第508話 【ガラドミア遠征組】おきかいクエスト①
~リーヨンの街 エリアの家~
「いつもエリアの世話ありがとうございます。」
フラムはエリアの母親に挨拶をする。
フラムは久しぶりにリーヨンの街に戻ったので、元同じパーティメンバーのエリアの家に寄っていた。
相変わらず、意識は戻らず、ずっとベッドに眠ったままのエリアを見て、落胆する。
エリアが眠りについてからもう半年以上が経ったのか―――
以前、サンドルと対峙した時、ヤツにパーティを壊滅させられ、同じパーティメンバーであるエリアに呪いを掛けられた。
1年以内にサンドルを倒さないとエリアが死ぬ呪いだ。
それから色々あり、既に半年以上が経過している。
あと、数カ月以内にサンドルを倒さないといけない。
この半年間、ヤツを倒す為、鍛え続けてきた。
ヤツは今、ガラドミアにいる情報を得た。
倒すならこのチャンスしかないと思った。
だから殺る―――
他の誰でもないこの僕の手で、サンドルの息の根を止める。
フラムは右手を強く握り締める。
決意を新たに。
そして、エリアにまた来ると言葉を掛け、皆の待つ場所へ向かった。
エリアの為、止まってなどいられない―――
~無人の荒野~
「話にあったのはこの辺りだな―――」
メルクロフはそう云い、周囲を警戒する。
リーヨンと首都を繋ぐ物資輸送経路の中で、輸送者以外の通行がないことから『無人の荒野』と呼ばれる場所がある。
輸送車がやられたのは、ここらしい―――
ここでは、農業をしても作物が育たない土壌であり、雨も滅多に降らない、水源もない等の理由で人はおろか、魔物も寄り付かないという場所だった為、これまで物資輸送の経路として重宝されてきた。
まぁ、魔物も住処にしないような場所なら通るのに安全だったからだ。
しかし、今回輸送車が何者かに襲撃され、御者は殺され、物資は奪われた。
一体誰がそんなことをしたのか―――
後で調査に赴いた冒険者によると、御者は何者かに斬られたような形跡があり、魔物の可能性は低いとのことだ。
ということは、誰かがこの辺りを根城にしているという可能性がある。
魔物でないなら、賊の類?
状況的にそう視るのが、一番腑に落ちる。
新達はロンメルとの約束でガラドミアへ行く協力の条件として、輸送車襲撃の犯人を突き止めて、対処してほしいと依頼されたので、今はその現場である荒野へとやってきた。
「徳川―――」
「アンタはこの状況どう見る?」
新は徳川に聞いた。
この徳川という男、戦闘以外も優秀で、味方でいるならかなり心強い存在であることは新も認識している。
「事前に報告があったように魔物の仕業ではなさそうですね―――」
「周囲に獣の足跡が見当たらないし、ここに来るまでもなかった。」
それにしても不思議なのが、人間の足跡もないようだ・・・
もし仮に賊が複数人ならば、足跡の一つくらいあってもいいはずだ。
全て丁寧に消した・・・?
そこまで用意周到な者がいるだろうか・・・?
