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第493話 【傷だらけの英雄】喪失感

 

 なぁ、進、聞こえているか?

 

 苦しみから解放されて、楽になったか?

 

 お前はもう戦わなくていいんだ―――

 

 ゆっくり休むといい。

 

 

 

 "休む"・・・?

 

 オレはまだ戦える。

 

 戦わなきゃいけない。

 

 誰かが苦しんでいる。

 

 誰かが悲しんでいる。

 

 仲間がいる。

 

 未央がいる。

 

 戻らなきゃ―――いけないんだ。

 

 

 

 もう無理だよ。

 

 お前の頭の中にもうお前はいない。

 

 だからお前はもう戻れない―――

 

 父親との最後の勝負の時、お前の人格はお前の身体から死んだ。

 

 

 

 オレは今まで自分が正しいと思ったことをしてきた。

 

 非道なことをする悪人達を裁いてきた。

 

 罪のない人々を傷つける外道だと、オレはこの手で殺してきた。

 

 この手がどれだけ血に染まろうが、それが正しいことだと、間違っていないんだと信じて、ただひたすら殺してきた。

 

 でも、気付いたんだ。

 

 彼らにも未来があったんじゃないか。

 

 彼らにも守るべき人がいたんじゃないか。

 

 彼らの死を嘆く人達がいたんじゃないか。

 

 時々、オレの両腕に纏わりつくような感覚があることに気付いた。

 

 誰かがオレの腕にしがみついて来るんだ。

 

 オレは振り返ると、彼らがいたんだ。

 

 オレが今までこの手で命を奪ってきた人達だ。

 

 彼らは恨めしそうにオレのことを見ていた。

 

 お前もこっちに来いとそう言いたげにずっと掴んでいた。

 

 オレは見ないふりをしてきた。

 

 オレは正しいことをしてきたんだ、正義の為にやってきたんだと。

 

 彼らを見ないようにしてきた・・・。

 

 

 だから戦うのか?

 

 自分の罪から逃れる為に―――

 

 戦うことで楽になろうと思っているのか?

 

 それとも、戦うことそれ自体を"贖罪"にしているのか?

 

 お前は彼らに赦してほしいのか?

 

 

 そう・・・だ・・・。

 

 お前の言う通りだ。

 

 結局、都合が良かったんだ。

 

 こんなことしたって、オレが殺してきた人達やその家族や友人に赦してもらえるハズなんてないのにな。

 

 自分が満足したいだけだったんだよ。

 

 

 オレの人生はここで終わりだ。

 

 終わりなんだ―――

 

 

~聖王国 王都 聖ミラルド~

 

 進と真の二人が闘った後日の聖王国内。

 

 何年も前に死んだとされていた聖王国王家の正統後継者であるウィリアムが生きていることが公表された。

 

 教皇シオルバリスの亡き後、神殿騎士の生き残りを中心にウィリアムを正統の王位継承者として、聖王国を復興する動きが強まった。

 

 勿論、ウィリアムが教皇を殺したことは闇に葬られることになる。

 

 教皇は地下から逃げ出した囚人の一人に殺されたことになった。

 

 幸いなことに教皇の暗殺が行われたのは暗い闇夜の出来事。

 

 目撃者はかなり少なく、神殿騎士第二師団団長ペルダンによって、口封じが行われた。

 

 国内の統一、正統な指導者の台頭。

 

 それがこの聖王国の復興をいち早く行うこととして必要だとされたからだ。

 

 「なぁ・・・聞いたか?」

 「あの噂―――」

 

 「あぁ、勇者様とクロヴィスの英雄様のことだろ。」

 

 「どうやらあの日に現れた囚人達や魔族の襲撃で苦戦を強いられて、二人とも大怪我。」

 「勇者様の方は魔族に捕らえられ、英雄様は口もきけないような廃人になったって話だ。」

 

 「お二人ともお気の毒になぁ。」

 

 「これからこの世界はどうなっていくのやら・・・」

 

 「うむ、どうやら今、ウィリアム様、世界中に呼び掛けているらしい―――」

 「魔族達に対抗する為に人類が一致団結する為に各国の要人と話がしたいと。」

 

 「そうだな―――」

 「勇者様や英雄様以外にも世界には強き者がまだ他にいるだろうしな。」

 

 「あぁ・・・後、見たか?」

 

 「見たって何をさ。」

 

 「何って・・・"例の新しい聖女様"だよ。」

 

 「見たよ!まだ幼いながらにして麗しいお姿だった―――」

 「とても強い眼をしていらっしゃった。」

 「たしか、"キル様"と名乗られたか。」

 

 聖王国ではそんな話が街の至る所で話題にされていた。

 

~亜空間内 魔族の街~

 

 「ぐすっ・・・」

 「リカント様ぁーー!!」

 

 「まさか、本当に亡くなられてしまうなんて・・・」

 

 「リカント様ぁーー!!」

 

 「貴方のような人格者が―――!!」

 

 魔族の街では亡きリカントの弔いが行われていた。

 

 リカントが死んだ。

 

 魔王アリスの息子シンに殺されたことが他の魔族にも伝えられた。

 

 その衝撃の事実が信じられない者が多数だったが、六魔将 エレナの側近ベロニカからの証言であったら、その言葉も信用しない訳にはいかない。

 

 「リカント様・・・」

 「申し訳ございません―――、私がもっと強ければ・・・」

 

 リカントの遺体を前にして、ベロニカは悲しんでいた。

 

 「ベロニカ―――、そんなに自分を責めるんじゃないですよ。」

 

 「ケルベルさん―――?」

 

 そんなベロニカを初老の魔族ケルベルが慰める。

 

 リカントの側近の一人であり、常に冷静な紳士であるケルベル。

 

 リカントとは長い年月共にしてきた友人のような存在であっても、リカントの死には落ち着いている。

 

 「もっと私が強ければ、リカント様だけでなく、御姉様だって!!」

 「ぐすっ―――」

 「う、うわああぁ~~~~~ンン!!!」

 

 包容力のあるケルベルを前にしていつものように冷静を保っていたベロニカもついに押さえつけていた感情が溢れ出てしまった。

 

 

 「リカントさん―――」

 「もっとお話ししたかったのに―――」

 

 未央もポロポロと涙を流して、リカントの遺体に別れの挨拶をしていた。

 

 とても強く優しい人だったと。

 

 出会った時間は短かったかもしれないが、その記憶の一つ一つを思い出していた。

 

 

 あの日、聖王国での一日で失った物が多すぎる―――

 

 

 リカントちゃん、マリーちゃん、サリオスさん、聖王国の人達・・・

 

 そして、進ちゃん―――

 

 

 

 「ねぇ、進ちゃんもリカントさんに別れの挨拶済ませた?」

 

 

 

 「うぅ・・・ア"ア"ァァーーー。」

 

 

 

 苦しそうなうめき声を上げるだけの進。

 

 その眼は虚ろで正気ではない。

 

 口からは涎が垂れている。

 

 もはや立つことすらも出来ず、ベロニカが作った車椅子に腰を据えている。

 

 「ぐすっ―――」

 「うん、じゃあ、行こっか―――!!」

 

 未央は進の乗った車椅子を押して、リカントの葬式を後にする。

 

 

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