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第518話 【ガラドミア遠征組】傀儡


自動機械オートマタ製造工場 最奥部~

 

 「俺のビッグモーターがああぁぁーーー!!!」

 

 P3は崩れ落ちるビッグモーターを前に両膝を折り、嘆く。

 

 「P3様、大変です―――」

 「収容されていた魔族達が反乱を起こしました―――」

 「奴ら、この施設を物凄い速さで破壊し続けていますッ!!」

 

 P3の机に備え付けられていた無線機からP3の部下の音声が聴こえてくる。

 

 P3はその声に顔を向け、聞き入る。

 

 更なる絶望の顔を浮かべる。

 

 「クソクソクソクソクソクソ!!」

 

 「もう終わりだよ―――アンタ!」

 

 目の前には新、フラム、メルクロフ

 

 新に手も足も出なかったのにこの3人を相手に勝てる訳がない。

 

 「何で俺がこんな目に遭わなきゃならない―――!?」

 「悪いのは貴様ら魔族だッ!!」

 「貴様さえいなければ・・・貴様さえいなければアァッーー!!」

 

 P3はメルクロフを睨みつける。

 

 「アラタ、コイツどうする?」

 

 メルクロフが新に聞いた。

 

 「どうするもこうするも・・・」

 「コイツには聞きたいことがあるが―――」

 「とりあえず、リーヨンのあのギルドマスター?に引き渡しゃーいいだろ。」

 

 元々、リーヨンのギルドマスター ロンメルからの依頼だった。

 

 ガラドミアへ行くことの協力としてこの依頼を受けた。

 

 当然、このP3がどうなるのかは彼らに任せる方がいい。

 

 そう思っていた、その時―――

 

 徳川から通信が入る。

 

  "新様―――、ちょっとよろしいでしょうか?"

 

 「ア"ァ"―――?徳川のおっさんか。」

 「どーしたんよ。」

 

 

  "新様―――、その男に『国光 智明』という男を知っているか聞いてみて下さい。"

 

 徳川は新に頼んだ。

 

 「おい、アンタ、『国光 智明』ってヤツ知ってるか?」

 

 

 「ア"ァ"?」

 「『国光 智明』だぁ?そんな男知らねぇよ!!」

 

 「知らねぇーってよ。」

 新は徳川にそう伝えた。

 

 徳川がこの施設について新達に伝える。

 

  "そのP3という男はどうやらこの施設で力の弱い魔族を強制労働させ、命令に従わない者に対して、恐ろしい拷問のようなことをしていたようです。"

  "それが女だろうが、子どもだろうが、老人だろうが関係なくです。"

 

 それはP3にとって、都合の悪い情報。

 

 力の弱い魔族達に酷い仕打ちをしていたとメルクロフが知れば、その怒りは果てしない―――

 

 「アラタ・・・この男、ここで殺してもいいか?」

 

 「メルクロフ・・・?」

 

 メルクロフは怒りで震えている。

 

 この男がここまで感情的になるのも珍しい。

 

 かつて、幼い頃、自分も人間に迫害されたことと重ねてしまう。

 

 「おぉ、魔族の兄ちゃん、いい表情になったじゃねェーか!!」

 「そうだ!!貴様らは薄汚い悪魔だッ!!」

 「だから俺のやったことは何一つ間違っちゃいねェーー!!」

 「ほんの数年前、この辺りはもっと木々があったり、魔族が住んでいたりしたんだがな。」

 「この施設を立てる時に邪魔だったんで俺達が村を焼き払ったんだぜ!!」

 「おかげさまで、この辺りは今みたいに荒野になり、スッキリしただろ?」

 

 「・・・・・・。」

 3人はP3の言葉を黙って聞いている。

 

 もはや吹っ切れたのかP3は話を続ける。

 

 「生き残った魔族共はここで奴隷のように扱った!!」

 「魔族らしからぬ平和主義だのなんだの抜かしやがったから、俺が都合よく使ってやったのよ!!」

 「そして、人間様の方が偉いんだぞって身体に教えてやったわけだ―――!!」

 「ハハハっーーー!!!」

 

 「外道が・・・。」

 

 メルクロフだけでなく、新とフラムも怒りの眼を向ける。

 

 このP3という男は最低なクソ野郎だと認識した。

 

 徳川はこの様子を施設の外で念話を通じて聞いていた。

 

 そして、徳川にある閃きが過る。

 

 そうだ―――、新様にこの男を殺させようと。

 

 徳川はそう考えた。

 

 進様や心様にあって、新様に足りないもの―――

 

 そして、この先必ず必要になって来るもの―――

 

 それが、『人を殺せる』かということだ。

 

 綺麗事や理想論だけでは人は動かない。

 

 いざって時に手を汚すことの出来る覚悟。

 

 それが、進やキルにあって、新にはないものだと前から考えていた。

 

 だからこそ、これは新に手を汚させるいい機会であると直感したのだ。

 

  "新様―――、その男をここで殺しましょう―――"

 

 徳川はそう指示する。

 

 「ハァ?何言ってんだよ!!」

 

 新も最初はそう云った。

 

 しかし、徳川はこれまでのこと、進やキルにあって新にないもの、シンと衝突は避けられず、今後必ず必要になって来る覚悟であること。それらを分かりやすく説明する。

 

  "シンを倒したいのなら、進様を本気で助けたいと思うのなら、ここで甘い考えは捨ててください!!"