徳川は思考する―――
そんな用意周到な人物として、鍜治原の顔が浮かんだが、アレはもはや例外中の例外。
アレを基準に考えてはいけない。
「ってことは人間の仕業ってことか―――?」
新は再び質問する。
「今のところ何とも言えませんが、まずはその線で考えてみるのがよいかと・・・」
「ただし、先ほどから私の索敵系のスキルでこの周囲を探っているのですが、私達以外の生物の反応がありません。」
「もしかしたら、敵は隠蔽系のスキル発動することで、周囲に何かしらの察知不可の状態にしているのかもしれません―――」
徳川も索敵系のスキルはいくつか所持しているが、索敵に特化しているわけではない。
相手が徳川以上の隠蔽スキルを持っている場合、探ることは不可能。
「我々の中に索敵に特化したスキル持ちはいない―――」
「唯一、姉さんが狩人系スキルの《鷹の眼》を持っているが、アンタの索敵スキルに引っかからないなら、視認できるかも怪しいな―――」
メルクロフはそう云って、他の者の反応を伺う。
基本的に皆、戦闘系のスキル持ちしかいない。
ヴィクトルや円能寺、百鬼がいれば多少状況は変わってきただろうが、ないものねだりをしてもしょうがない。
「ちょっとやってみたけど、メルクロフの言う通り、この辺りに変わった建物とかはなさそうね・・・。」
「えっ・・・ってことは犯人探せないってこと?」
リオンがそう云って少し焦った顔になる。
「いえいえ、犯人を炙り出すのはそう難しくないでしょう。」
「まぁ、いくつか方法はありますが―――」
「一番簡単な方法としては、我々が物資輸送車を装って、この荒野を走ることですね。」
徳川はニヤリと笑みを浮かべて、提案する。
この男の中では既にいくつかプランがありそうだ。
メリット、デメリットのバランスを考えて物を言う。
「僕達が囮になるってことかい?」
フラムが質問し、徳川は小さく頷く。
奴らが獣などでなく、人間であるとするなら、またこの地で同じことをするだろうと考えた。
「また同じことをすると何で言い切れるのだ?」
リオンが徳川に聞いた。
徳川は次のように答える。
彼らはここには護送車しか通らないことを知っていた。
それはつまり、ここで襲えば目撃者はいない状況になる。
仮にその後、調査隊が来たとしても自分達は隠蔽系のスキルがあるから身を隠せる自信がある。
そして一回成功した奴らは味を占め、もう一度同じことをするはずであると。
「仮に我々が輸送車に扮した所を襲ってこなかった時は別のプランにしましょう―――」
「ちなみに別のプランとはなんなのだ?」
リオンが再び質問する。
「フフフ・・・」
「それの答えに関して、今は控えさせてもらいます―――」
「もし、必要になったらその時にお話しいたします。」
悪い笑みを浮かべる徳川。
コレはロクなことを考えていないなと皆は一様に理解する。
こうして、徳川の提案に従い、一行はリーヨンに戻り、馬と馬車を用意し、護送車を装い、再び荒野へと出発した。
「出来るだけ怪しまれないように顔は隠しておきましょう。」
徳川の指示により、基本的に御者はフラムがやり、剣や鎧などの装備は外し、御者を演じる。
それ以外の皆は馬車の中で身を隠す。
荒野を進んで一時間ほどが経過した時だった。
そんな輸送車に扮する一行の荷物を奪おうと、刺客が迫る。
「フラムさん危ないッ!!」
《鷹の眼》のスキルで周囲を警戒していたモロトルフが外に飛び出る。
「フェイルノート!!」
「暗黒武技:彗星の一矢-ウーラノス!!」
モロトルフの放った矢が何かを貫く。
ガタッ・・・!!
ゴツゴツした荒野の大地に何が落ちた。
皆はそれを確認する為に馬車から飛び出す。
「コレは・・・機械・・・?」
モロトルフがそれを見て、呟いた。
空を飛ぶ機械。
「まさか、この世界でコレがあるなんて・・・!?」
徳川は大きく眼を見開き、少し動揺を見せる。
明らかにこの世界のテクノロジーを超えた機械。
それは現実世界で製造されるような無人航空機―――、いわゆる『ドローン』だった。
「連射型の銃が取り付けられている・・・」
「それにカメラ・・・」
「遠隔で操作されていたようだ―――」
徳川はそのドローンに触れて確認する。
幸いなことにモロトルフの矢が貫いた時にカメラも一緒に破壊されたようだ。
既にカメラは使えていないため、この状況は伝わっていない。
「なるほど―――」
「人間の足跡もなかった理由は分かった―――」
「どうやら輸送車を襲ったのは、機械集団だったという訳か・・・。」
徳川は剣を抜く。
ザッザッザ―――
砂を蹴るような音が次第に大きくなる。
数十を超える機械の兵隊が隊を組んで新達に迫ってきた。
「面白くなってきたじゃねェーか!!」
新達は戦闘態勢に入る。