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第499話 【傷だらけの英雄】触れ合い


~亜空間内 魔族の街 霊園~

 

 

 「オ、オオオォォォーーーーッ!!」

 

 無限の殴打を繰り出す無からの解放ゼロ・フリー・ナックル。

 

 有限という制限から解放された必殺技。

 

 一体、どういう原理なんだ・・・?

 

 それは不可解に、連続で、止まることなく、殴られ続けるシン。

 

 新はただ一発拳を放っただけなのに、その衝撃が止まることなく、それも連続で、シンの全身を襲っている。

 

 まるで十数人に囲まれて、止めどなく、縦横無尽に殴られ続けているみたいだ。

 

 それとも、その様は踊っているようにも視えるという表現が正しいのだろうか。

 

 この時の様子を見ていた徳川―――、その原理を理解することは不可能。

 

 いや、徳川だけじゃない、この無からの解放ゼロ・フリー・ナックルの原理を理解出来る者は誰一人いない。それはもはや神々の領域だから。

 

 人類という生命の根源である人体を完全に理解した者がいないように、新の"自由"の力が何故自由であるのかを理解できる者など存在しない。

 

 それは圧倒的な戦闘力を誇るシンでさえも例外ではない―――

 

 「さっきまでの威勢はどうしたよ―――?」

 

 新は、口に溜まっていた血を地面に吐き出し、シンを睨みつける。

 

 「《超解析》!!」

 

 シンは自分の身を護る為、スキルを発動させる。

 

 しかし、シンの目の前に写るのは『エラー』の一文。

 

 やはり、エラーが出力され、解析することは不可能。

 

 S細胞に起因した力はあらゆる時空から集められたデータを元に造られた物である為、基本的に解析することが出来ない。

 

 「しょーがないな―――」

 「オレも少し本気を出すか。」

 

 シンは腰に携えていた刀剣を引き抜く。

 

 「『月光一文字』―――!!」

 

 

 「刀だとォ・・・!?」

 

 新は驚いた―――、刀剣を構えたその雰囲気はまさしく進と瓜二つだったから。

 

 シンも進や真と同じように刀を武器として使う。

 

 「何を驚いている?」

 「天童流剣術―――、アレは生み出したのはオレだッ!!」

 「オレが起源、オレがオリジナルなんだよォ!!」

 

 「そして、天童流剣術は極めれば"概念"まで斬ることが出来る!!」

 「天童流剣術:無月むげつ!!」

 

 シンは思いっきり月光一文字を振り下ろした。

 

 瞬間―――、空中に表示される。

 

 『無限』という文字が―――

 

 そして、その『無限』という文字の内、一文字が切断される。

 

 まるで、意味が分からないだろうが、そう表現する他ない。

 

 『無限』という文字の『無』が切り裂かれ、『限』という文字だけになる。

 

 そして、『限』となったその瞬間、無限に思えたシンへの攻撃『無からの解放ゼロ・フリー・ナックル』が消失する。

 

 「・・・・ッ!?」

 

 周りで視ていた者は、一様に信じられないというような顔をしている。

 

 お互いがお互い神がかりのようなことをしているからだ。

 

 限りのある有限に縛られない技を繰り出す新に対し、概念を切り裂き、無限を有限に変えるシン。

 

 「新ァ・・・!!」

 「お前も中々やるみたいだが、そんなんじゃオレは超せねぇよォ!!」

 

 シンはまた自分の舌を出して、新を挑発する。

 

 もっとだ―――

 

 もっと、力が欲しい・・・

 

 新はそう願った。

 

 身体の全神経が集中する。

 

 まるで新の身体を構成する60兆個の細胞それぞれが意思を持っているみたいに、シンを倒すことだけに集中する。

 

 力を引き出す。

 

 新の中に眠る怪物の力を。

 

 「侵食率90%・・・」

 

 新は自分の中のもう一人とシンクロする。

 

 「新君ッ―――!?」

 

 未央は新の名前を呼ぶ。

 

 そこからは何が起こったのか、認識できた者は少ない。

 

 異次元の殺し合い―――

 

 時間にして数秒間。

 

 刀を抜いたシンと新たな"自由"の力を拳に込めた新。

 

 斬り合い、殴り合い、闘いの主導権の握り合い。

 

 時間も空間も全てが置いてけぼりになるくらいの激闘がその数秒間で行われていた。

 

 気が付けば一瞬だが、二人にとってはとても長い時間の語り合いだった。

 

 それで決着が付いた。

 

 「何て闘いなんだ・・・・」

 

 それは余りにも厳かで壮大で刹那的だった。

 

 かつて新と死闘を繰り広げたメルクロフは、その死闘に美しさすら感じて涙を流していた。

 

 「新ァーーー!!」

 「愉しかったぜ―――!!」

 

 結果として、その場に立っていたのはシンだった。

 

 力尽きたのだろう―――

 

 新は白目を向いて、その場に倒れていた。

 

 「ウウゥゥ・・・ア"ア"ァ"ーーー!!」

 

 車椅子に乗っている進も今しがた目の前で繰り広げられた死闘に反応しているようだった。

 

 唸り声を上げ、その眼には涙している。

 

 カタカタと両手が痙攣している。

 

 明らかに身体が反応を示している。

 

 己の無力を感じているのだろうか。

 

 何もできない自分を嘆いているのだろうか。

 

 それとも友であり、兄弟である新の全力で挑んでなお、敗北してしまったことを悲しんでいるのだろうか。

 

 「進ゥーーー!!」

 「悲しいか?悔しいか?それとも憎いか?」

 「人生はドラマチックで、劇的だ―――」

 「いや、そうでなければならない―――!!」

 「誰もが自分の人生の主人公であり、自分の世界の中心でなければならない!!」

 「クロヴィス城でのことを覚えているか?」

 「貴様はオレに向かって、必ず斬ってやると宣言したんだッ!!」

 「それなのに今の貴様はどうだ―――?」

 「自分の兄が倒れている、自分の大切な人達が傷ついているにも関わらず、何もできない!!」

 「悔しいだろーー?そうなんだろォーー?」

 

 シンは進の頬に優しく手を当てる。

 

 まるで赤子に触れるかのように優しく。

 

 「アアアァーーー!!ア"ァ"ァ"ーーー!!」

 

 心の底から悲しんでいるかのような声を上げる進。

 

 「ククククッ・・・・。」

 笑いが止まらないシン。

 

 「オレは今ここで貴様の息の根を止めることだって出来るんだ―――」

 「生殺与奪の権を握っているのはオレなんだ―――」

 「今のお前を殺すことなんて簡単だ。」

 「この手を強く握るだけで命を摘み取れる。」

 

 「進ちゃんに手を出さないでッーーー!!」

 

 未央が叫んで止めようとする。

 

 「止めたかったら、力づくで止めたらいいさ!!」

 「だが、貴様らに止めることなんて出来ない。」

 「無力さを感じて、絶望に打ちひしがれろッーーー!!」

 

 その瞬間だった―――

 

 進の身体が光った。

 

 「ッ―――!?」

 まるで光の粒子のように進の身体が足元から消えていく。

 

 「えっ―――!?」

 

 未央は驚く。

 

 何が起こったのか理解が出来ない。

 

 「コレは召喚の紋章・・・!?」

 

 その光に飲み込まれるように進の身体は跡形もなく消えてしまった。

 

 「どういうことなの・・・?」

 未央は困惑する。

 

 さっきまでそこにいたハズの進の存在が消えてしまったのだから。

 

 

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