第510話 【ガラドミア遠征組】おきかいクエスト③
~自動機械製造工場~
無人の荒野から西方に20km離れた地に機械兵たちが生み出された工場があった。
工場には隠蔽の能力が使われており、周囲からの索敵スキルに検知されないようになっている。
「報告いたします―――」
「先ほど、リーヨン-エアルベア間物資輸送車の強奪に出た自動機械からの通信が途絶えました―――」
「いかがなさいましょうか―――、P3様!」
青い髪に眼鏡を掛け、小奇麗なタキシードを着た少年が淡々と報告する。
その瞳は感情がないみたいだ。
「タイアン―――、テメェも自動機械なら何が起きたのか解析くらいできるだろォ!?」
タイアンと向かい合っているのは、室内だというのに高級なコートを着て、サングラスを掛けた男―――P3と呼ばれた者。終始偉そうな態度を取っている。
そのP3というのは自ら名乗っている偽名のようなものなのだろうか―――?
この機械製造工場の責任者のような存在か。
「申し訳ございません―――」
タイアンは機械兵たちに何が起こったのか解析を進めさせる。
「兵隊共全部が壊れたってんなら誰かが俺達に盾突いてきているってことだ―――」
「そいつらはもしかしたらここを嗅ぎ付けてくる可能性があるなァ―――!!」
「最後にドローンに映し出された映像送られてきました―――」
「P3様―――、こちらをご覧ください」
タイアンは室内にあったモニターにドローンが最後に記録した映像を映し出す。
そこには荷馬車から出てくるモロトルフ、そして彼女の卓越した弓術でドローンが射貫かれている所が映し出されて、そこで映像がストップしていた。
「コイツは只の行商人って風には視えねぇーな!!」
「動きが素人のそれじゃねェー。」
「大方、先日俺達が同じように物資を強奪したことがリーヨン、エアルベアに伝わって、そこから派遣された刺客って所か―――」
「それに今の映像―――、弓使いが一人しか映っていないが、機械兵のやられ方を見るに刺客は複数人だ―――」
P3は一人で納得する。
「タイアン―――、奴らが来たら歓迎してやれよ―――!!」
「決して生かして帰すな!!」
「承知いたしました―――!!」
タイアンは一礼する。
「それと魔石の製造状況はどうだ―――?」
機械兵を動かす為の動力として魔石をエネルギー源としている。
この製造工場ではそんな動力源である魔石も大量に生成していた。
「捕らえた魔族達には朝から晩まで、魔石の原石に魔力を注入させている作業をさせていますが―――」
「P3様が目標としている数値の魔石には届いていないというような状況です。」
表情を変えずにタイアンは報告する。
ノルマが達成されていない―――
そんな報告を受け、一気にP3の機嫌は悪くなる。
「オイ、オイ、オイ―――」
「アイツ等のこと甘やかしてんじゃねェーか!!」
「魔族はなぁ―――、俺達人間にとって、害悪でしかねぇーんだよッ!!」
「アイツ等のことを人間と思って接してんじゃねェーよ!!」
「容赦なんかするんじゃねェーぞ!!」
「寝る魔も惜しんで作業させろ!!分かったかーッッ!!!」
P3は顔を怒りで歪め、タイアンを怒鳴りつける。
「承知いたしました―――」
怒鳴られているのに全く表情を変えないタイアン。
「よーーし!!」
「再教育してやる!!」
「そこに四つん這いになれ―――ッ!!」
P3はそう指示する。
「ノルマを達成しない、ルールを守らない、数字でない―――、0点。」
「・・・・・」
タイアンは無言で言われた通り、その場に四つん這いになる。
P3の手には電流を帯びた鞭。
そしてその鞭を使って、タイアンを激しく鞭打つ。
「教育教育教育教育教育教育教育教育教育教育教育教育教育教育教育教育教育教育死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑教育教育教育教育教育教育教育教育教育教育教育教育教育教育教育教育教育教育」
P3はそう連呼して、嬉しそうに鞭を打つ。
その痛みを悲痛な声も出さずに堪えるタイアン。
もしかしたら、機械だから痛みは感じないのだろうか。
「大変申し訳御座いません。」
「厳しく改善指導致します。」
ひとしきり、P3が鞭打ちに満足したのち、タイアンはそう云って、部屋を後にした。
~無人の荒野~
「あちぃーー!!」
「マジでこの辺砂と岩しかねぇーな!!」
新がベロを出してそう不満を垂れ流す。
「新様―――」
「冷たいお水をどうぞ―――」
徳川はどこから出したのか、水筒を新に手渡す。
「おぉー!!気が利くじゃん!!」
「サンキュー!!」
馬車を襲撃してきた機械兵を追いかけて、このだたっぴろい荒野を歩いてきたのだから。
敵の拠点を見つける為、発信機を付けた機械兵をコッソリついていってる。
本当は空を飛んだり、転移で移動することもできるが、索敵スキルにその拠点が検知できていないことを考えると、その移動手段をこの段階で使用するのは危険だと判断する。
敵がこちらの存在をどう認識しているか分からないからだ―――
弱者として判断するか、強者として判断するか。
こちらの世界でも飛翔や転移は高位の存在しか使用できない。
それを我らが使用してしまっては、間違いなく強者認定をされてしまうだろう。
そうなれば、最悪拠点にいる奴らは逃げてしまう可能性がある。
それを危惧してここは徒歩で移動するしかないのだ。
そして、暫く一行は歩き続けて、ついに目的地に到着する。
「なぁ、―――その発信機を付けた機械ってこの先にいるんだよな」
「でもそんな建物、視えねぇーぞ!!」
新がそう云う。
「恐らく、結界のような類で我らには検知できないようになっているようですね―――」
徳川そう説明する。
「結界ってことは、実際はここに何かしらの建物があるってことかな?」
フラムが徳川に聞いてみる。
「そうですね―――」
「邪魔なので、破壊しましょうか―――」
「えっ!?」
フラムはそう答える徳川に一瞬驚いて、思わず聞き返す。
それは言葉通りの意味だったが、徳川の手に力を込めて、周囲に展開されていた結界を破壊する。
パリンっ―――
みんなの耳にも聞こえた。
結界が割れる音。
「こんな建物がここに有ったなんて・・・!?」
リオンが生唾を飲み込む。
それだけ巨大な工場が有ったのだ。
現実世界でよくあるようなコンクリート造りの建物。
ここであの機械兵集団が造られたのは間違いないだろう。
「まぁ、何でこの世界にこんな建物があるとか聞きてェーことはあるだろうが、みんないっちょ暴れてやろうぜっ!!」
新はみんなにそう云う。
一行はこれからこの製造工場に突入を開始することになる。