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第494話 【傷だらけの英雄】新リーダー


~聖王国近郊 クローバの森~

 

 クロヴィスと聖王国の間に位置するクローバの森。

 

 程よく心地のよい木漏れ日に照らされる。

 

 唯我 新は先日の聖王国での戦いの傷を癒す為、ここを訪れていた。

 

 ただ、実際の所、身体の傷は、その比類なき超再生能力によってほぼ完治している。

 

 ここに来たのはどちらかと言えば、レジャー。

 

 自然の環境に身を置くことで心身ともに回復をしたいと思ってやってきた。

 

 「救世主様ぁ~」

 「薪たくさん持ってきましたよぉーー!!」

 シャーリーが小さい身体で両手いっぱいの薪を抱えてトコトコ歩いて来た。

 

 ボトムズでは、奴隷としてコロシアムに参加させられていたシャーリー。

 

 偶然、ボトムズに落とされた新に助けられシャーリーは、あの日以降新のことを『救世主様』と呼んでいた。どうやら、自分の中の世界を救ってくれたからそう呼んでいるらしい。

 

 「おぉーー!!ありがとさん!!」

 「んじゃ、そこ置いてくれるか―――?」

 

 「はい!喜んで!!」

 

 嬉しそうな顔のシャーリー。

 

 自分を絶望の淵から助けてくれた新に相当懐いている。

 

 新の為ならどんなことだって協力すると言っているくらいだ。

 

 今日だって、新のキャンプに付き添うことができて非常に喜んだ。

 

 「じゃ、まずは火を起こすか―――」

 

 この世界にライターはないが、魔石を燃料にして火を起こすライターのような魔具は存在する。

 

 新は、その魔具で火を起こす。

 

 最初は小さな火種だが、次第に大きくなり、暖が取れるくらいになった。

 

 ボツリ、ボツリ・・・火が勢いよく飛び跳ねては消え、飛び跳ねては消えを繰り返す。

 

 火を見ていると心が落ち着く。

 

 別に今は夜って訳ではないが、それでも火を見ていると、周りが自然の木々で溢れているというのも相まって、心が休まる。

 

 新は聖王国での闘いを思い返していた。

 

 ボトムズに落とされて、ウィルと地上を目指して駆け回ったこと。

 

 ボトムズのコロシアムで強敵と相対したこと。

 

 神殿騎士団長のグレガーと再戦したこと。

 

 ボトムズでリカントに助けられたこと。

 

 そして、そのリカントが突然現れたシンという男に殺されたこと。


 空中に浮かぶ白い立方体『アーク』で鍜治原に負けたこと。


 進が親父と死闘を繰り広げて、記憶を失って別人のようになってしまったこと。

 

 「これからどうすっかなーー」

 

 ボソッとそんなことを呟いてしまう。

 

 「救世主様ぁ~!お肉焼けましたよ!!」

 

 シャーリーが程よく焼けたスライス済みの肉を取り皿に乗せ、新に差し出す。

 

 「おっ―――!」

 「いい感じに焼けてんじゃん―――」

 

 「味付けはバッチリです!!」

 「私の方でやっておきましたから!!」

 

 シャーリーが胸を張って、自慢げに話す。

 

 そんな焼けた肉を新は美味そうに平らげる。

 

 そんな感じで、肉だけでなく野菜や魚などを焼いて新とシャーリーは食べていった。

 

 腹も満たされた二人。

 

 「たくさん食べましたねーー!!」

 

 「そうだなーー!」

 

 シャーリーも新も腹を大きくして、その場に横になる。

 

 土の上だろうが、二人は気にしない。

 

 「救世主様はこれからどうしますか?」

 

 突然、真面目な調子で新に話しかける。

 

 「どうすっかなーー」

 「天童があんな感じだしなーー」

 

 先日の真との死闘で口も聞けない廃人になり果ててしまった進。

 

 どうすれば元の進に戻せるか分からない。

 

 新は新なりに悩んでいた。

 

 これからのことを。

 

 どうすれば、進を元に戻せるのか。

 

 そもそも元に戻すことなど出来るのだろうか。

 

 そんな横になりながら悩んでいる新の近くに複数人の足音が―――

 

 ガサガサっ―――

 

 「こんな所におられましたか―――」

 「ずいぶんと探しましたよ―――」

 

 

 聞き覚えのある声がする。

 

 声のする方向に新とシャーリーは振り向いた。

 

 黒いスーツの集団。

 

 異世界に召喚された天童グループの社員、通称『スカウト組』。

 

 その先頭にいるのは180cm程の男、『徳川 将司』

 

 その後ろには、円能寺、赤目、百鬼の姿もある。

 

 「ア"ァ"ン―――!?」

 

 眉間に皺を寄せ新がガンを飛ばす。

 

 穏やかな物腰にどこか力強さを感じさせるビジネスマン―――それが徳川という男。

 

 新はどうにもその感じが気に入らなかった。

 

 自分がバカにされ、下に見られているような感覚があった。

 

 「何の用だよテメェーら!!」

 

 「新様―――」

 「社長、そして進様が不在の今―――」

 「我々を導いて下さるのは貴方に他なりません―――」

 

 徳川は新の前で跪いた。

 

 「なーーんで、俺がアンタらの上に立たにゃならんのだ!!」

 「他当たれ!!他―――!!」

 「天童の血とかって言うなら、キルの嬢ちゃんとかいるだろが!!」

 

 「心様は今や聖女の身―――」

 「それに天童家での優劣を云うのであれば、進様の次は新様なのですよ―――」

 

 年功序列的に言えば、進の次はキルではなく、新ということになるらしい。

 

 「あぁ、そうかい!!」

 「じゃあ、命令してやるよ―――」

 「テメェ等、本日で解散!!かいさーーんッッ!!」

 「下らねェ社会人ごっこがしてェ―なら現実世界に戻ってから嫌って程すりゃいいじゃん!!」

 「俺を巻き込んでんじゃねェーよ!!」

 投げやりな返答でそっぽを向く新。

 

 「新様ッッ―――!!!!」

 

 そんな新に語気を強めて、怒鳴るように徳川は新の名前を呼ぶ。

 

 「進様を元に戻したいのでしょう―――?」

 

 徳川は真剣な眼差しで新を見る。

 

 「・・・・・・・・・・・・。」

 「天童を元に戻せるって云うのかよ―――!?」

 

 治癒魔法でも消えた記憶は戻らなかった。

 

 そもそも、今の進の身体は抜け殻。

 

 闘志も無ければ生きる気力さえない。

 

 空っぽの状態。

 

 「元に戻せる可能性・・・があるというだけです―――」

 

 言葉を続ける徳川―――、しかしその眼は嘘や出まかせを言っているようには見えない。

 

 「ほ、本当かよォ!!」

 

 徳川の肩を掴み、迫る。

 

 「えぇ、本当です。」

 「望みは薄いかもしれないですが、試す価値はあると考えております―――」

 「やる気が出ましたか?」

 

 

 「あぁ、そうだな―――」

 「俄然やる気が出てきたぜ!!」

 

 「では、なっていただけますね?」

 「我々のリーダーに!!」

 

 徳川はニヤリと口元で笑みを浮かべる。

 

 まるで新を試すように―――

 

 「リーダーでも何でもなってやるよ!!」

 「俺の目標が決まったぜ!!」

 「天童を元に戻すッ!!」

 「アイツのいねェー人生なんて退屈だからな!!」

 

 「では、場所を変えてこれからのことについてお話をしましょう――」

 

 

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