第526話 【ガラドミア遠征組】不死の軍団⑤
~ガラドミア近辺 森の中~
神秘の門の南側から禍々しい魔力を感じた六谷達は急いで、その魔力の根源の元へと向かっていた。
「六谷殿―――」
「ちょ、ちょっと―――、速いですよーー!!」
後方にいたアニーが六谷にそう云った。
森の中を全力疾走する二人―――
森の中は我々が思った以上に足場が安定せず、空気は薄く、動植物が邪魔をする。
そんな全力疾走できるような場所じゃない。
普通に平原を走るよりも何倍も体力を消費する。
アニーは狩人である故にそれなりに慣れてはいたが、それでもあの六谷のスピードは異常だと感じていた。
スピードが落ちるどころじゃない―――
最初に捜索をしていた時よりさらに加速しているではないか―――
それにあの顔―――、標的を見つけてからより一層嬉しそうな顔をするようになった。
コレが本当に人族?
アドラメレクと殴り合っていた時も感じていたが、この六谷という男―――
逆境になればなるほど嬉しそうに笑う。
そして、その嬉しさに呼応するかのように徐々にパフォーマンスも上がる。
「ほら、アニーも速くするっすよ―――」
「敵は待っちゃくれないっすから!!」
二人とも木と木の太い枝を足場に次から次へと飛び移るように移動している。
まるで猿のようにだ。
いやー、森の中を高速移動はそんなに経験なかったっすけど、段々、コツも掴んできたっすね―――
偶には運動もいいもんっすね。
六谷はそんな気楽に思っていたくらいだ。
「そろそろ着くっすよ―――」
「敵もまだ動いていない・・・こっちの動きには気付いているけど、敢えて留まっているという感じっすね。」
とても挑戦的だ―――
だが、それはこちらも同じこと―――
六谷の見立てでは、この先にいる黒幕の魔導士は魔力だけで云ったら自分より遥かに格上。
だが、六谷も仕事人―――、敵の存在を察知していながら逃げるという選択はない。
「魔力は向こうが上みたいですが、戦闘力では負ける気がしないっすね―――」
最後の木の枝を飛び跳ねる。
着地した先は開けた丘の上だ。
「おやおや・・・コレは思った以上に早かったデスネ―――」
六谷の目の前にいたのは、全身紺色の古びたローブに身を包んだリッチであるベルデだった。
痩せ細ったその体躯に顔は骸骨のようだ。
手にはいくつもの貴重な指輪を装着している。
恐らく、何かしらの魔道具だろう。
明らかに他の不死者とは周囲を覆うオーラが違う。
「アンタが不死者達の大将って訳か―――?」
六谷は白い球体《6-シックス・ツール》を右手に忍ばせる。
何時でも仕掛けることが出来るようにする為だ。
「気を付けてください―――六谷殿!」
「アレはリッチ―――、特殊な魔道具を使って、自らの意志で不死者となった魔導士です。」
「いわば、力を得る為に自分の身体を捨てた狂人です。」
アニーがそう説明した。
なるほど―――、そんな特殊な魔道具があるんすね。
六谷は頭の中に情報を検索して【死神の指輪】という転生アイテムの存在を知る。
ほえぇー、このアイテムを使ってリッチに転生したってことっすか。
でも、結局ベースとなっている死霊術師としてのスキルも引き継いでいるならより凶悪な魔導士になったと理解した方がいいみたいっすね。
「この私を殺そうと云うのデスカ?」
ベルデは二人にそう問いかける。
「不死者を殺すってのもちっと変な感じだが―――、アンタ危険だからな!」
「戦闘不能にさせてもらうっすッ!!」
六谷はベルデを指差しそう宣言する。
その言葉を待っていたかのようにベルデは不敵な笑みを浮かべ、呪文を詠唱し始めた。
「魔法使いってのは、強力な前衛がいるから活きるってもんすよ!!」
六谷は両手に巨大なハサミを所持、そしてベルデにその刃を向ける。
「強力な前衛ならいるじゃないデスカ―――」
キンッ―――!!
金属同士がぶつかり合う音が鳴り響く。
どこから出てきた?
黒いオーラを身に纏った漆黒の騎士が六谷の前に立ちはだかる。
「No.8―――、私を守るのデス!」
ベルデは命じる。
「六谷殿―――、私も援護します!!」
「お願いするっす―――」
「でもヤバくなったら逃げて欲しい―――、あの騎士多分俺と同じレベル。」
アニーはそう云う六谷の顔を見る。
すると、六谷の額にこれまで見たこと無いくらい汗が溜まっていた。
あの六谷殿が緊張している?
アドラメレクにすら怯むことなく殴り合っていた六谷がベルデとNo.8を前に緊張しているようだった。
六谷をNo.8が足止めしている間にベルデは詠唱を完成されていた。
足元に多重の魔法陣を展開―――
コレは・・・通常の魔法とは違う術式・・・!?
六谷はその足元の魔法陣を見ただけで、その脅威を悟った。
「古神魔術:並行詠唱魔術!!」
「古神魔術:星に願いを!!」
足元に広がった魔法陣は一気に収束する。
一見、何も起こってはいないようだが・・・その実六谷達にとって、かなりヤバい状況だった。
「アニー!!今すぐここを離れるっすッ!!」
「フフっ・・・逃がしはしません―――」
「極大赤魔法:火炎地獄!!」
「極大紫魔法:雷神大鎚!!」
「極大空魔法:捻じれ竜巻!!」
ベルデは地形を変える程の強烈な極大魔法を連続で使用する。
六谷はすぐに異変に気付く。
本来、極大魔法はその威力故、詠唱時間が長く掛かり、魔力も通常の魔法よりも多く消費してしまう為、何発も連続で使用できるものではない。
それなのにベルデはほぼ無詠唱でしかも連続で発動していた。
「チッ!!どうなってんすか―――!!」
六谷は思考する―――
そして、すぐにこのままではこちらに勝ち目はないと一旦身を隠すことにする。
並行詠唱魔術は、一定時間どんな魔法でも無詠唱で瞬時に発動することが出来るようになる魔法。
星に願いをは、一定時間どんな魔法でも消費魔力0で使用することが出来るようになる魔法。
どちらもベルデが『亡者の禁域』で習得した古代魔法―――、チート級の魔法となる。
「ククク・・・威勢よく飛び出してきた割にもう終わりデスカ―――?」
辺りに砂煙が充満する。
「とんでもない魔術師ですね―――」
アニーが小声でそう云った。
「初めに唱えた魔法が極大魔法連発を実現させてるみたいっすね―――」
こんな状況でも六谷は冷静に分析をする。
咄嗟に岩陰に身を隠した二人。
ベルデからは六谷達の姿も見えなくなる。
「力の差は理解したデショウ?」
「さっさと姿を現したらどうデスカ?」
さてと・・・あの怪物級の魔導士・・・どうしたもんかな―――
六谷は思考を巡らせる。




