第497話 【傷だらけの英雄】舐めプ
~亜空間内 魔族の街 霊園~
新 VS シン。
突然、始まったバトル。
「何で―――、さっき追撃してこなかったんだァー?」
シンが口を開き、聞いてくる。
新の初撃がヒットした後、倒れたシンに対して追撃をして来なかったことを不思議に思ったのだろう。
「倒れている相手に攻撃すんのは流儀に反するからに決まってんだろ―――!!」
己の意地や信念に沿って行動する。
新には自分だけのルールみたいなのがある。
その一つが倒れている相手に追撃はしないこと。
「随分と甘いなーーー!!」
「そういう所だぞ―――、新ァ!!」
「お前が進とは違う所はッ!!」
「進は容赦なく殺しに来る―――」
「だが、お前はどうだ?」
「俺達がやってるのはなァ―――」
「試合じゃない―――」
「スポーツじゃない―――」
「ファイトじゃない―――」
「"殺し合い"なんだよォ!!」
「1対1でなくてもいい、武器も使用してもいい、罠に嵌めたっていい、人質を取ったって構わない。」
「不意打ちだって、奇襲だって、寝込みを襲ったっていい。」
「ただ、相手の息の根を止めることに本気を出すッ!!」
「正々堂々なんて言葉は糞喰らえで、その身に相手の血をいっぱい浴びることを快感に思う―――」
「そんなやり取りだろォ―――?」
「俺達がしようとしているのは―――!!」
「話が長ェーッ!!」
「テメェの説教なんざ聞きたくねェンだよ!!」
「さっさとやろうぜ!!」
臨戦態勢になる新―――
その様子を見たシンは深いため息を吐く。
「だからさぁーー」
「俺達に開始の合図なんて要らないだって―――」
「そんなこと言わないでさっ―――」
ドンッ―――!!
話を続けようとするシンの他所に新の上段蹴りがシンの顔面に放たれる。
相手が意識する前に攻撃する。
それこそ、合図なんてない。
「見事な不意打ちですね―――」
徳川が感心する程。
しかし、相手は不幸の塊のような男、シン。
新の上段蹴りを受けても顔を少し歪ませて、ニヤニヤしているだけ。
「・・・・・。」
シンはその片足を掴み、その細い身体じゃ考えられな位の力で新の身体を持ち上げた。
「チッ・・・!!」
新は掴まれた足とは逆の足で高速の足撃を浴びせる。
しかし、シンに効いている様子はない。
まるで意に介さないシン―――、ついには詰まらないのか、欠伸をする始末だ。
「俺の"自由"を奪ってんじゃねェーよッ!!」
「拘束からの解放・ナックル!!」
シンが掴んでいたハズの新の足がいつの間にか消えている。
「力を使ったな―――?」
シンはニヤニヤしながら嬉しそうにそう云った。
「恐怖からの解放・ナックル!!」
瞬間、いなくなった新が突然、シンの目の前に出現。
恐怖からの解放・ナックルはどんな拘束をも解き放つ技。
鋭利な角度から、低い体勢のアッパーカット。
恐怖からの解放。
恐怖からの解放・ナックルは、その場を包み込む恐怖をリセットする技。
自由な一撃がシンに打ち込まれる。
SS級の化け物であるミノタウロスを打ち倒した程の威力。
それなのに何故ここまでこの男は涼しそうな顔でいられるのだろうか―――
「ふぅ・・・」
「全然ダメっ―――!!」
「"不合格"だッ!!」
シンは新の着ている服の襟を掴み、思いっきり上に投げ飛ばした。
人体がそんな野球ボールみたいに簡単に吹き飛ばされるものか、現実離れしすぎて目を疑うくらい勢いよく飛ばされた。
シンは大地を思いっきり蹴り上げ、投げ飛ばされた新の方へ飛んだ。
勿論、追撃する為にだ。
「いいか、まだ死ぬんじゃねェーぞ!!」
「"パンチ"ってのはなぁーーー」
「こうやって"撃つ"んだよッ!!」
バンッッッ―――!!
