第532話 【ガラドミア遠征組】ガラドミア内戦闘②
~ガラドミア内市街地~
神秘の門が開いていたことに違和感を覚えた新達は急いでガラドミア本国へと入った。
「何てことだ―――」
アルフレッドやロンメルはその変わり果てた惨状に絶望の表情を浮かべる。
ガラドミアの住民が何人も傷付き倒れている。
一体、誰がこんなことをしたのか―――?
そんなことは決まっている―――、魔王軍の奴らだ。
「皆の者―――、救助を急げっ!!」
「女性と子どもは優先して助けるのだッ!!」
アルフレッドは騎士として、冷静に部下達に国民の救助という命令を下す。
「だが、まだ魔王軍の連中がいるだろう!!」
「戦闘よりも人命を優先するのだッ!!」
「ヒドイです・・・。」
その惨状を前にキルの身体を借りてアルマがそう呟いた。
「残念だが、コレが戦争だ―――」
モレクはキルの肩の上でそう云う。
モレクは非情か?
いや、ただ現実を見ているだけだ。
「アルマ―――」
「泣くことなら誰だって出来るの―――」
「祈ることなら誰だって出来るの―――」
「嘆くことなら誰だって出来るの―――」
「でも―――、救うことは私達にしか出来ないの!!」
「はいっ!!」
「うむ、よく言ったキルよ!!」
「キルよ!!エルフ族を助けに行くのだ―――!!」
モレクはキルに命じる。
もっとも、そんな命令なくたってキルの心は既に決まっている。
「了解なの―――、モレク様!!」
キルはそう云って、瀕死のエルフ達に癒しの白魔法で救助する為、動き出す。
昔は命を奪うことしか出来なかった彼女が率先して、命を助ける為に動いていた。
昔のキルだったらこんなこと考えられなかっただろう。
「私達も手伝おうッ!!」
リオンはそう云った。
しかし、キルは冷静にこう云う。
「いや、貴方達はこの状況を作り出した魔王軍の連中を探してほしいの!!」
「奴らは全てを壊すまで殺戮を止めない奴らなの!!」
キルは元魔王軍―――、そしてこの惨状を作り出した魔王軍幹部を知っている。
そう―――、六魔将アドラメレク直属の戦闘部隊『レヴィアタン』。
戦闘のエリート集団。
冷酷無比の超攻撃的集団。
ここに残っている魔力の残り香が彼らのものとであるということに気付いていた。
だからこそ、新達には彼らの動きを止めて欲しいと頼んだ。
「分かった―――」
リオンがそう云う前に既に新とフラムの二人は動き出していた。
「は、早い―――ッ!!」
リオンは自分が出遅れたことを察する。
「ねェ、前から聞こうと思ってたんだけど、何でエルフ族って未だに弓なんて前時代的な武器使ってるん?」
リボルバーの弾倉に銃弾を詰め込む動作をするカウボーイハットを被った男。
男は頬に十文字の傷がある。
そして、その男の眼の前には怯えた様子の妻子を守るエルフ族の戦士がいる。
エルフの戦士はギチギチと音を立てて、弓を引いて構える。
今すぐにでも放てるように構えている。
「我々は森と共に暮らしてきた一族っ!!」
「貴様ら魔族とは違い、種族間の争いは好まないからだッ!!」
「争いを好まないねェ~~」
「そんな甘いこと言ってるから、何も守れないんDEATH!!」
ゆらゆらと脱力の状態からリボルバーの銃口をエルフの戦士に向ける。
エルフの男は緊張状態の腕の拘束を解除し、弓矢を放つ―――
鋭い一矢が魔族を捕らえたかに見えたが、ユラユラとした脱力した身体は矢をするりと抜ける。
な、何だこの動きは―――!?
エルフ族が知らない武の動きをする。
そのまま銃口をエルフの男の口にくわえて、引き金を引いた。
「BANッ!!」
バンッーーー!!
無情な銃声にエルフの血が床や妻子の身体に付着する。
エルフの男は妻子を守る為、戦ったが―――
あえなく命を落とす。
そして、カウボーイハットを被った男の牙が今度は妻子に向く。
「アンタの男は弱いから死んだんDEATH!!」
「キミのパパは争いを好まないから死んだんDEATH!!」
今度は妻子に銃口が向けられる。
薄暗い部屋の中、妻子の恐怖心はMAXになる―――
ひっ―――!!
えーん!えーん!
父親が亡くなったことで、子どもは泣いてしまう。
そんな様子を見て、ゲラゲラ笑う魔族。
妻子が力に屈服した瞬間、男は快楽を感じる。
自分の信じた"暴力"という概念が肯定された気がした。
「コレだよ―――これこれ!!」
「この瞬間が生きてるって感じがするんだよォ!!」
「お願いします!!私はどうなろうと構いません!!」
「ですが、この子だけは―――!」
「この子だけは助けてください!!お願いしますッ!!」
娘を想う母親は必死に懇願する。
何度も何度も頭を下げて懇願した。
「ア"ァ"―――!?」
「子を想う母親の頼みってかァ~~~~!?」
「じゃあ、今すぐこの場で服を脱げ―――!!」
銃口を向けながら母親を脅す。
母親はその言葉に従い、震える手で上着のボタンを一つずつ外す。
その瞳には大粒の涙を溜めている。
今にも溢れ出そうだ。
ニヤニヤとした顔で魔族の男はその様子を観察する。
そして、上着のボタンを全て外し終わった母親を前に次は下を脱げと命じる。
母親は震える手で履いていたスカートに手を掛ける。
その瞬間、ものすごい勢いで部屋に入って来る少年が一人―――
「ッ―――!?」
母子は勿論、魔族の男も驚いた表情を浮かべる。
窓ガラスを割って突入してきた少年 唯我 新。
「貴様はっ―――!?」
「アラタ―――ッ!!」
お互いに見たことのある顔。
「久しぶりだな―――」
「カウボーイ野郎ッーーーォ!!」
魔族の男の名前はジャック―――、『レヴィアタン』の一人。
そして、かつてクロヴィス城で新と一戦やったことのある男。
聴覚が異常に発達した新にはジャックとエルフ族のやり取りがハッキリ聞こえていた。
故に怒っている。
弱者を虐ぶるような行為をしていたジャックに対して―――
「ガキがこんなとこへ何しに来やがった―――?」
ジャックは新にそう聞いた。
「テメェーをブッ飛ばす為だよォ―――!!」
新はそう答えた。
ジャック VS 新
Fight It Out!!