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第504話 【守るべきもの】助けたい


 天童と初めて会ったのは、たしか未央を通じてだった。

 

 幼馴染の男子を連れてくるからと部室に連れてきたのが、まさかあの有名人の天童 進だった。

 

 名前は知っている―――

 

 流行とかにも疎い自覚はあるが、雑誌とかテレビ、ネットニュースにも時折出ている少年が目の前にいる。

 確か色々なスポーツの記録を尽く塗り替えたり、偉い学者でも思いつかないような発想で数々の難問を解いたり、最近流行った伝染病の特効薬を開発したとかで有名になった高校生だ。

 

 そんな凄い奴がこのオカルト研究部の部室にいるって驚いたが、実際に話してみると思ったよりも気さくでいい奴だった。

 

 責任感とか使命感?っていうのが人より強いんだなって感じてはいたけど、それ以外は"普通の高校生"って印象を受けた。

 

 勿論、本人がそうやって普通の高校生を演じていただけなのかもしれないが、私は直に接していて、そう感じたのは事実だ。

 

 

 「君が一緒に未央とオカルト研究部に入ってくれた鈴谷 花か―――」

 「未央の無茶な勧誘に応じてくれて感謝する―――」

 

 隣のクラスの天童 進・・・?

 

 未央の知り合い?

 

 部室で本を読んでいた時に入ってきたのは、学校の有名人である天童 進。

 

 「私もオカルトには興味があったから入っただけ。」

 「まぁ、私が興味あるのは『超能力』。」

 「人智を超えた力に興味があるの―――」

 「そういう意味だと、今日天童と知り合えたのは都合がいい―――」

 

 花は進にそう云った。

 

 花の口調はいつも通り淡々としていたが、その内心は心が躍っていた。

 

 人類がおおよそ不可能だと言われていたスポーツの記録を短期間で次々と塗り替えていった男が目の前にいる。

 

 これ以上ない超能力の研究対象になる。

 

 もしかしたらこの男を研究し続ければ超能力を会得することも夢ではないと思わせるには充分だった。

 

 その日からオカ研の部室に顔を合わせる度に進に実験に付き合ってほしいと申し出ていた。

 

~エルフの国 ガラドミア~

 

 「天童オォォーーーーッ!!!」

 「どうしたんだよ!!しっかりしろよッ!!」

 「聞いてるのかよッ!!」

 

 花は虚ろな眼をする進の肩を揺さぶり、声を掛け続けていた。

 

 花は現実世界で友人だった進の変わり果てた姿に困惑の色を隠せない。

 

 

 六谷はその変わり果てた進の姿を前に少し考える。

 

 円能寺から事前に話は聞いていたが、いざ実際に目の前にするとコレは・・・。

 

 こんな状態の進様でこれからの戦闘に役立つのだろうか―――

 

 いっそ、俺の手で殺った方が進様自身の為にもなるのでは・・・?

 

 六谷は自身の手で進の命を葬り去ることすら考える。

 

 しかし、そんなことをすれば徳川が黙ってはいないだろう。

 

 勿論、自分が殺したという証拠は一切残すことなく葬ることだって可能だ。

 

 しかし―――

 

 現実世界での進との思い出が脳裏を過る。

 

 情に流されるなどという行為は仕事人(プロ)としてあってはならない。

 

 でも・・・どうして・・・止めろ・・・本当にそれでいいのか?

 

 六谷の頭の中で色々な思考が渦巻く。

 

 少し悩んだが、結論としてはしばらくは様子見という判断を下す。

 

 ブラックドラゴンのクロは自身の顔を進の方へゆっくりと近づける。

 

 進に興味を持ったのか、その大きな爪を優しく頭に当てる。

 

 「クロ・・・?」

 

 花はクロの方を見上げる。

 

 「この者の中にとてつもなく強固な信念が眠っているのを感じる―――」

 

 一瞬触れただけで分かってしまう。

 

 「花よ―――」

 「面白いものを見せてもらった―――」

 

 エルフの女王セルフィは上機嫌そうにそう云った。

 

 それから自分は寝ると言って、奥の部屋へと行ってしまう。

 

 まぁ、なんとも自由な女王様なのかとも思ったが、今はそれどころではない。

 

 『《念話》による声を受信しました。』

 

 六谷の頭の中にシステムコールが聴こえる。

 

 「徳川さんから通信か―――」

 

 「こちら、六谷です。」

 「えぇ、無事に進様の方はこちらに呼び出すことに成功しました。」

 「ですが進様―――、自分が想像していたよりもコレは酷い状態ですね。」

 

 「それについて、こちらの未央様から花さんの方へ伝えたいことがあるそうだ―――」

 

 「未央ってこちらの世界で魔王となった少女でしたっけ―――」

 

 六谷は報告上、未央のことも円能寺から聞かされていたが、念のため確認する。

 

 「あぁ、そうだ―――」

 「やはり、現状のこちらの戦力を考えると魔王の力を持つあの娘を無視することはできない―――」

 「幸いなことに社長の救出にも前向きのようだ。」

 「私としては、協力者として前面にバックアップしていきたいと考えている。」

 

 

 昨日の敵は今日の友ってことっすね―――

 

 先日、あの子らとバチバチやっていたって聞いていたけど、流石の切り替えの早さだな。

 

 六谷は徳川に感心する。

 

 「花ちゃん―――」

 「ちょっと、こっちに来て。」

 

 六谷は花へ小さな声で手招きする。

 

 「・・・・?」

 

 首を傾げ花は六谷の近くへと行く。

 

 「花ちゃーーーーーッッん!!」

 

 花の耳に聞こえたのは懐かしい声。

 

 空中に浮かぶ画面に映る未央の姿。

 

 間違いなく同じオカルト研究部の未央。

 

 円能寺お得意のシステムへの介入により、《念話》のスキルを勝手にチューンアップしていた。

 

 声だけでなく映像も届くテレビ電話のようなに形に改造した。

 

 「未央っ!!」

 「やっぱり、無事だったんだなッ!!」

 

 現実世界で行方不明となっていて心配はしたが、やはり無事だったんだと安堵する。

 

 まぁ、簡単には死なないしぶといヤツだとは前から感じていた。

 

 「新君も無事だよッ!!」

 

 「よっす―――!!」

 「久しぶりだな―――」

 

 未央の隣に新の姿が出てきた。

 

 花は嬉しくなった。

 

 しばらく行方不明だったみんなが無事だったことが。

 

 そして花は未央からこれまでのことを詳しく聞いた。

 

 この世界のこと、魔王軍のこと、進の父親のこと、シンという男のこと、現実世界で異能力者が増えること、そして自分達がこれからガラドミアへ向かうこと。

 

 そして、花も自分のこれまでのことを話す。

 

 お互いが情報交換をする。

 

 そして、他愛のない話も―――

 

 久しぶりに会ったのだから、これくらいの話も許されるだろう―――

 

 周りに大人がいるが、関係ない。

 

 だって自分達はまだ子どもなんだから。

 

 偶に日常を感じたっていいじゃないか―――

 

 「うん、分かった―――」

 「天童のことは任せてッ!!」

 「私が絶対に守るから―――!!」

 「私、二人のこと待ってるから!!」

 

 花はそう云って、念話による話を終えた。

 

 そして、花は進の手に自分の手を当て、必ず元に戻すからと言って、微笑む。

 

 その表情は希望に満ちていた。

 

 

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