対戦車ライフルが撃たれたみたいな銃声が鳴ったと思ったら、新の身体を貫いていた。
「あっ・・・いけね・・・。」
「ちょっとばかしやり過ぎて、胴体貫通しちゃったか―――」
「ガハッ―――!?」
新は口から吐血する。
シンの打拳のあまりの威力に新の腹は裂け、空中に新の鮮血と内臓の破片が舞っていた。
まるでいい大人が子どものおもちゃをうっかり壊したかのようなリアクションを取るシン。
圧倒的すぎる力―――
「痛みからの解放・ナックル!!」
新は自分の痛覚を遮断する。
そして、血走った眼でシンを見据える。
ここまでの力の差を見せつけられてもこの男の闘志は尽きない。
「抵抗からの解放・ナックル!!」
相手の抵抗力を0にして渾身の一撃を打ち込む技。
これならシンがどれだけ硬かろうが関係ない。
「抵抗力を0にする技か―――」
「ならば、抵抗する必要がないな・・・」
シンはタコのような軟体動物になったみたいにユラユラと動く。
そして、新の抵抗からの解放・ナックルをその身に受けて、地面に叩きつけられる。
「あの男・・・身体の抵抗力を敢えて0にして、今の攻撃を受け流したのか・・・!!」
近くで見ていたメルクロフがシンの受け技に気付いた。
「やっぱり、二人ともめちゃくちゃっすね・・・。」
円能寺は生唾を飲み込んで二人の攻防を見守る。
円能寺だけじゃない、そこにいた皆が勝負の行く末を見守る。
「円能寺、赤目、百鬼―――」
「このままでは新様がやられる―――!!」
「加勢するぞッ!!」
徳川が再び、剣を抜く。
「ですが、新様は先ほどを手を出すなと―――」
百鬼は反論するが、徳川の眼を見てそんな言葉は云うべきでないと口を閉じる。
「僕達もアラタ君の加勢に行こう!!」
フラムが未央やリオンにそう云った。
二人は頷く。
それに合わせて、メルクロフ達ジャハンナムやベロニカ、ケルベルも動いた。
もはや、新だけの勝負じゃない。
アレは皆で挑まなければいけない。
そう感じさせるには十分すぎる程の強敵だった。
「1対多数でも卑怯ではあるまいな?」
徳川がシンへ斬り掛かった。
「勿論♪」
「寧ろ、そうすることで俺が不幸になれるならウェルカムだッ!!」
この男は余裕の表情を崩さない。
この世界での強者である者が数人で一斉に攻撃を仕掛けても涼しい顔で受け流す。
デコピンや軽い拳打で、飛び掛かってきた者をあしらう。
コレは戦闘なのだろうか?
戦闘能力に差があり過ぎて、ヤツは遊んでいるようにしか見えない。
あのキルや未央の放つ一撃必殺級の極大魔法ですら、涼しい顔で弾き返す、トンデモナイ化物だ。
「ハァハァ・・・」
「お前らいい加減、気が済んだか―――?」
「お前らとじゃ、殺し合いにすらならないってことが分かっただろ?」
かつて隣に並び立つ者がいない天の際のような存在という意味から"天際"と呼ばれた男がいた。
いついかなる時も不幸を感じることで、強くなり、不幸を味わうことで、喜びを得て、全てを不幸に包みたいと願った結果―――、その欲望は誰にも止められないものにまで成長した。
そして、シンは今、ここにいる者、全ての絶望した顔が見たいが為に圧倒的な戦闘力で"舐めプ"をした。
強くなるために努力をしてきた者の絶望に満ちた表情―――、その全てを賭けて最強の頂に立とうと"頑張った"んだろう。
だからこそ、それを意図も容易く踏みにじる時、戦士は最高に不幸の顔を見せる。
それがシンにとっては大好物。