの泡はそんな弱くないからッ!!」
「泡魔法:淡々の泡!!」
シエルの泡が激しさを増す。
脱力の先、生物を脱力させた後の『軟化』。
それが第二の泡の正体。
リオンの銀鏡の障壁の防御力を徐々に下げる。
泡を使用したデバフ系のエキスパート。
それが負荷のシエル。
「フフン♪」
「そろそろだね―――」
「泡魔法:泡の水撃」
杖に魔力を溜め、指向性のある泡の槍を発射する。
「クッ・・・!?」
その泡の槍はリオンの銀鏡の障壁を貫通する。
マズイ・・・!!このままじゃ!!
態勢を崩すリオン―――
この状態でシエルの泡を受けたら、自分も周りにいる彼らと同じように地に伏して立ち上がれなくなってしまう。
「終わりよリオン姫―――」
「でも、安心して倒れた後たっぷり可愛がってあげるから。」
シエルの笑顔が恐い。
宙に浮いたリオン―――、その眼前には大量の泡が。
ここまでか―――
リオンが目を瞑って諦めた。
その瞬間。
「お姉ちゃん―――ッ!!」
リオンを庇うように先ほどのエルフの少年が自ら盾になった。
「少年ッ!!」
逃げたかに思われた少年が思い直したのか、リオンを庇ったのだ。
バサッ!!
エルフの少年は地に倒れた。大量の泡を受けて全身に力が入らない。
「少年!!しっかりするのだ!!」
リオンが身体をゆする。
「えへへっ―――!!」
「ボク、お姉ちゃんの役に立ったかな?」
少年は精一杯の声を出す。
声帯も脱力によって上手く機能していないのというのにだ。
役にたったどころではない。
リオンの命を救ったと言っても過言ではない。
でも、リオンはそれを決して幸運だとは思わない。
ラッキーだったなんて、思えるはずもない。
自分の代わりに誰かが傷ついてしまったと思う。
それでも何でも前を向かなければいけない―――
それが戦場だから。
「役に立ったなんて・・・そんな悲しいことを言うなッ!!」
「少年―――、君は君自身のことをもっと大切にしてほしかったッ!!」
人は利用するか利用されるか―――
その2択しかない、そんな現実をリオンだって充分心得ている。
それでも―――
綺麗事かもしれないが、利用するとか利用されるとか、そんな薄っぺらい現実は否定してやるって―――
強く心に刻んだ。
だからこそ、少年が役に立ったなんて自分のことを物みたいに言っていることが悲しくて仕方なかったのだ。
人は生きているだけで人なんだ―――
決して、物なんかじゃないし、利用される為だけの存在でもない。
「チッ!邪魔が入ったみたいだね―――」
シエルが舌打ちをする。
リオンは少年を優しく、その場に寝かせ、立ち上がる。
「シエル殿―――」
「ここからは本気で行かせてもらうぞ!!」
リオンは覚悟の眼でそう云った。
それはまるで今まで本気で闘っていなかったかのようなそんな言葉だ
しかし、そんなことはない。
初めから真剣に戦っている。
だがリオンの中でセーブしている面もあった。
だからこれは、今からそれを外して、トップギアで自分の全てを出して闘うという宣言だ。
「獣王体技:獅子王の真価!!」
リオンは全身の獣化を促進させる。
獣人は、ある一定の年齢を超えるとある程度、人と獣の割合をコントロールできる。
リオンは自身の中に眠っている獅子の能力を解放させる。
すると、身体は獅子の体毛に覆われ始め、人の肌が視えなくなっていく。
顔つきも人ではなく獣に近くなる。
「えっ―――!?」
シエルは驚いた表情をする。
それでも、シエルの美的感覚的には人型の時の方が可愛いし、キレイだと判定する。
獣より人の方が美しいと―――
どうしてわざわざ力を得る為に醜い獣になんかなるんだと。
シエルにとってそれは許せない行為。
と、そんなことを思っている間にリオンは変形を完了させていた。
「あまり、手加減は出来ないから、覚悟するんだぞ!!」
は、速いッ―――!!
獅子の速さが完全にシエルの予想以上。
リオンはシエルの肩に噛みつく。
上品な闘いなんてもんじゃない―――
コレは野生の勝負なんだと、そう思わせるには充分すぎる程に獣だった。
「ッ―――!?」
リオンの牙はシエルの周りの薄膜を簡単に貫通する。
プシュー――!!
シエルの肩から激しく血液が噴出する。
喰われた・・・!?
私のキレイな肌が―――
そう認識するのに数秒ほどかかる。
喰われた!!喰われた!!喰われた!!喰われた!!喰われた!!喰われた!!喰われた!!喰われた!!喰われた!!喰われた!!喰われた!!喰われた!!喰われた!!喰われた!!喰われた!!喰われた!!喰われた!!喰われた!!喰われた!!喰われた!!喰われた!!喰われた!!喰われた!!喰われた!!喰われた!!喰われた!!喰われた!!喰われた!!喰われた!!喰われた!!喰われた!!喰われた!!
その認識は焦りから怒りに変わる。
「許せない!!」
シエルは怒りの表情をリオンに向けるが、もう遅い―――
その鋭利な爪でシエルの胸から腹を引っ?いた。
「ッ―――!!」
痛いなんて感情は怒りで上書きされている。
「泡魔法:淡々の泡!!」
シエルは泡魔法を使用して、リオンの動きを鈍らせようとするが、泡の速度の上を行かれている。
簡単に躱される。
か、勝てない―――
シエルはそう思った。
「獣王剣技:獅子の波動!!」
リオン、渾身の一撃をシエルに放つ。
「ガハッーーー!!」
吐血しながら、シエルの身体は宙を舞う。