 

 P3をこの手で殺めることで、その覚悟を持つことが出来る―――

 

 幸か不幸か、このP3という男は真正のクズ。

 

 殺したって何にも問題はないはずだ。

 

 誰も責めはしないだろう―――

 

 「俺が・・・殺るっていうのか・・・?」

 

  "えぇ―――、そうです。これは新様自身でやらねばなりません。"

 

 これまで相手を戦闘不能になるまで殴ってきたことはあるが、殺したことは一度もない。

 

 心のどこか奥底で人殺しはダメなことだって、認識していた。

 

 今だってそうだ。

 

 人殺しなんてやっていいはずが無い。

 

 でも、俺がそんな甘い考えだから、あのシンってヤツにも天童にも、鍜治原にも勝てなかった。

 

 アイツ等はいざってなったら、そんな甘えた考えを捨ててやるだろう。

 

 「分かった・・・俺やるよ。」

 

 新は自分の拳を見て、そう覚悟した。

 

  "その決断を待っていました―――"

  "さぁ、敵は目の前!!戦意は喪失しています!!やるなら今ですッ!!"

 

 徳川は煽るように言った。

 

 「ちょっと、待ってくれよ―――」

 「冗談だろ?テメェーら、リーヨンのギルドマスターに依頼されたんだろ?」

 「だったら、ここで俺を殺すのはマズいんじゃねぇーのかっ!!」

 

 P3は新の覚悟が本気と見るや先ほどの不遜な態度を一変、命乞いをするような態度を取り出す。

 

 「な、なぁ・・・お前、俺に聞きたいことあるんだろ?」

 「何だって話すから―――、俺の知ってること全部話すから!!」

 「な?だから俺をここで殺すのは止めてくれ―――」

 

 「・・・・・」

 

 新は深呼吸をする。

 

 眼は澄んで、これから人を殺めるなんて風にはとても見えない。

 

 「なぁ―――、冗談だろ?」

 「俺が悪かった―――!!だから・・・だから助けてくれって!!」

 

 その静けさから放たれる拳。

 

 P3の瞳に写る新―――、その視界にはある人物をとらえる。

 

 P3の部下であるタイアンだ―――

 

 新達に倒されたと思っていたタイアンが何故か後ろで不敵な笑みを浮かべて立っているじゃないか。

 

 タ、タイアン、俺を助けろ!!

 

 P3がその言葉を口にすることはなかった。

 

 スパッーン!!

 

 空を切るような音を立てて、新は拳を放つ。

 

 新が顔面を殴打―――、そして顔面を貫く。

 

  "童貞の卒業―――、おめでとうございます。"

 

 徳川は嬉しさからか、自然と拍手をしていた。

 

 バチバチバチ・・・

 

 拍手の音に紛れて、貫かれたP3の顔から電子音が鳴る。

 

 何かがおかしい―――

 

 そう気づくのに時間は掛からなかった。

 

 「な、何だこれェ?」

 

 P3の顔は機械だった。

 

 「コイツ、人間じゃなかったのか?」

 

 新達は困惑した。

 

 自分達が人間だと思っていた者は他の自動機械オートマタと同じだった。

 

 「いいモノを見せてもらいました―――」

 「おかげでいいデータが採れました。」

 

 パチパチパチと拍手をして再び新達の前に現れたのはタイアンだった。

 

 「て、てめぇー生きてたのか!?」

 

 フラムに斬られて戦闘不能になっていたハズのタイアンが五体満足に立っている。

 

 「タ・・・タイアン・・・?」

 「何で、俺・・・機械?」

 

 首だけになったP3―――、困惑した顔でタイアンに言葉を向けたが、興味の失った物を見る目でタイアンはP3の首を踏み潰した。

 

 「仲間じゃなかったのかよ!!」

 

 新はそう云った。

 

 「仲間?冗談はよしてください。」

 「今のはP3―――PuPPetパペット・・・ただの傀儡です。」

 

 新達は先ほどのタイアンとは別人と話している気分にさせられていた。

 

 

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