第489話 【最後の転移者】仕事の仕事人 六谷 五人 VS 暴虐のアドラメレク②
~神秘の門~
「この世は力こそ正義―――!!」
「どれほど言い訳しようが、どれだけ取り繕おうが、どれだけ媚び諂おうが、己の力だけは嘘をつかない―――」
アドラメレクは思いっきり、地面を殴る。
メキメキと地面はひび割れ、尖った岩肌が現れる。陥没と隆起が交互に起き、地形が変わる。
それだけの腕力。
「力・・・そうっすね。」
「腕力、筋力、体力、魔力、知力、財力、精神力、魅力にはたまた・・・影響力なんてものもある。」
「数えればキリがないっすけど、アンタが力が正義って言うなら話しは簡単だ―――」
「俺とアンタの力―――、どっちがより上か・・・」
「それを証明するだけっす!!」
六谷 VS アドラメレクますますヒートアップする。
「《雷槍》―――」
雷で創った鋭い槍を六谷目掛けて投げていく。
六谷はそれを素早く躱していく。
そして、そんな中、こう思う。
『いつも通りの作業』だと―――
見て躱す、ただそれだけのこと。
相手がどれだけ速く投擲武器を使って来ようとも、それを見て躱すだけ。
それを当たり前にする。
環境に適応する。
「《通常業務》発動!!」
『当たり前の作業を当たり前にこなしていく。』
それが六谷 五人のユニークスキル《通常業務》。
アドラメレクが強敵であるが故に発動する。
六谷の切り札。
防御だけでなく攻撃にも適応できる。
「《6-シックス・ツール》!!」
切断系統の力を持つ巨大なハサミでアドラメレクの片腕を斬り落とす―――
「・・・・!?」
アドラメレクの太い筋肉質の腕はボトっと音を立てて、地面に落ちる。
しかし、アドラメレクとは戦闘の権化。
片腕が落とされようが、痛みで声を上げることなく、残った方の腕で六谷に攻撃を仕掛ける。
バチバチと音を立てる手の平。
即座に電撃の塊を生み出す。
「《電光雪花》!!」
「《6-シックス・ツール》!!」
六谷は持っている武器の形態を魔法特化型に変える。
「黄土魔法:土壁!」
正面に硬い土で出来た壁を出現させ、防御壁として使う。
しかし、アドラメレクにとってそんな壁など簡単に壊せる。
「赤魔法:火炎玉」
六谷は魔法陣から連続的に火球を生み出し、射出。
アドラメレクはそれを受けてもビクともしない。
それなりの火力なのに、火傷一つしない。
「・・・・・腕、拾ってもいいっすよ―――」
「・・・・・。」
六谷のその言葉を受け、アドラメレクとは切断され、地面に落ちた腕を取ろうとする。
「《6-シックス・ツール》!!」
その瞬間、六谷は《6-シックス・ツール》刺突系統の巨大なドライバーに変換する。
伸縮自在、ドライバーを伸ばし、アドラメレクの心臓目掛け、鋭いその先端を放つ。
そんな不意打ちにもアドラメレクは動じることなく、待っていましたと言わんばかりにそのドライバーの先端を握りしめる。
今度は逆にそのドライバーを強く握りしめ、六谷の身体ごと思いっきり投げ飛ばす。
「おっおぉーーっと―――!!」
六谷の細い身体など、簡単に持ち上がり、遠くに飛ばされる。
アドラメレクは落ちた腕をゆっくりと拾い上げる。
そして、その腕を自分の欠損した方の腕にくっつける。
魔族特有の再生能力で、切れた腕は瞬く間に接着、切れる前の状態に戻った。
アドラメレクは走る。六谷が飛んでいった方へと―――
更なる追撃をする為。
しかし、その先―――
アドラメレクの首元にキラリと光る糸が。
アドラメレクの肌に触れ、走った勢いで、糸が肉にめり込み、魔族の血を流させる。
「ッ―――!!」
電撃を纏った手刀でその細い糸を断ち切った。
「トラップとは・・・下らん真似をしてくれる・・・。」
六谷は飛ばされる最中、燃えかけている木の幹と幹の間に細い糸を絡ませていた。
上手くいけば自分の方へと走って来るアドラメレクの身体を切断できると考え。
しかし、そんな小細工この六魔将 アドラメレクの前では意味を成さない。
アドラメレクは体中の電気エネルギーを放出し、辺りの木々を纏めて吹き飛ばした。
「《通常業務》・・・」
そして、まっさらになった平地の先に頭から血を流している六谷が立っていた。
不敵な笑みを浮かべて。
「下らない小細工はもういいのか―――?」
アドラメレクはそう云った。
「そうっすね。」
「もう小細工は必要ないっす―――」
「というか、意味がないっす、それでアンタに勝っても。」
六谷はそう云った。
「意味がないだと・・・?」
アドラメレクは聞き返した。
「アンタはこの魔王軍のトップの一人。」
「そのアンタを小細工で倒したところ、魔王軍の戦意は折れない。」
「寧ろ、もっと怒りの炎を燃やして、こっちに襲い掛かって来ることになるだろう。」
「だから、やり方を変える―――」
「真っ向勝負だ―――」
「アンタと真っ向から殴り合って、アンタに勝つッ!!」
「そうしてこそ―――、力を信仰しているアンタに真っ向から力で勝つことで初めて魔王軍の心を折ることが出来る!!」
「この俺と真っ向勝負で殴り合うだと?」
「ククク・・・ハハハハハハハハハーーーッ!!」
アドラメレクは六谷の前で初めて笑った。
まさか六魔将である自分を前に殴り合うと言い出す者が現れるとは思ってもみなかったからだ。
そして、同時に嬉しくもあった。
久方ぶりにそんな正面からの殴り合いを希望されたことに。
それも自分より劣等の種族だと思っていた人間にだ。
「いいだろう―――」
「受けて立ってやる!!」
そんな中、その会話を聞いていたのか、エルフ族第四位アニーが声を上げる。
「六谷殿―――!!」
「アドラメレクと殴り合っちゃダメだッ!!」
「人間が勝てる相手じゃない!!」
「アニーさん・・・」
「フフ・・・そんなこと言われたら、俄然やる気が出ちまうってものだ―――」
「"勝てるからやる、勝てないからやらない"、"成功するからやる、成功しないからやらない"じゃないんだ。」
「"やりたいからやる!!"―――」
「行動原理なんて、それくらい単純でいいんだよ―――」
六谷は両手を上げ、アドラメレクにゆっくり近寄る。
「フフ・・・この体格差を前にしても怖気づくことがないか。」
アドラメレクは云った。
「この戦闘すら俺にとっては『普通』さ。」
「もう既に適応した―――!!」
六谷はそう返した。
そして、両者は大きく振りかぶる。
まるで、野球の投手が全力でボールを放るように―――
両者の右腕が互いの頬を打ち抜く―――
そんな二人の感覚―――それはある種の心地よさに他ならない。
二人にしか感じることの出来ない世界。