第521話 【ガラドミア遠征組】ネオ魔王軍誕生
~ガラドミア国内 商店街~
エルフの国ガラドミアの国内、エルフだけで経営をする店ばかり。
意外にも生活に困ることはない位には発展している。
戦争中ということもあり、物が枯渇している節もあるが、どこも工夫することで何とかやっているという印象だ。
「天童ーー!!六谷さん!!」
「早く!!早く!!こっち来て!!」
異世界の店にテンションが上がる花。
今日は六谷達はショッピングを楽しんでいた。
花にとって、この世界の街と云うのは珍しい。
元の世界にはいなかったエルフという種族に動植物も漫画などでしか見たことないモノばかり。
異世界に来たんだってことを認識させられる。
魔法屋や武器屋なんて元の世界じゃ、お目にかかれないだろう。
「全く、元気っすね―――」
六谷はポツリとそう云った。
「さぁ、進様―――」
「俺達も行きましょうか!!」
「ウゥゥーーア"ァ"ーー!」
車椅子に座ってゆっくりと首を振るう、虚ろな眼をした進。
六谷は車椅子を引いて、花の後を付いていく。
天童がこっちに召喚した時、その余りにも変わり果てた姿に六谷と花は困惑した。
暫く言葉を失うくらいにはショックだった。
俺なんか、足手まといになるならいっそこの手で処分しようとすら思ったくらいだった―――
でも、そんな自分の目の前で同じ位辛い気持ちになっている花ちゃんは、進様のことを守ると言った。
ただの女子高生がだ―――
危ない目にだってあったのに、それでもあの子は進様を守ると言ったんだ。
だから俺も出来る限りのことをしようと考えを改めた。
「コレ、天童に似合うかな―――」
「着せてみようよ!!」
洋服屋でテンションの上がる花。
「花―――、コレはどうだ?」
花達に声を掛ける者が。
「??」
花は振り向くと全身黒を基調とした格好の長身の男が―――
「えぇーーっと?どちら様?」
花は困惑した声で尋ねた。
「我だ―――、クロだ!!」
そこにいたのは、人間の姿をしたブラックドラゴンのクロだった。
「ウソっ!?」
「クロってドラゴンでしょ!!」
驚くのも無理はない。クロと云えば、数十メートル近いドラゴンだった。
それなのに、ほっそりとした長身の黒髪男性に変わっている。
「擬人化の術ってヤツっすね―――」
六谷は冷静にそう云った。
高レベルの魔物は擬人化の術を持っていても不思議ではない。
竜王クラスが人間に化けるなど造作もないことなのだろう。
でも、花からしたらビックリだ。
暫くは余所余所しかったが、それからは慣れたのか、気さくに話しかけるようになった。
「クローー!!」
「こっちも着てみてよ~~!!」
「花ちゃんの適応力もハンパねェ~~っすね!!」
六谷も驚いていた。流石は鍜治原の姪であり、伝説の召喚士の末裔だと思い知らされる。
~ガラドミア近辺魔王軍拠点 戦略会議室~
ガラドミアに侵攻を重ねる魔王軍―――
当初の想定したよりも攻める事に困難する彼ら。
理由はあの六谷とクロという異世界の存在だった。
レベル250というこの世界では考えられない高レベルのクロに、多彩な技術を駆使して、どんな状況にも対応してくる仕事人の六谷。
ただでさえ、高い魔力と武力を誇るエルフ族に戦争を挑んでいるのに向こうには超えられない二人がいる。
それがこの現状を引き起こしていた。
「度重なる失敗―――」
「ガラドミアへの侵攻―――、ここまで手を焼くことになるとは思いもしなかった。」
「皆の者、本当に申し訳ない―――!!」
低い声で頭を下げ、目の前の部下たちに謝るアドラメレク。
六谷との戦闘で受けた傷がまだ完全に癒えていない今、まだ戦場に戻れないでいる。
アドラメレク抜きで、レヴィアタンのメンバーをフルで投入しても向こうのクロと六谷コンビがどうにもならない。
「アドラメレクよ~~~!!」
「テメェーだけが悪いって訳でもねぇーだろが!!」
サンドルが玉座にふんぞり返り、そう云った。
サンドルも度々、戦場に出ているが、相手が完全に警戒しているせいでサンドルも思うように動けない。
1対1なら敗けることはないが、厄介な結界を張られている上に、相手は複数人で掛かって来る。
向こうは身体能力向上の魔法をガンガン使ってきて、こっちは逆に身体低下魔法を繰り返し、使われる。
「エルフ族・・・非常に厄介な相手だ~~。」
サンドルはそうぼやく。
あと少しで崩せそうで、その一歩が届かないもどかしさ。
「サンドル~~~随分と苦戦しているみたいじゃないかーー!!」
シンが会議室に入ってきた。
「シン~~~!?」
サンドルが顔を歪める。
アドラメレクもシンのことを聞かされていた。
魔王アリスの血を引く息子であると。
しかし、それ以外の者は知らない。
「あの人誰ですか?勝手に入ってきて。」
シエルはそんなことを言っていた。
そんなシエルにニッコリと微笑みを返すシン。
不気味で仕方ない。
「テメェーら魔王軍、思った以上に不甲斐ないみたいなんでな~~」
「サンドル!!オレが手を貸してやるよ!!」
「ア"ァ"ァ"~~~!?」
「調子こいてんのか小僧が!?」
いきなり入ってきて不遜な態度のシンにイラつくサンドル。
シンはここではあくまで客人。
まだ魔王軍で実権を得たわけではない。
「オレが必ず結果を出してやるって言ってんだ―――」
「今度はオレ達がガラドミアを攻める。」
「アンタらは無料で手伝ってくれるヤツが現れてくれてラッキー程度に思っとけばいいんだ。」
不敵な笑みを浮かべるシン。
俺様に恩を売ろうって腹なんだろうな―――
「いいだろう―――!!」
「だが、エルフ族の"王権"は俺様のもんだ!!」
「OK!!それじゃあ、オレ達は今からネオ魔王軍―――」
「そう名乗らせてもらうぜッ!!」
シンの後ろから色々な奴らが顔を出す。
一体いつからいたんだと思うくらい自然に。
シンが各地でスカウトしてきた者達。
魔族とか人間とか関係なく、色々な存在が。
だが、一つだけ言えるのが、力がどうとかじゃなく、対面しただけで逃げ出したくなるくらい恐い集団ってことだ。