第496話 【傷だらけの英雄】不意
~亜空間内 魔族の街 集会場~
「では、次の議題として―――」
「今後のリーダーについてなんですが・・・」
徳川が話を続けようとする。
徳川達は新を推していきたいと考えている。
戦闘力に関しても申し分ない。
性格的にも皆を引っ張っていくことが出来るだろう。
それに何より天童の血を引いている。
そこが一番大きい。
しかし、徳川がリーダーを決めようと話を切り出したタイミングだった。
いきなり室内の締め切ったドアを勢いよく開く音がした。
ガララッ―――!!
「お話し中の所、申し訳ございません―――!!」
「緊急事態です!!」
そこに現れたのは伝令役の兵士だ。
恐らく、神殿騎士団の内の一人だろう。
胸の所に十字紋が刻まれた鎧を着ている。
「そんなに慌ててどうしたのですか―――?」
キルの身体を借りたアルマが尋ねる。
「リカント殿の墓標の近くに"シン"と名乗る不審な魔族が現れました―――!!」
「"シン"だとッ―――!?」
徳川が声を上げた。
今まで議題に上げていたシンがこの近くに現れた―――
こんな都合の良いことが起こるだろうか。
本当であれば、またとない真を救出する手掛かりとなる。
「今はどうなっているんすか―――?」
円能寺がその兵士に尋ねた。
「我々、神殿騎士とリカント殿の配下である魔族の方々で取り囲んでいるような状況です。」
「分かった―――」
「我々も至急、向かおう!!」
徳川は待っていたかのような嬉しい笑みを隠しきれていない。
思わず、手を覆って隠すが、周りの人にも気付かれただろう。
~亜空間内 魔族の街 霊園~
新達は伝令のあったリカントの眠る霊園に駆け付けた。
そこには、大勢の倒れる兵士や騎士、上級魔族がいた。
そして、リカントの眠る墓の前に一人の男が立っている。
忘れもしない顔―――、あの匣で見た男『シン』だ。
間違いない。
「何やってんだアアァーーーっ!!!」
「テメェェェーーーッ!!!」
新は誰よりも疾く、真っ先に余裕な表情で突っ立っているシンに向かって殴る為、飛び掛かった。
バアアアァ――ーン!!
しかし、何かよく分からない障壁に阻まれる。
まるでバリアのような壁が新とシン、二人の間に現れた。
「やっぱり来たか・・・!!」
シンは包帯でグルグルに巻かれた腕を振り払い、全員と正面に前を向く。
「まさか、貴様の方からやって来るとはな―――」
徳川が一歩前に出る。
「あー、それね。」
「まさか、ラスボスである俺の方からこうやって赴くなんて思ってもいなかったでしょ―――?」
「だからこそ、そんなお前らの顔が見たかった―――」
「俺のことが嫌いだろ?憎いだろ?殺したいだろォ?」
「その為にチャンスをやりに来たんだよ!!」
「社長はどこだ―――?」
「居場所を教えてもらうか―――」
徳川は背中に隠していた刀剣ソハヤを抜き出し、臨戦モードになる。
「俺に勝ったら教えてやってもいいよ―――」
「でも、お前らが束になっても俺には勝てないけどね―――」
「仕事人を舐めているのか―――?」
今まで徳川の冷静だった顔から怒りが漏れ出す。
そんな今にも斬り掛かりそうな徳川を後ろに新が両手を広げる。
やる気のある徳川を制止する為―――
「待てよ・・・お前ら―――」
「新リーダーは俺なんだろ・・・?」
「だったら、コイツとはまず俺が戦る」
「誰も手ェー出すんじゃねェーぞ!!」
「新様・・・!?」
新は本能的に感じ取った。
シンの脅威を。
だから、他の者に手を出さないように言った。
多分、コイツとまともに戦り合えるのは、俺しかいねェー。
次点でキルの嬢ちゃんか、未央ちゃんだけ―――
チラリと後ろのキルと未央を見る。
「新君―――」
「私達も協力しようか?」
未央がそう云った。
「いや、二人は手を出さないでくれ―――」
「俺には分かるんだ―――」
「アイツはこれまでない位に危険だッ!!」
単純な強さじゃ、コイツには勝てない。
何故か分からないが、それだけはハッキリと分かる。
リカントがコイツに殺されたってのも何となく分かるぜ。
新とシン、向かい合って初めて分かることもある。
自分の身体にはこの男の血が混ざっている。
この男が自分の先祖なのだと。
「どうした?」
「威勢のいいことを言った割に掛かってこないのか?」
シンは新を煽る。
「うるせェーー!!」
"攻めあぐねているのなら【オレ】の力を使えッ!!"
まただ―――
最近になってさらにハッキリ聞こえるようになった。
俺の中に眠る怪物の声が。
「フゥーーー・・・。」
「そうだな―――」
「今回はそうさせてもらうぜ。」
新の身体を纏う自由の力。
この力は心地いい。
思いっきりぶん殴れる。
「S細胞の力を取り込んだか。」
シンも認識する。
真が作り出した最強の細胞。人類全てを進化させる計画。その中でもさらに特異な最強の細胞。
シンとしても存在は知っていたが、相対するのはコレが初めて。
「時間からの解放・ナックル!!」
時間という概念からはみ出した拳技。
構えてから放つまでの時間、相手との距離、目線、仕草、癖―――、その全ての制限を無視した一撃。
つまり、回避不能の一撃。
それがシンの顔面にヒットする。
これならさっきの謎の障壁を出す隙すら与えない。
「ッ―――!?」
プッシュぅぅーーーー
シンは殴られた後、地面に背中を当てて倒れる。その顔からは新の拳の衝撃によって生まれた煙が立っている。
リカントを瞬殺する程のシンからダウンを取った。
周りにいたスカウト組は予想以上の新の技に驚いていた。
「おい!!」
「この位でへばるテメェじゃねェーだろ!!」
「さっさと立ちやがれッ!!」
「いやいや、もっと余韻に浸らせてくれよォ―――」
「久しぶりなんだ・・・この俺を殴ったヤツってのは―――」
「だから、もっともっと俺を不幸にしてくれよ―――」
「不幸を感じさせてくれよォーーーっ!!」
ゆっくりと立ち上がるシン。
そしてケタケタと笑い出す。
そんな光景を新達はただただ不気味に感じていた。